Re: みんなで書けば怖くない! 中二病イベント開催します! ( No.1 ) |
- 日時: 2012/10/05 01:01
- 名前: きか ID:UY9u2DH6
今日さと子から電話があった。 「ねえ、りゅーちゃん、ちゃん、と、聞いて、る?」 ここ最近、携帯しっぱなしで充電切れ気味。残量がとても気になる携帯から流れるさと子の声は、涙とすすり声でぐちゃぐちゃで、なんつーか、正直異常に聞き取りにくい。 「ああ、聞いてるって。」 分けわかんなくても、とりあえずそう返事して、バイト先で休憩時間はまだ大丈夫かと、横目で時計見ながら確認する。 「でね、耳ちゃんが。」 「死んだんだろ? 誤っておまえが水つけてさ。」 何度も聞かされてようやく聞き取れた内容を、同じことを聞かされる前に口に出す。 俺のその言葉に、ひどいっ、りゅーちゃんのばかぁ、携帯から流れるさと子の泣き声が一層酷くなる。 二十歳過ぎた人間が電話越しに聞こえるくらい大声出して泣き叫ぶなよ。 罪悪感を誤魔化しながら、心の中でそうとりあえず突っ込んで、これまでにさと子から聞き取れたことを頭の中でまとめてみた。 えーっと、さと子が飼っていた耳ちゃんが死んで、耳ちゃんが死んだのはさと子がお風呂に入れようとして水の中に浸けてしまったからで、耳ちゃんって名前なのは耳が少し買う前から齧られていたからで、耳ちゃんはとても可愛かった、と。 「んで、耳ちゃんって、ところで何?」 馬鹿な俺の頭では、結局いまいち理解できない。 「さっきから、あた、しが、ずっと、言ってた、のに、りゅーちゃん、わかっ、て……。」 まあ、けど、こんな風に喋られたんじゃ、いつまでたっても埒があかない。しかも何と言ったって、制限時間は限られているし、携帯の充電残量もぶっちゃけぼちぼちやばいんじゃないかと。 「わかったわかった。大丈夫、俺にもちゃんとわかってるって。耳ちゃんは耳ちゃんだよな。でさ、さと子は俺に何の用だったの?もうそろそろ休憩時間が終わるから、俺、レジに戻んないとまずいんだけど。」 「……。」 「時間ヤバいんだから早く言えって。」 時計を気にしながら、黙ったままのさと子を急かす。 それからさらにしばらく続いた沈黙を、俺がイライラした思いで待つことに耐えきれなくなった頃、さと子はゆっくりと口を開いた。 「……おうちに、きて。」 あほかおまえは。 言い出しかけたその言葉を、俺は寸前でくい止める。 「なあ、さとっち。俺は今バイト中で、財布の中身もジリ貧よ?これから生きてゆくために、働かざるもの食うべからず。ない袖は振れぬ。武士は食わねど高楊枝。えーっと、他に何かあったかな?まあ、いいや、そんなことは置いといて。ここは俺の生命線なの。バイト抜けろってことはつまり、俺に死ねって言ってるのと同じ意味なの。 ……理解できる?」 「……りゅーちゃんは、耳ちゃんよりも、あたしよりも、バイト取るんだ。」 わかってねえ! 俺は思わず、頭を掻き毟りたくなる。 「さとっち、よく考えようよ。お金がないと、俺は生きてゆけないよー?」 そういう俺に、さと子は答える。 「お金があっても愛がなくちゃ一緒だよ、りゅーちゃん。」 さと子のその言葉に、でも、愛でお腹は膨れないだろ、と心の中で小さく呟く。 実は時間もマジやばいくらいで、竜平はまだかという声が、聞こえていたりいなかったり。 「……ごめん。悪いけど、ほんと今は無理。バイト終わったら連絡するから。」 「……。」 さと子は何か言っていたみたいだったけどどうしようもなくて、無理やりそのまま通話を切ると、すみません、腹が痛くてー、と誤魔化しながら、バイト先に戻る。 おまえの代わりなんていくらでもいるんだぞ、という代わり映えのしない店長の脅し文句に、すみませんでした、とへらへら媚びた笑みを浮かべながら、こんなとこに好んで働きに来る奴なんてそうそういねえよ、と小さく毒を吐き、俺は本音が言えるところが心の中だけしかねえのかよ、とこれもやはり心の中で小さく自分に突っ込みを入れる。 仕事の合間に見上げた時計の針は、就業時間までにはまだまだ遠くて、バイトが終わるまでには十分すぎるほどの時間が残ってる。かったるいなあ、と小さくため息をつくとともに、無理やり切った電話先の、さと子のことが少しだけ気に掛かった。
バイトが終わって日が暮れて、真っ暗な道なりを歩きながら、俺は最新機種のスマートフォンの液晶に触れる。けど、画面の中はいつまでたっても真っ暗で、げっ、やべえ、充電切れかよ、さと子の怒った姿が眼に浮かぶ。 とりあえず機嫌取ろうと、自分の食欲を満たすのも合わさって、財布の中のなけなしのお金をふりはたいてコンビニで肉まんを買い、さと子のとこまでの家路を急ぐ。 さと子と俺の付き合いは長い。初めて会ったとき、お互いの同じような馬鹿さ加減が気に入って、その場の勢いもあって、つきあおっか、ってな話になったのだった。 付き合ってみると、マジでさと子は馬鹿だった。さと子も俺を本物の馬鹿だと言う。馬鹿同士で丁度いいじゃんとお互いを貶しあって、大抵の場合、うやむやのうちに幕が落ちる。 電話もできなかったし、さと子は怒ってんだろうなー、と俺は思う。ありえないけど、バイトを早退して、傍にいてやった方が良かっただろうか? けど、そもそも、さと子がお嬢過ぎるのがいけないんだ、と俺は自分に言い訳をする。危ないからバイトは駄目で、これまで刃物なんて握ったことすらなくて、包丁が怖くて悲鳴あげたり、お金が足りなくなるとその度に親が仕送りしてくれて、住んでるところだけでさえ、俺より三つぐらいグレード高くて。 