萌子、変身! ( No.3 ) |
- 日時: 2011/02/27 00:05
- 名前: つとむュー ID:U5J8GXk2
「ねえ、杏子。良かったら私も一緒に働いてみたいんだけど……」 バイトに行こうとしたら、親友の萌子が声をかけてきた。 「えっ?」 私は驚きの声を上げる。というのも、私がバイトしているお店は萌子とは無縁の場所と認識していたからだ。 「本当にいいの? 私のバイト先って知ってるよね?」 「ツンデレカフェでしょ」 そうだ、私はツンデレカフェで働いている。 ツンデレカフェ――初対面の人にはツンツンと素っ気無く振る舞い、常連客にはデレデレと親しくするカフェ。 丸っこい優しいフェイスラインが魅力的な超癒し系の萌子には、程遠い仕事と思っていた。 「萌子。ツンデレカフェがどんな仕事か知ってるよね?」 衣装だけを見て、その憧れで働きたいと言っているんじゃないかと私は疑う。確かにお店の衣装は可愛い。オーソドックスなメイド服だし、萌子がそれを着れば絶対に似合うと思う。でもツンデレカフェのメイドは、それだけではやっていけないのだ。 「知ってるわよ。初対面のお客にはツンツンしなきゃいけないんでしょ」 萌子は真剣な目をしている。 「それが意外と大変なのよ。客の顔を覚えてなきゃいけないし」 私も衣装が可愛いからついバイトを申し込んでしまったのだけど、始めてみて後悔した。まず、お客の顔を覚えなくてはいけない。初めてのお客さんにはキツく振る舞い、常連には優しく接する。そんな当たり前のツンデレを演出するためには、正確にお客の顔を覚えることが必要だ。 「私、そういうのって結構得意だから」 確かに萌子は記憶力はありそうだ。学校の成績だって萌子の方が良い。 「萌子。顔を覚えるだけではダメなの。どの客がどの頻度で来ているのかもチェックしてなきゃならないのよ」 私が働いているお店では、足が遠のいた常連には冷たくするという高度な技が要求される。せっかくデレ状態になったメイドに冷たくされたくないという一心で通いつめる有難いお客さんがいるからだ。 「それくらい、余裕よ」 うーむ、萌子の記憶力なら大丈夫そうだ。私にとっては、客が通う頻度まで覚えるのはとても大変なんだけど。 「それにツンツンするのは結構キツイわよ。性格歪んだって知らないから」 すると萌子はちょっと不安そうな顔をした。 「そうね。でもね、私、それが目的なの。私ってタレ目でいかにも癒し系って顔してるでしょ」 「それが萌子の持ち味じゃないのさ」 「だから嫌なの。なんかバカにされているみたいで。杏子みたいな目力を身につけたいのよ」 えー、私ってそんなに視線がキツイかしら……。 「客にツンツンするだけじゃダメなのよ。変な要求をしてくる客だっているんだから」 すると萌子の顔が曇った。 「えっ? そんなことってあるの」 「あるわよ。この間なんて『私を踏んづけて下さい』って四つんばいになるお客がいたんだから」 「そ、それで、杏子はどうしたの?」 萌子は青ざめながら話を聞く。 「もちろん踏んづけてやったわよ。これでもかってくらい。こっちが調子に乗っていたら相手もつけあがってきて新たな要求をしてきたわ」 「そ、それは、ど、どんな……?」 萌子は震え始めた。 「今度は顔を踏んでくれっていうのよ。だから踏んでやったわ。バッチリぱんつを見られちゃったけどね」 「そ、それは忍耐が必要ね。わかった、やるわ。私、決心した」 さっきの話でどうして萌子が決心したのか不思議だったが、翌週から彼女も一緒のお店で働くことになった。
「あら、あんたも私に踏まれたいの?」 今日も萌子はバイトに励んでいる。超癒し系の萌子が豹変するのが最高との噂が口コミで広がり、萌子を指名するお客が後を絶えない。 「か、顔も踏んで下さいっ!」 「おほほほ、女王様ってお呼びなさい」 おいおい、萌子。あんた、お店を間違えてるわよ。ここはSMカフェじゃないから。それにお客だって下心満載だから。 予期せずして萌子の才能を発掘してしまった私は、そろそろこのお店もやめようかと思い始めた。
-------------------------------------------- またこんなものを書いてしまった…… ツンデレカフェ、行ってみたい。
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