Re: 逆禁じ手指定小説、ってなんじゃそら。 ( No.1 ) |
- 日時: 2011/09/12 00:01
- 名前: 水樹 ID:RsznJW4s
最後の一文を、『そればかりが心残りだ』です。
小心者の私は、待ち合わせ時間よりも三十分以上早く店に着く。照明を落とした落ち着いた雰囲気、耳障りな感じがしないジャズが流れている。一人だと告げるとカウンターの左隅に促される。飲みやすいカクテルを頼み、クラッカーを摘まむ、携帯を開く、これから集まる人達の作品に目を通す。 私なんかが感想を書くのもおこがましい、それぞれ個性溢れる、魅力的な作品だった。そんな人達に期待を膨らませていた。二杯目のカクテルを口に当て、二順目に入った所で彼らは店に入って来た。 予約されていた席に彼らは座った。ここで首を回し確認したい所だがぐっと堪える。 すぐに団欒の声が聞こえてきた。それぞれの創作に対する想いが飛び交う、作風に対する意見を言い合う。お酒も入るとみんなが饒舌になっていた。私も輪の中に入りたい。トイレに行くとメンバーの一人とはち合わせた。私は勇気を振り絞り、 「みなさん楽しそうですね」 と声を掛ける。 「ええ、一風変わった物書きの人達で、私も参加して良かったです」 彼女は笑顔で輪の中に戻って行った。 次はカラオケにいくらしい。小心者の私はただカウンターに居るだけだった。 最後まで言えなかった。私はここにいる、声を出してそれを言いたかった。甘いカクテルでその想いも飲み込む。何だか味気ない、そればかりが心残りだった。
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その想いが届くなら ( No.2 ) |
- 日時: 2011/09/12 00:18
- 名前: 片桐秀和 ID:uhxiIJfU
その永遠に、私は恋をしたのだ。心を貫かれ、少年の頃のように純情に、純粋に。 美しき君の、上半身には隆々とした筋肉が誇らしく震え、完璧な均整をもったマスクと、それを縁どる金色の髪が波打ちを続けている。永遠に――、そう、私という卑小な人間にとっては、まさに永遠の美を称えて。 私は今日も君の姿を見に出かける。君はある長い通りの半ばにいる。昨日と比べ半歩だけ前進したようだ。カタツムリよりも遥かに遅い前進。どこを目指しているのかは私には分からない。私の生涯をかけて君を見守ろうと、それは分かりようもないことなのだ。君の時間と私の時間は、あまりにかけ離れている。十万倍とも、百万倍とも言える時間のズレが、私たちを別ってしまう。 一体世界がなぜ生きとし生けるものの絶対時間を崩したのかは分からない。それはもはや止めようもない破局に世界が向かうためか、それとも、新たな幕開けを目指しているのか。いや、そんなことは私にはどうでもいい事なのだ。私にとっては、今そこに君がおり、君の美が私にとって生涯を掛けて見守り続けても朽ちぬもの、永遠と呼べるものへ昇華されたことにこそ、私はむしろ感謝する。 ある日、どういう理由でか、半裸である場所を目指そうとした君と私の時間の流れがずれた。私の時間が速まったのか、君の時間が遅くなったのか。それは、問うても意味のないことだろう。私はただ、君の道程を毎日観察する。観察してデッサンに収め、君の美に感謝する。そんな日がこれからも続く。 時に私はあまりの慕情に、私のこの熱い思いをどう受けとめてくれるんだ? と己のすべてをさらけ出して問いたくもなる。しかし、その問いかけが君に届くのは、おそらく君の時間の流れの中では何年も先のことであり、かりにそれが届いたところで、一瞬のノイズとしてかろうじてその聴覚が反応するかどうか、という話だろう。 私はだから君を描くのだ。油絵として形に残し、劣化を極限まで抑えた加工をし、それを君の眼前に飾る。 何十年か何百年後かに、君の視覚がそれを捉え、さらに何十年、何百年して君の脳まで情報が伝達され、そして最後に君が、自分を深く愛したものが確かにいたのだと悟ってくれることをただ願う。私がそのとき、もはや一切の痕跡を残していないとしても。
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Re: 逆禁じ手指定小説、ってなんじゃそら。 ( No.3 ) |
- 日時: 2011/09/12 00:46
- 名前: 水樹 ID:RsznJW4s
最後の一文を、『そればかりが心残りだ』です。
小心者の私は、待ち合わせ時間よりも三十分以上早く店に着く。照明を落とした落ち着いた雰囲気、耳障りな感じがしないジャズが流れている。一人だと告げるとカウンターの左隅に促される。飲みやすいカクテルを頼み、クラッカーを摘まむ、携帯を開く、これから集まる人達の作品に目を通す。 私なんかが感想を書くのもおこがましい、それぞれ個性溢れる、魅力的な作品だった。そんな人達に期待を膨らませていた。二杯目のカクテルを口に当て、二順目に入った所で彼らは店に入って来た。 予約されていた席に彼らは座った。ここで首を回し確認したい所だがぐっと堪える。 すぐに団欒の声が聞こえてきた。それぞれの創作に対する想いが飛び交う、作風に対する意見を言い合う。お酒も入るとみんなが饒舌になっていた。私も輪の中に入りたい。トイレに行くとメンバーの一人とはち合わせた。私は勇気を振り絞り、 「みなさん楽しそうですね」 と声を掛ける。 「ええ、一風変わった物書きの人達で、私も参加して良かったです」 彼女は笑顔で輪の中に戻って行った。 次はカラオケにいくらしい。小心者の私はただカウンターに居るだけだった。 最後まで言えなかった。私はここにいる、声を出してそれを言いたかった。甘いカクテルでその想いも飲み込む。何だか味気ない、そればかりが心残りだった。
参加出来ないのには理由があった。顔を見られてはいけない。私は参加者の一人、ラトリー様に想いを馳せていた。恋心、愛憎とも自身で受け入れている。私の拙い作品に感想を入れてくれるラトリー様、厳しくとも共に向上してくれたラトリー様。ラトリー様を確認すると、私は彼らの後を付ける。カラオケ店の前でただ立ち尽くす。彼らが歌い終わるのをひたすら待った。私の想いは止まらない、今日という日を逃してはいけない。店から出て来た彼らはまた会う約束をして別れた。ラトリー様は片桐様と同じホテルに泊まるのは確認済み。酔った二人はいともたやすく私の手の内に入る。まずは片桐様を撲殺する。バールを背中に隠しておいて良かった。そしてラトリー様の四肢をへし折り、旅行鞄に詰め込む。 そして苦労の末、ラトリー様を家に招き入れる。 あれ? 激痛のあまり泡を吹いて死んでしまったラトリー様。生きているラトリー様と交流を深めたかったのに。仕方ない、ラトリー様の血肉を喰らって、私の中に取り込もう。一緒にチャットに参加することは無くなったけど、私がラトリー様の名前を使って参加すればいいだけのこと。月に一作ぐらい、ラトリー様の作風を真似すれば、どうにかなるだろう。少々面倒だなと、そればかりが心残りだった。
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