なんだよそれ、と行き場のない憤りを覚える。 馬鹿は馬鹿でも、さと子のは世間知らずのお嬢様であるとも分類されて、俺の庶民性溢れた真性の馬鹿とはちょっと違うのかもしれないと思えてしまう。 そしてそれを勝手に悲しいと感じる俺も、大概のあほなんだろうなー、とよく考える。 白い息を吐きながらさと子の家にたどり着くと、外は真っ暗だと言うのに家の電気も点いてなくて、チャイム鳴らしても出やしない。 仕方なく、貰っていた合鍵でガチャガチャとドアの鍵を開け、中に入る。真っ暗闇の部屋真ん中には、座り込んだまま動かない、涙で化粧も崩れぐしゃぐしゃになったさと子の顔があって、見るも無残な姿のさと子は、そのままの格好で、りゅーちゃんの馬鹿、とこちらを見て呟いた。 俺はそれを見て少しだけ笑う。 さと子はますます怒ったようになって、わらわないで、と少し大きな声を出す。 俺はそれに答えず、肉まん食べる?と、さと子に尋ねた。 「……いらない。」 俺は、そう、と呟くと、自分の分を口に含む。 「……りゅーちゃん、どうしてすぐ、あたしのところに来てくれなかったの?」 俺はさと子見ず、冷蔵庫から勝手に牛乳を取り出すと、コップに注ぎながら、さと子に言った。 「バイトだって言ったじゃん。」 「バイトだからって、来れないことにはならないでしょう?」 「来れないよ、だからそう言ってんの。」 いつの間にやってきたのか、まるで俺の手から引き剥がすように、さと子は牛乳の入ったコップを奪いさる。 「いつだってそう。りゅーちゃんは無神経だよ。あたしが耳ちゃん死んで、こんなに傷ついているのに、一人だけ横で、むしゃむしゃと肉まん食べて、人のうちの牛乳、勝手に飲んで。」 「おまえ食べないって言ったじゃん。」 勝手に牛乳飲んだのはわるかったかもしれないけど、俺がそう言うと、さと子は、そんなんじゃないの、と言葉を続ける。 「耳ちゃんが死んで、あたしこんなに泣いてるんだよ。普通、彼氏とかならなぐさめようとするでしょう?」 「そうなの?」 俺は呟く。 「そうなの。」 さと子は強調する。 「耳ちゃんが死んだって言っているのに、電話とかも一方的に切って、それからずっと繋がらないし、電話掛けてくれるって言ったのに、ぜんぜん電話もくれないし、あたしがりゅーちゃんがここに来るまでどんな気持ちだったか、りゅーちゃんにはきっとわからないんだよ。」 だから、と俺はやっぱり心の中で弁解する。 俺はバイト中で携帯は充電切れてて、俺は耳ちゃんの存在自体知らなくて、てか、耳ちゃんが何の動物かも知らないのにかわいそうって感想抱くも何もって感じで、お腹減ったらご飯食べないと生きてゆけないし、俺がいつ何処で俺の金で何買って何食おうが俺の勝手で。 つらつらとそんなことを考えている間に、さと子は最低……、と呟いてまた泣き出す。 さと子は泣いて。俺は空腹で。さと子は俺の都合なんていつも考えなくて。さと子の泣き顔なんて見たくないし、そんなことしてるつもりはないのに、俺はいつだってさと子の中で悪者で。 なんだよ、と俺は思う。 なんだよ、自分だけがいつも悲劇の主人公で、俺はいつも悪役ばっかかよ。 俺だってそこそこ大変で、それなりに苦労して、自分なりに色々一生懸命やってるつもりで。なのに、結局言われるのは、さいてー、の一言で。さと子は俺の前でずっと泣いてて。 なんなんだよ、と俺は思う。 俺は黙ったまま玄関に向かい、靴を履き始める。俺の突然の行動にびっくりしたのか、泣きながらも驚いた顔で、さと子が、りゅーちゃんどこにいくの、と尋ねてくる。 何に対してだかよくわからない苛立ちをぶつけるように、さと子に、しらないよ、と吐き捨てると、白い息が流れてゆく、月も見えない、寒い夜空の下に出た。 目の前に見えた銀行のキャッシュコーナーで、八つ当たり気味に、なけなしの預金を全部引き出そうとしたら、すでに取扱時間まで過ぎていて、近場にはコンビニもないし、薄っぺらな財布の中身に、こんなんばっかでやってられっか、と良く分からない苛立ちがなおさら増して、足の向くまま目につく道を突き進む。 しばらく夢中で歩き続けていたら、冬の空気に身体が凍えて何だか空しい気持ちになり、街で輝くネオンの光と、店から漏れ流れるメロディを耳にしながら、レンタルCDショップにでも行って、憂さを晴らすかと俺は思う。栄養失調の痩せた財布じゃ、ゲーセンにだって行けやしない。 でも、たどり着いた店の中、気になっていたはずの新曲のジャケットを眺めていても、浮かぶのはさと子の泣き顔だけで、こんなとこまでついてくるなよ、そんな感じの情けなさが抜けないまま、つらつらと歩いた店の中の一角の、とある文字が目に付いて、俺は不意に立ち止まる。 しばらくじっと考えて、数多いその中から、適当なものを一つだけ抜き出すと、初めから借りると決めていた新曲のアルバムとともに、レジに向かう。 六百三十円です、商品を袋に入れながら俺に呼びかけるレジ打ちのお姉さんの声に財布を開くと、予想に反して明らかにお金が足りなくて、俺はすみません、とお姉さんに頼んだ。 「……すいません。新曲の方、抜いてもらっていいですか?」 お姉さんは面倒そうな顔で俺を見て、別にいいですけど……、と呟きながら、その分だけ値段を安くしてくれてゆく。俺はマジすいません、ともう一度謝って、結局予定に反した物で膨らんだその店の袋を持って、ここまで来た道をさと子の家まで長い道を辿って行った。 さと子の家に着くとドアが開いたままだったんで、勝手に家の中に入ってゆく。さと子、いないの、と呼びかけたら、りゅーちゃん、と鼻づまりした声で呼ぶのが聞こえて、暗闇の中の何処にいるのかと見回した瞬間、さと子に急に抱きつかれる。 「何度も電話したんだよ、でもずっとおんなじように電源が切れてるっていわれるし……。 ……あのままもう戻ってこないかと思った。」 俺の耳元でそう呟くさと子に 「ばーか。」 多少の照れを隠しながらそう言って、小声でごめん、と謝ってみる。 「馬鹿はりゅーちゃんだよ」 さと子も俺にそう言って、ごめん、と呟くのがすぐ傍で聞こえた。
