その想いが届くなら ( No.2 ) |
- 日時: 2011/09/12 00:18
- 名前: 片桐秀和 ID:uhxiIJfU
その永遠に、私は恋をしたのだ。心を貫かれ、少年の頃のように純情に、純粋に。 美しき君の、上半身には隆々とした筋肉が誇らしく震え、完璧な均整をもったマスクと、それを縁どる金色の髪が波打ちを続けている。永遠に――、そう、私という卑小な人間にとっては、まさに永遠の美を称えて。 私は今日も君の姿を見に出かける。君はある長い通りの半ばにいる。昨日と比べ半歩だけ前進したようだ。カタツムリよりも遥かに遅い前進。どこを目指しているのかは私には分からない。私の生涯をかけて君を見守ろうと、それは分かりようもないことなのだ。君の時間と私の時間は、あまりにかけ離れている。十万倍とも、百万倍とも言える時間のズレが、私たちを別ってしまう。 一体世界がなぜ生きとし生けるものの絶対時間を崩したのかは分からない。それはもはや止めようもない破局に世界が向かうためか、それとも、新たな幕開けを目指しているのか。いや、そんなことは私にはどうでもいい事なのだ。私にとっては、今そこに君がおり、君の美が私にとって生涯を掛けて見守り続けても朽ちぬもの、永遠と呼べるものへ昇華されたことにこそ、私はむしろ感謝する。 ある日、どういう理由でか、半裸である場所を目指そうとした君と私の時間の流れがずれた。私の時間が速まったのか、君の時間が遅くなったのか。それは、問うても意味のないことだろう。私はただ、君の道程を毎日観察する。観察してデッサンに収め、君の美に感謝する。そんな日がこれからも続く。 時に私はあまりの慕情に、私のこの熱い思いをどう受けとめてくれるんだ? と己のすべてをさらけ出して問いたくもなる。しかし、その問いかけが君に届くのは、おそらく君の時間の流れの中では何年も先のことであり、かりにそれが届いたところで、一瞬のノイズとしてかろうじてその聴覚が反応するかどうか、という話だろう。 私はだから君を描くのだ。油絵として形に残し、劣化を極限まで抑えた加工をし、それを君の眼前に飾る。 何十年か何百年後かに、君の視覚がそれを捉え、さらに何十年、何百年して君の脳まで情報が伝達され、そして最後に君が、自分を深く愛したものが確かにいたのだと悟ってくれることをただ願う。私がそのとき、もはや一切の痕跡を残していないとしても。
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