でぃえんびえんふー ( No.2 ) |
- 日時: 2011/01/31 00:12
- 名前: 弥田 ID:62PFV7lE
ぼくが缶詰を開けているあいだ、キミはがこんつ、がこんつ、と音をたてながら林檎にかぶりついていた。缶切りはゆっくりと丸い蓋を切り取っていき、完璧に近かった円はぎざぎざと美しく欠けていく。ふちは獣の牙にも似て、いまにもぼくの指へと噛みついてきそうだ。 「でぃえんびえんふー」 とキミは言った。取り落とした林檎は床に叩きつけられ、果汁が散って舞った。腐ったような甘い匂いがふんわり香った。同じ匂いを口からまき散らしながら、キミは声高に宣言する。 「私は彼女を絞殺しました。それから、彼女を小さくコマ切りにし、そのようにして私の肉を私の部屋に運び入れました。調理し、食べました。オーブンで焼いた彼女の小さなお尻の、なんて甘美で柔らかだったことでしょうか。彼女の全部を食べるのに9日間要しました。私が望むなら彼女をレイプできましたが、それは行いませんでした。彼女は処女のまま天に召されたのです」 いちど言葉をとめ、ふむ、とうなずいたキミは、もう一度同じ言葉を反復する。 「私が望むなら彼女をレイプできましたが、それは行いませんでした。彼女は処女のまま天に召されたのです」 それから床の林檎を拾って、再びがこんつ、囓りつくと、嬉しげに言った。 「私が望むなら、か。うん、なかなかいいね。とてもいい。私が望むなら。あはは」 がこんつ。 「でぃえんびえんふー」 缶切りが一周し、蓋が開いた。中には少女のヴァギナが、開きかけの花のごとく、ひっそりと咲いている。ぽっかりと穴が空いていて、暗闇は宇宙のごとく。中からは腐ったような甘い匂いが、ふんわりと、ふんわりと、漂ってくる。 「なんだい、その、でぃえんびえんふー、というのは」 ぼくが聞けば、キミは宙を見据えながら、ぎこちない口調で説明してくれる。 「ふらんす」 「フランスの街なのかい?」 「ちがう。べとなむ」 「……ベトナムの街なのかい?」 「大まかにいえば」 「なるほど」 窓をあければ、夜。外はさっぱりと晴れていて、冷たい月光と、星座の幾何学紋様とが、遠い世界の太陽を笑っている。あはは、あはは、と笑っている。 がこんつ。 ふんわり。 あはは。 がこんつ。 ふんわり。 あはは。 「メランコリック、オシロスコープ、セルロース。これら三つの違い、あなたはわかるかな?」 声がして、気がつけばキミが横に立っている。耳元でささやかれる。声は腐ったように甘い匂いで、耳からぼくの頭蓋へと侵入し、のうずいをここちよく浸す。 「でぃえんびえんふーは革命の街だ。非力な生命の、暴力への反抗の叫びだ。そこにはなにひとつ意味がなく、だからこそ唯一のごとく尊い」 キミはぼくの頬に唇をおしつけ、その柔らかい感触は心臓のとろける体温にも近い。 下腹があつくなっていく。ぼくが笑い、キミが笑った。 「でぃえんびえんふー」 「でぃえんびえんふー」 がこんつ。 ふんわり。 あはは。 つまりはそういう夜だった。
--- でぃえんびえんふー、と言いたかった。それだけです。 あととちゅうのセリフ、引用元明記しておきます。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5
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