さと子にぐしゃぐしゃになったままの顔を洗うように言い、それが終わると姿勢を正してベットに座らせ、俺はやたらと立派なオーディオ機器をいじくりだす。 りゅーちゃん、何をしてるの、と尋ねてくるさと子に、今から曲を流すんだよ、と答えながら、設置完了、準備万端、今度は自分のために声に出した。 再生ボタンを押した先に流れ出した曲は、聴いたこともないクラシックで、こんなもんだよな、と俺は頷く。 「何の曲?」 「さあ?」 「知らないのに、何でこんな曲聞こうって言ったの?」 さと子が呆れた顔をしてそう尋ねてくるもんだから、 「レクイエムって書いてあったから、即席の葬式に丁度いいかと思って。」 と多少むっとしながらそう答える。 「葬式?」 「ああ。耳ちゃんの葬式。出してやらなきゃかわいそうだろ?さと子が可愛がっていたんだったらさ。」 さと子は驚いたように俺を見て、そっか、葬式かぁ、と小さく呟いた。 しばらく二人とも黙り込む。 「……死んじゃった耳ちゃんも、天国では元気にしてるのかな?」 少し時間が経ってからそう尋ねてくるさと子に、さあ?動物の天国がどんなかなんてしらないけど、と俺は前置きして 「でも、いけんじゃないの?」 とそう続ける。 さと子もそうだね、と泣きはらした目で俺を見て、ようやく少しだけ笑う。それでようやく、俺は久し振りにさと子の笑顔を見た気になった。 明日はバイトが休みだから、明日になって明るくなったら、公園まで埋めに行こう。んで、そこら辺の花摘んで、天国で幸せそうに耳ちゃんがやってけるようにって一緒に祈ろう。それでいいじゃん。さと子に悪気はなかったんだし、きっと、それで耳ちゃんも許してくれるよ、と俺が続けると、うん、と頷いてさと子とはまた泣き始める。だから俺は、さと子の隣にじっと座って、黙って彼女の頭を抱いていた。 流れ続ける音楽は陰気で、バイト後の俺の身体もへとへとで、場の雰囲気がつかめないと評判の俺は、正直眠くてたまらなかったんだけれど、さと子が泣き疲れて眠るまでは起きていて、傍にいたいとそう思った。 いつかさと子は、俺より頭がよくて金持ちで、顔も良くて性格も良くて、欠点のない理想的な王子様のような男に出会い、笑って手を振りながら、俺にバイバイというのかもしれない。 クリスマスプレゼントを買うために貯めていたお金を、むしゃくしゃして勢いだけで使いきろうとするような、欠点だらけの俺だから、それはきっと仕方のないことなのだろう。 ……だけど。 今、さと子は俺の手の触れられる場所にいる。 だから今は、それでいいじゃん、とそう思った。 どうあろうといつかなんて結局、本当に来るかどうかも分からない、先の見えないいつかのことで、この関係がこれからどうなるかなんてわからないけど、些細なことで喧嘩したり、お互いを傷つけてしまっても、最後にはさと子に笑顔を向けられる、そんな人間でいたいな、と。 なんとなく、泣き続けるさと子を眺めながら、そんなことを考え続けた。
了
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感想です ( No.2 ) |
- 日時: 2012/10/05 21:18
- 名前: 朝陽遥(HAL) ID:JdfDenEE
- 参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/
うおお、きかさんだー! ……おっと、こほん。こちらでは初めましてになりますね。このたびはご参加ありがとうございますー!(営業用)
ところでこれ、いったいどの辺が中二なんでしょうか……?(賛辞)……っと、中二の定義はきっちり決めないといったのはわたしなので、返信無用。恥ずかしいポイントを詳細に自己分析して説明しろとは申しません。
二人の感覚のズレが、うわあいいなあーと思います。この、言葉が通じるのに通じない感じ。生活、金銭に対する意識の違いって、何気にすごい大きな壁ですよね。 彼らの未熟さ、大人になりきれなさがいいです。さと子ちゃんもかなり子供っぽいというか、たいがい自分本位なんだけど(半分は世間知らずのためかな)、それに苛立っている主人公の、腹の立て方がいいです。さりげない描写から、彼の気の優しいところがちゃんとこっちに伝わってくるんだけど、その優しさが、大人の包容力というような器用な優しさじゃなくって、そこがいいなと思います。怒ってはいても、一方では罪悪感を持ってもいて、そういうむしゃくしゃを、なあなあにごまかして流してしまえないところ。若いって、いい……。
ところで、けっきょく耳ちゃんは何だったんでしょうか……まさかのホラー展開(異常な生物とか人間とか)かと思って、途中けっこうどきどきしながら読んでました……気になります。読み手的には、さと子ちゃんが不注意で死なせちゃったっていう事実の重さが、そこでけっこう変わってくると思うんですが……!
それにしても、あいかわらずの美文と描写力に嫉妬。(知ってたけどさ……) 執筆おつかれさまでした! ひとり三作まで投稿可なので、年末までに気が向いたらまたぜひどうぞー!
