Re: 逆禁じ手指定小説、ってなんじゃそら。 ( No.3 ) |
- 日時: 2011/09/12 00:46
- 名前: 水樹 ID:RsznJW4s
最後の一文を、『そればかりが心残りだ』です。
小心者の私は、待ち合わせ時間よりも三十分以上早く店に着く。照明を落とした落ち着いた雰囲気、耳障りな感じがしないジャズが流れている。一人だと告げるとカウンターの左隅に促される。飲みやすいカクテルを頼み、クラッカーを摘まむ、携帯を開く、これから集まる人達の作品に目を通す。 私なんかが感想を書くのもおこがましい、それぞれ個性溢れる、魅力的な作品だった。そんな人達に期待を膨らませていた。二杯目のカクテルを口に当て、二順目に入った所で彼らは店に入って来た。 予約されていた席に彼らは座った。ここで首を回し確認したい所だがぐっと堪える。 すぐに団欒の声が聞こえてきた。それぞれの創作に対する想いが飛び交う、作風に対する意見を言い合う。お酒も入るとみんなが饒舌になっていた。私も輪の中に入りたい。トイレに行くとメンバーの一人とはち合わせた。私は勇気を振り絞り、 「みなさん楽しそうですね」 と声を掛ける。 「ええ、一風変わった物書きの人達で、私も参加して良かったです」 彼女は笑顔で輪の中に戻って行った。 次はカラオケにいくらしい。小心者の私はただカウンターに居るだけだった。 最後まで言えなかった。私はここにいる、声を出してそれを言いたかった。甘いカクテルでその想いも飲み込む。何だか味気ない、そればかりが心残りだった。
参加出来ないのには理由があった。顔を見られてはいけない。私は参加者の一人、ラトリー様に想いを馳せていた。恋心、愛憎とも自身で受け入れている。私の拙い作品に感想を入れてくれるラトリー様、厳しくとも共に向上してくれたラトリー様。ラトリー様を確認すると、私は彼らの後を付ける。カラオケ店の前でただ立ち尽くす。彼らが歌い終わるのをひたすら待った。私の想いは止まらない、今日という日を逃してはいけない。店から出て来た彼らはまた会う約束をして別れた。ラトリー様は片桐様と同じホテルに泊まるのは確認済み。酔った二人はいともたやすく私の手の内に入る。まずは片桐様を撲殺する。バールを背中に隠しておいて良かった。そしてラトリー様の四肢をへし折り、旅行鞄に詰め込む。 そして苦労の末、ラトリー様を家に招き入れる。 あれ? 激痛のあまり泡を吹いて死んでしまったラトリー様。生きているラトリー様と交流を深めたかったのに。仕方ない、ラトリー様の血肉を喰らって、私の中に取り込もう。一緒にチャットに参加することは無くなったけど、私がラトリー様の名前を使って参加すればいいだけのこと。月に一作ぐらい、ラトリー様の作風を真似すれば、どうにかなるだろう。少々面倒だなと、そればかりが心残りだった。
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