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心のどこかにフランス人を ( No.3 ) |
- 日時: 2012/10/07 09:29
- 名前: 無線不通 ID:oqA9/gMY
はじまりはゴールデンウィークだったと思う。でも実は父の中では会社に行きたくないとか、生きる意味が見出せないとか、生活に興味がもてないとか、そういう気分が真冬の夜にしんしんと降り続ける雪の様に心の中に積もっていて、五月の初めになって身動きできなくなるほどの量になっただけなのかも知れないが、それはわたしには解らない。とにかく、父がどうかしている、とわたしが気付けたのは五月の初めだった。 わたしと妹と妹の友達のサツキちゃんは、父に遊園地に連れて行ってもらった。こどもの日のことだった。わたしはもう十六歳で、もはや、ジェットコースターで早く動いたからってキャーとかフリーフォールで高いところから低いところに落ちてワーとかはしゃぎ倒す年でもなかったが、まだ中学生でケータイに猫のヌイグルミを付けている妹とサツキちゃんは絶叫マシン以外でもギャーとかヒャーとか、ひどい時はジュースをちょっとこぼしただけで悲鳴を上げて、直後に爆笑していた。わたしはそんな2人にくっついてアトラクションに乗り、父はわたしたちのSPのように少し離れて後をついてきていた。 ここまではなんともなかった。 少なくとも表面上は。 帰る段になって、父が車の鍵を車の中に入れたままロックしていた事が発覚した。わたしはそうでもなかったが、妹とサツキちゃんはすっかり遊びつかれていて、その上、車を駐車した位置を誰一人憶えていなかったから、広い駐車場を30分以上歩いて不機嫌になりつつあった。父はわたしたちのご機嫌伺いをするほど親馬鹿でも子煩悩でもなかったし、なにがあっても泰然とした態度を崩さない人だったが、この時は少し慌てているようだった。ドアノブを何度も引っ張ったり、窓に掌を押し付けて下ろそうとしていた。よその子供を預かっているから時間を気にしているのかな、と思った。 「こういう時ってどうするの?」 とわたし。 「うん。大したことはない。要はドアを開ければいいのだ」 父はこちらを見ず、運転席の下に落ちている鍵に視線をやったまま言った。 しかし、それが出来なくて困っているのだ。 「業者さんとか呼んだら?」 「ダメだ。やつらは暗黒パワーに心を支配されている」 「は?」 「業者は暗黒パワーで洗脳されているからダメなんだ」 「うん? ごめんなに? あんこく?」 わたしは聞き間違いであることを願いつつ、聞き返した。 「しっ。何度も言わせるな。やつらはすぐそこに隠れているんだ……盗聴されているかもしれない」 「お父さん?」 父はわたしを無視して駐車場の外れの方まで行って何かを拾い上げて戻ってきた。大きな石だった。 「お父さん?」 また無視されてちょっと傷付いていると、 「こおおお……」 石を持った腕を上げ、それからゆっくりと下ろし、肘を九十度に曲げて右手を反時計回り、左手は時計回りの円を描き始めた。 「ちょっとお父さん?」 「ひゅぅううう……」 父はなおも胡散臭いヒッピー白人がやる太極拳のような動きを続けた。例え泥酔していても、いくら頭の打ち所が悪くても絶対にわたしの父はこの手の冗談なんてやらない。ということは……。 そこでわたしはにわかに戦慄した。 発狂だ! 狂った! お父さんが狂った! わたしは急いで唖然として立ち尽くしているとサツキちゃんの前に立ちはだかって視界を遮った。狂った父をこれ以上見てショックを受けないように。直後、「ハアアッ!」 という裂帛の気合とともに硬い物が砕ける大きな音がした。振り返ってみると、父は石をゴトリと落とし、ガラスがとんどなくなった窓に手を入れロックを外していた。
とにかく帰らないといけないのでわたしたちは車に乗った。最初は少し引いていたが妹とサツキちゃんは車が走り出してしばらくすると眠っていた。 夕暮れ時の風に激しく吹かれながら(窓がないから) 父は順調ハイウェイを飛ばしていた。その横顔は、いつもと変わらない冷静な父のものだった。さっきのはいったいなんだったのか。16年間知らなかった父の隠れた一面が表に現れたに過ぎないのか。うん、多分そうだ。そういうことにしておこう……。ショッキングかつ早く忘れたい光景だったのでわたしは目を閉じて眠る体制を整えたが、 「佳那」 待っていたかのように父がわたしを呼ぶ。これから言うことは重要だぞ、とでも言いたげな改まった声音で。わたしは返事が出来なかった。父のそんな声ははじめて聞いた。 「お父さんな、サイボーグなんだ」 「ちょっと待って」 わたしはペットボトルをホルダーから取って一口飲んだ後、目を閉じて3秒数えた。目に映る車内の様子はなにもかも変わっていなかった。車は100キロちょうどで走行し、車窓の景色もほとんど同じだ。 再び父が口を開く。 「母さんがなくなって少ししたある日、世界征服を目論む秘密組織、黒幻団<ブラック・ファントマ> に拉致された父さんは、やつらの人体改造実験に試験体にされた。どんな改造をされたのか、お父さんは気絶していたから解らなかったし、体を確認しても見たところ前とほとんど変わらないようだったから誰にも言わずにいた……。だが追い詰められて記憶が蘇った」 「追い詰められたって、さっきの鍵を閉じこめた事?」 「ああ。佳那も見ただろう。お父さんの拳が光り輝くのを。そしてすべてを破壊し尽くすのを」 「……」 「あれが俺に与えられた能力なんだ。輝石拳<シャイニングストーンクラブ> 破壊だけが存在理由の呪われた拳……」 「……」 「一度発動すれば世界を壊滅させるまで止まらない。あるいは宇宙すら……」 「……」 わたしはエンジンの音だけを聞くようにして、これからのことを考え始めていた。 どうしたらいいのだろう。まず病院だろうか。そうだとして、何病院の何科なんだろう。こんなんでは仕事なんて出来ないだろうから、わたしは学校を辞めて働いたり、下手をしたら売春などをして家計を支えなければならないかもしれない。あまりにも嫌すぎるが、しかし現実とはそうしたもので、父が狂ったのも妻(わたしのおかあさん) が急死したり、それでも毎日朝から晩まで働いたり、なのに思ったよりお金が貯まらなかったりとか他にもさまざまな気掛かりが途切れなく付いて来て、ついに気違いになったのかもしれない。わたしはまだそんな風になるほど長く生きていないし苦労もしてないからわからないが、きっとそんなもんなんだろう。それが時代……。違うのかもしれないが、時代とかそういう手に負えないことに責任の所在をおいておかないと、わたしの気掛かりが増える。 「佳那、聞いているのか」 「うん」 ほんとはあまり聞いてないが。 「お前と由貴にはこれから教えなくてはいけないことが山ほどある。そう、来るべきバースト・ゾーンに備えて……」 お父さんはずっと世界の危機についてベラベラ喋りまくっていたが別にどうでもいいので聞かなかった。
サツキちゃんはしっかり家に届け、わたしたちも無事帰宅できた。父に隠れて親戚に電話をかけて事情を話すと、朝一番でこちらに来てくれることになった。弟が悪の組織にさらわれてサイボーグとなり、全てを破壊しつくすまで荒れ狂う悪魔の右腕を移植されたと真顔で告白した。と聞かされれば駆けつけたくなるのも無理はない。わたしからすればありがたい話だが。 居間に戻ると、そこでは暗黒パワーに侵された人間とそうでない人々を識別する方法を次女に熱心に教える父がいた。 「靴の汚れで大体は解る。普通の人間つま先がこう、筋を引いたように泥が付いているが、黒幻団<ブラック・ファントマ> やつらは踵が汚れていてつま先はピカピカだ。それに気付けるかどうかが、寿命の長短に直結する。お前は若く美しい。もし捕まったらバグシーシ山下顔負けのハードコア前衛性的暴行をされた上、女サイボーグとしてお父さんと同じような運命を送ることになるんだ。だから歩くときは人のつま先を見ろ。わかったな」 妹は頷きながらも、おびえた目で父を見ていた。 「お父さん、今日はもう寝たら」 とわたし。「疲れてない?」 父はわたしの言葉に不意を突かれたような顔を見せた。 「眠る……眠るか。しかしこれ以上暗黒の中に留まるのはいかがなものかな。昨日だって、休みをいいことに9時間も寝たのに……しかし案外、いや、やはりと言うか。そこに鍵が隠されているのか」 ふっ、と自嘲的に笑っている隙に妹の手を引いて部屋に連れて来た。 「お父さん、どうしたの?」 「うん、ちょっと発狂した」 「はっ?」 「大丈夫。明日朝一で叔父さんとお父さん連れて病院行くから」 「……」 妹は何か言いたそうにしている。この子はわたしに似てドライな性格だがさすがに父親が発狂したと伝えられて平静でいられるほど精神力が強くない。 「大丈夫だよ。すぐ治るんだから」 根拠なく言うわたしの声は揺ぎ無かった。わたしは嘘が上手い。履歴書の自己PRには書けないだろうけど。 これで少しは安心するかなと思ったが、 「ククク……ついに始まりおったか」 妹は薄く笑ってそういった。 「あ?」 「ようやく父上も前世の記憶が戻ったと見える。古より定められた約束の日が近づいておるというのに覚醒の兆しがちっとも認められぬので少々肝を冷やしたわ」 「由貴?」 「ククク……もはやその名は要らんわ……。我の名は、マギリッド・ハーシェル・ユキアメデス。闇を食う闇を食う闇。全ての闇の頂点たる闇の女王よ……」 「由貴?」 「ククク……姉上も早くかりそめの記憶から醒めるがいい。裁きの日は近い……」 「由貴?」 「我が名はマギリッド・ハーシェル・ユキアメデス……」 「違うでしょ。高橋由貴でしょ」 「ククク……あの娘ならもう用済みじゃったから闇と混沌への生贄としてやったわ。まあほんの前菜に過ぎぬがな」 「……」 「なんだその顔は……おっと、覚醒した予のオーラにあてられたか。お前にはまだちと早すぎるようだな……。しかし待ち遠しいぞ、再びお前と殺戮と狂乱の季節を巡る事が出来るのだからな。思えば我一族は有史以前からこの星をせ」 わたしは無視してドアを閉じた。 あーあ、って感じだった。 二人分の病院代がいくらになるのだろうか。どんな学校が妹を受け入れてくれるのか。リハビリの先生は妹にいやらしい悪戯したり黒ミサの方法が載ってる本を与えたりしないだろうか。温暖化現象がもたらす害はどのようなものになるのか。地球の自転はあと何回で止まるのか。 わたしは考えるのをやめて自室のベッドに腰を下ろし、横向きに倒れてそのまま気絶することにした。 目覚めたとき、私の頭はちゃんとおかしくなっているのだろうか。 叔父が私たち一家を三人まとめて病院に連れて行くところを想像しながら私は眠りについた。
※
中二病という言葉を私が最初に耳にしたのは、恐らくですが15、6年ほど前、伊集院光の深夜ラジオ番組だったと思います。 当時の私は中学生(今にして思うと、深夜にAMを聴くのも中二病の症状のひとつかも知れません)で、まさに中二病まっさかり。同属嫌悪でしょうか、『中学生日記』 や『真剣十代しゃべりば』 を見てはNHKのビルに放火する計画を立て、「昨日の『金八』観た?」 と友達に訊かれれば、聞こえないふりをしたり、同世代の人間が人を殺せば「断頭して校門に置く、か……。やるねえ」 等と思いながら熱心にニュースを見たり、家で中段蹴りの練習をしたり、髪をセンターで分けたり、上級生に殴られれば相手の自宅住所を調べて待ち伏せして襲撃しようとして怖くなって止めたり、放送部が給食の時間にかける日本のポップスを軽蔑したり(でも尾崎豊は嫌いになれなかったり)、全校集会で生徒会長かなんかが「我々生徒一同は」 みたいな事を言えば「誰が我々だ」 と舌打ちをして、全方位に念力を放射し、みんなの脳の血管を破裂させようとしていました(スキャナーズ)。 つまり私は典型的(男女で症状に差があると思いますが) な中二病を発症していたのです。しかも頭が悪い。 自覚できるようになったのは15の時だったと思います。 「こうやって大人になっていくのだな……。きっと10年位したら、休みの日にはガキとヨメとジャスコで買い物したりするんだな、まあそれもいいか。あーあ……」とそのときは思いましたが、そうはなりませんでした。 十代後半、二十代の半ばに至っても、あまり改善が見られないことに気付き徐々に不安になってきました。 何もかもつまらないし(これは自分が退屈な人間であることが原因だと後に気付いた)、毎日のように誰かの死を願ったり、協調性が必要とされる場面を全力で回避したり……自分でもちょっと驚きます。 月並みな言い方ですが、三つ子の魂百まで、とは本当だなと、最近は思います。 あるいは中二病とは病気ではなく単に性格の一つなのか……というか、まあ実際のところは人間って全員病気で、私が一番軽症の部類だと思っています。
※ 今回は大変すばらしい企画に参加させていただいてありがとうございました。 他作品の感想は、大分後になるでしょうが、出来るだけ書かせていただきます。 ではさようなら。
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「心のどこかにフランス人を」への感想です ( No.4 ) |
- 日時: 2012/10/07 22:09
- 名前: 朝陽遥(HAL) ID:fBBKKEwo
- 参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/
ご参加ありがとうございます! 拝読しました。中二というツールをこういう形で使ってこられたか……! と、思わず唸ってしまいました。「中二設定だが燃える!」ではなく、中二病を罹患してしまった家族に苦悩する主人公。
技などの名前がまた絶妙に中二っぽくて、シリアスなんですけど、つい笑ってしまいました。 淡々とした語り(とそれを紡ぐ端正な文章)と、上記のようなコミカルな要素のおかげで、するすると軽く読めたのですが、しかし要所要所でけっこう怖かったです。お父さんが、壊れてしまったあとも運転は普通にしていたりとか、まったく平常に見えていたのにそのままのテンションで唐突におかしいことを言い出すところなどに、妙にリアリティがあったりして……
妹さんの喋っているシーンの途中くらいで、「これもしかして、ふたりは精神を病んだわけではなくて、彼らの電波っぽい発言のほうがほんとうだったりして、主人公はただ目覚めていないから光やなんかが見えなかっただけで……」なんて怖い想像をついしてしまいました。
> 「誰が我々だ」 と舌打ちをして、 ……のところで思わず、自分なんかいまでもわりとそうかも……と思って、おもわず明後日の方角に視線が泳いでしまいました。思春期の頃って、他人に勝手なカテゴライズされたりレッテルを貼られたり、わかったようなことを言われたりするのに、ものすごく嫌悪感があったなあと、つい自分の過去を思い出してみたり。
執筆おつかれさまでした! ひとり三作まで投稿可というルールでのんびりやっておりますので、年内にもしお気が向かれましたら、またぜひよろしくお願いいたします。
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Re: みんなで書けば怖くない! 中二病イベント開催します! ( No.5 ) |
- 日時: 2012/10/09 02:52
- 名前: 陣家 ID:ULfAXgq.
100枚を超えてしまったので、ファンタジー、童話板にアップします。
タイトル 同伴下校とソーサラーズ
一応落ちらしきところまでは書いたつもりですが、背景設定、設定説明はほとんど描写できませんでした。 一般板では連載禁止だったと思いますが、 もしもこれを第一部だとすれば第三部くらいまで書ければ、一応の完結にはできるプロットはあります。
サブタイトル予定 第二部:アービターとイグナイター 第三部:オブザーバーと同伴世界
第一部を読んで続きが読みたいというお声がいただければ書いてみたいと思います。
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陣屋さまへ ( No.6 ) |
- 日時: 2012/10/09 21:44
- 名前: 朝陽遥(HAL) ID:y1DFOqBY
- 参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/
わー、ご参加ありがとうございます! さっそく読ませていただきました。感想は一般板に書かせていただきますね。
そうですね、一般投稿版を利用される場合は完結ルールが適用されてきますので、単独でも読める形式でお書きいただくか、ご自分のサイト・ブログ等にUPしていただければ。何ならほかのSNSさんでも……(そちらの規約に違反しなければ) どうしても投稿場所に困られるようでしたら、百枚ここにどーんと載せていただいてもかまいません。たしか文字数制限は相当余裕があったはず……もしも投稿できない等のトラブルがありましたら、お申し付けくださいませ。なにか考えます。
個人的にはぜひとも、きっちり伏線を回収した第二段・第三段まで読ませていただきたく思います。投稿期間は年内いっぱいまでですので、どうぞよろしくお願いいたします!
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Re: みんなで書けば怖くない! 中二病イベント開催します! ( No.7 ) |
- 日時: 2012/10/13 19:17
- 名前: 陣家 ID:9rDrIEh6
きかさんの作品への感想です。
一見荒唐無稽なやりとりのようでいて、男女関係の機微をうまく表現していると感じました。 電波に見える彼女と現実をしっかり見据える彼氏。 仕事と私とどっちが大事なの? というテンプレートな問い。 でも金の切れ目は縁の切れ目だということも本能的にお互い分かってたりする。 実際は本当に現実的なのは彼女のほうだというのは彼氏も心のどこかで分かっているんですよね。
男はどこまで女に譲歩すればいいのか。 きっと模範解答は絶対にしないことなんですよね。 ある意味罠みたいなものです。 身につまされるお話でした。 感慨深い内容でとてもよかったです。
ではでは
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Re: みんなで書けば怖くない! 中二病イベント開催します! ( No.8 ) |
- 日時: 2012/10/13 19:46
- 名前: 陣家 ID:9rDrIEh6
「心のどこかにフランス人を」への感想です 無線不通さん、拝読しました。
この何気ない日常が、何の前触れもなく突然瓦解する展開は大好きです。 文章がとても読みやすくて安定しているので、主人公の冷静さが際だって表現されているところがいいなあと思いました。ツッコミの偉大さを改めて思い知りました。 ただ。個人的には父親の世界観と妹の世界観がまったく違っているせいで、実際は本当にただの精神錯乱と読めてしまうところが残念に思いました。 父親も妹も、同じ世界の住人であった方が、異世界への旅立ちを心のどこかで望んでいる主人公の気持ちが表現できたんじゃないかと。 はたまた遊園地という舞台を生かして、父親と妹がなにがしかのすり込みを与えられる伏線を張っておくのも面白いかもしれません。
電波なセリフの数々は、いかにもそれらしくて良かったです。 作者さんがいろいろな作品に精通していらっしゃることが伺えて今後の作にも期待がふくらみます。
それでは
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森は静まりかえり ( No.9 ) |
- 日時: 2012/10/21 20:36
- 名前: 朝陽遥 ID:aQZQAwRA
- 参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/
流血描写があります。苦手な方はご注意くださいませ。 ----------------------------------------
森の中は、驚くほど静謐だった。 ほんの少し離れた場所では、いまも怒号と悲鳴が飛び交っているはずだ。興奮した馬のいななきの合間に剣戟が響きわたり、地面を這いつくばる兵士の命乞いの嘆願が、別の兵士が怯えを隠すために上げた罵声に掻き消され――そうした混乱の只中にある戦場から、たいして離れてもいないというのに、彼のいるこの森は、まったくもって静まり返っていた。時おり風に梢がざわめき、遥かな頭上で鳥たちが鳴き交わしているのが、かえって静寂を深めている。 兵士は樹の幹に凭れて、しきりに瞬きを繰り返していた。 まだ若い。少年といってもいいような年頃だった。よく日に焼けた顔はむき出しのまま、血と泥にまみれている。鎧のかわりなのだろう、粗雑なつくりの胴当てを巻いてはいるが、そのような形ばかりの防護では、たいして彼の身を守ってくれるとも思えなかった。実際のところ、脇腹の部分の革は大きく裂けて、かなりの血が滲んでいた。 兵士の視線の先では、草花が一本、風もないのにかすかに震えている。白い花弁を揺らすのは、そこに乗っている一匹の虫だ。花芯に頭を突っ込んで、蜜を吸っている。余所見することなど考えもつかないふうに、一心に。
※ ※ ※
彼の村に新しく徴兵の触れが出たのは、ほんのひと月ばかり前のことだった。 前のときには一定年齢以上の、それも健康な者だけでよかったのが、今度は否が応でも各戸から一人、誰か男を出さねばならなかった。父親は何年も前に屋根から落ちて死んだ。弟は二人ともまだ幼い。与えられたたった一晩きりの猶予に、彼は身支度をしながら、何度となく逃げることを考えた。 谷間の痩せた土地しか持たない、ちっぽけな村だ。逆らえば領主からどのような沙汰があるとも知れず、残された母や弟妹が他の村人たちからどのような眼で見られるかを思えば、彼に選べる道は多くなかった。 ――ひと殺しなんか、まっぴらだ。 剣を構えて敵兵に対峙する自分を、彼は思い浮かべようとしてみた。想像もつかなかった。これまで鍬や鑿以外の刃物を手にしたことなど一度もなかったし、ましてそれを他人に向けるなんて、考えるだけでも気分の悪くなることだった。 夜中、母親のしのび泣くのに耳をふさぎながら、彼は鬱々と考えた。そのときが来たら、真っ先に殺されよう。 それが一番ましな考えのように思えた。戦死したのなら、残された家族には補償も出るはずだ。雀の涙ほどの額だというが、何かの足しにはなるだろうし、それに、他の村人たちから白い目で見られることもない。 荷作りはすぐに終わった。持っていくようなものは、元よりたいしてなかったからだ。着るものがほんの少しと、古布がいくらか、それでお終いだった。父親の使っていた鑿を探し出して、迷い迷い一旦は着替えの間にしのばせたけれど、すぐに出して、もとどおり戸棚に仕舞い込んだ。 そんなものが、武器になると思ったわけではない。父親の形見を身につけていれば、いくらか心強いような気がしたのだった。だが、どうせ死ににゆくのに心強いもなにもなかろうと、そう思い直したのだ。 それに、残しておけばゆくゆくは、弟の助けになるかもしれない。彼自身と違って、弟は手先がすこぶる器用だ。死んだ父親に似て、いい大工になるだろう。 ――あとはどうやって、うまいこと殺されるかだ。 じっと暗い天井に眼を凝らしながら、彼は考えた。必死で戦った末に殺されたと、そういう体裁を取らねばならない。自ら進んで殺されたというのが誰の目にも明らかになっては、補償金どころか、反逆者ということになりかねない。 暗闇の中、彼はぶるりと身ぶるいをした。自分が死ねば、ただでさえ男手の足りない家のことだ、みな難儀をするだろう。 狭い畑からは、毎年かつかつの麦しかとれない。今年は夏になっても、風がやけに冷たい日が続いていた。仮に兵隊にとられなかったところで、冬には飢えて死ぬ運命が待っているのかもしれなかった。 凶作になっても、そのときに彼の命であがなった金で、となり町から食べるものを買えるのならば、あるいはこの触れは彼らにとって、幸運なのかもしれなかった。たとえそれが、ひと冬かぎりの苦しいつなぎにしかならずとも。
※ ※ ※
それだというのに、いざいくさ場に放り出されて、敵の刃先がおのれの腹を薙いだとき、彼は頭のなかは真っ白になった。 不幸なのは、目の前にいた相手も彼自身と似たりよったりの新兵だったことだろう。 気がついたときには、がむしゃらに振りまわした彼の短剣が、相手の首を掠めていた。かえってきた手ごたえはわずかなもので、ほんのちょっと掠めただけとしか思えなかったのに、相手は首から驚くほど大量の血を吹き出させ、どうと音を立てて、背後に倒れた。 心臓は壊れんばかりに拍動を打って、内側からあばら骨を叩いていた。柄を握る手のひらは、冷たい汗でびっしょり濡れていた。 仰向けになって倒れた敵兵の死に顔を、彼は見てしまった。まだ年若い――下手をすれば彼よりもまだ下かもしれない、ほんの子どもの顔――血の気の見る間に失せて、真っ白になった顔を。 自分が悲鳴を上げたのかどうか、彼は覚えていない。 気がついたときにはどこへとも知らず、無我夢中で走っていた。いくさ場はどこも、ひどく混乱していた。彼が話に伝え聞いて想像していたような戦場の場面とは、まったく違う光景がそこに広がっていた。兵士たちは指揮にしたがって整然と行進するのでもなければ、鬨の声をあげて一斉に突撃するのでもなく、てんでばらばらに剣を振りまわし、乱れ飛ぶ矢に倒れ、逃げまどっていた。歓声や鬨の声よりも、癇癪を起したような罵声や、命乞いの声のほうがよほど喧しかった。眼をぎらぎらと光らせて、とっくに死んだ敵に何度も刃を打ち込むものがいた。馬に踏まれて頭蓋を半ば砕かれながら、どういうわけか死に切れずにいつまでも呻いているものがいた。 ときおり見咎められて敵兵から打ちかかられ、そのたびにまろぶように逃げまどい、むやみやたらになまくらな刃を振りまわして、また走って、走って――走って――そうしていったい、どれほどの時間が経っただろう。 あるとき気がつくと、彼はひとりになっていた。 見渡せばそこは合戦場になった平原ではなく、いつのまにかすっかり森の中に分け入っていた。自分がどこをどう走ってきたのか、まるきり記憶になかった。覚えているのは敵の死に顔と、刃が撫でていった腹の焼けつくような痛みと、手にした剣が人の肉を割いた瞬間の鈍い感触だけだった。やけに足が痛むと思ってふと見下ろせば、折れた木の枝が靴を破って足に刺さっていた。 ついさっきまで耳のすぐ横で響いていたようだった怒号も、悲鳴も、いっそ不思議になるほど、いまはまったく耳に届かなかった。森のなかはうそ寒いほどに静まり返り、いくさの気配を嗅ぎつけて逃げたものか、鳥や獣の気配さえも遠かった。 残された家族はどうなるだろう。彼は痺れたような頭の片隅で、そのことを考えた。脱走兵という言葉が、頭の隅をよぎる。冷たい風――狭い畑に力なく揺れるわずかばかりの麦――幼い弟妹が、遊びと区別のつかないようすでかき集めてくる薪材――冬の谷間を吹き抜ける風は痺れるほど冷たく、薪をいくら蓄えても追いつかない。 けれどもう一歩たりとも、足を踏み出す力は残っていなかった。まして後にしてきた戦場にふたたび戻る力など、体のどこにもあるはずがなかった。 ずるずるとその場にへたり込み、這うようにして、傍にあった樹の根元に、彼は寄りかかった。樹皮はささくれて硬かったが、根の近くはやわらかい苔に覆われていた。そこに体を預けると、ひんやりと湿った感触が胴巻きごしに伝わって、彼の体温を奪った。汗が流れ込む眼を瞬きながら、彼は自分の心臓の音を聞いた。 上がりきった息は、なかなかおさまらなかった。ようやく呼吸が整い、彼の眼が焦点を合わせることを思い出したとき、その視線のちょうど先には、白い花がぽつんと一輪きり、静かに咲いていた。 どこにでも生えているような、ありふれた草花だ。彼の村のまわりでも、同じものを時おり見かけることがあった。ほっそりとした茎でも充分に支えられるだけの、みすぼらしいほどちっぽけな花を咲かせて、遠くのいくさのことなどまったく知らぬげに、身じろぎもせず花蜜を吸われている。 吸いこまれるように、彼は手を差し伸べた。立ち上がるほどの力は、体のどこからも湧いてこなかった。それでも彼は、まるで何かに操られてでもいるかのように半身を起こし、無心に指先を伸ばして、そのちいさな花に触れた。 白い花弁が、血で汚れる。 彼がびくりとして手をひっこめたときには、虫はもう、どこかに逃げていた。 唐突な吐き気に襲われて、彼は身をよじる。自分の服の裾を汚しながら吐いて、吐いて、滲んだ涙をぬぐいもせずに、何度も地面に手をこすりつける。下生えのぎざぎざに尖った葉先が、子どものころから鍬を握ってきた彼の皮膚の厚くなった手のひらを、いとも容易く傷つけて、そこから湧きだした真新しい赤い血が、もとからついていた乾きかけの血の上を、雫になって流れ落ちた。その色を見て、彼はまたえずく。 森は静まりかえり、そこに彼の荒い息だけが響いている。戦場の喧騒は、いまだ近付いてこない。
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いかにも切れっ端な感じがすごいのですが(汗)、本命の話のほうが書くのに手間取っておりますので、ひとまず一本目を。これも恥ずかしさを振り切る修行と思って、開き直って投稿しておきます。 お目汚したいへん失礼しました!
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森は静まりかえり の感想です ( No.10 ) |
- 日時: 2012/10/22 22:24
- 名前: 陣家 ID:3T4xxpWQ
読みました。
うーん……ショックです。 正統派と言うか、現実的な戦役における一兵卒の葛藤を描くリアルな反戦的なドラマのプロローグじゃないですか。 いやいや、あえてここからの超展開があるのですよね。 厨二っぽさってのは明確な定義は確かにあるわけではないですが、少なくともこの編からは朝陽遥 さんが煽り文句でおっしゃっていた要素は感じとることが出来ませんでした。
やはり! 俺Tueeeeeeeeee! あたしKireeeeeeeee! 必殺技Sugeeeeeeeeee! 謎の組織Koeeeeeeeeeee! ハーレム展開AriEneeeeeeeee! のどれか一つは欲しいかなあ、と……。 読んでるだけでお尻がむずむずしてくるようなすばらしいお手本を期待しています。シリアススタートならこの後は逆行展開?U-1?スパシン? いえ、そう来ると信じてます。
と言うわけで、どうかハシゴはずさないで……と涙目で祈ってたりします。 続編、期待して待っています!
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Re: みんなで書けば怖くない! 中二病イベント開催します! ( No.11 ) |
- 日時: 2012/11/10 19:49
- 名前: 楠山歳幸 ID:FLL2VoeI
すみません。 イベントに参加したいと思います。
たぶん100枚どころではすまない量と思いますので、ファンタジー板に投稿します。
タイトルは「それは満月の三日前」です。
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参加御礼&事務連絡 ( No.12 ) |
- 日時: 2012/11/11 14:55
- 名前: 朝陽遥 ID:TLkIs7h2
- 参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/
> 楠山さま
ご参加ありがとうございます! そしてまさかの二百五十枚。(震撼) 軽~い気持ちで言いだしたミニイベントでしたので、まさかの長編に驚きつつ、嬉しくもあります。制限オーバーではありますが、特に罰ゲームはありませんのでご安心くださいませ。
先ほど読ませていただいたのですが、原稿用紙換算すると長いながらも、セリフ&改行多めの文体といい、テンポのいい進行といい、読みやすくて、いざ読んでみると長さはあまり感じませんでした。 楽しませていただきました。具体的な感想は、あらためて向こうで書かせていただきますね。
> ご参加中・ご参加を検討中の皆さま方へ
あらためてアナウンスさせていただきますが、 * 強制ではありませんが、参加された方は、積極的にほかの方の作品にも感想をお寄せいただけると嬉しいです。 嬉しいです!
繰り返しますが、一般投稿版の利用規約とは異なり、強制ではありません。あくまで皆さまのご厚意にお縋りしたく! タイミングを揃えての一斉投稿ではありませんので、感想を書くタイミングが悩ましいところではありますが、適宜よろしくお願いしますね。全作読むのは時間的に大変という方は、読まれた作品にだけでも、できればお願いしたいです。
あ、それから一般投稿板のほうを利用される方は、当然ながら当サイトの感想ルールが適用されますので、一般投稿板のほかの方の作品に最低一作以上、感想を入れられてくださいませね。念のため。
ということで、引き続き投稿をお待ちしています!
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感想です ( No.13 ) |
- 日時: 2012/11/12 21:14
- 名前: 楠山歳幸 ID:dAtK.51U
>きか様 わがままなお嬢様とジリ貧の主人公、お嬢様って案外苦労している男性にあこがれるのかな、と思わせる作品でした。リアルではちょっと、と思えるわがままぶりでしたがこの作品では可愛らしく感じました。 苦労の中で自分を理解してくれない彼女、底辺なんか知らないがため自分を理解してくれない彼氏、愚痴をいいながらも結局抱き合うラストが素敵でした。見せ方でしょうか。主人公の包容力もとても雰囲気があって良かったです。愚痴が目立つような気もしたのですがそれが嫌味にならず、まとまっていて良い作品でした。 ところで、耳ちゃんって何だったんでしょう(笑)。ここをつっこむのは野暮かも知れませんね。
>無線不通様 凄いですね。お父さんのファンタジー設定がかっこよくて笑ってしまいました。僕も初対面の方はまず靴をみようかなと思ってしまいました。そして妹設定、父と繋がっているところがポイントなのでしょうか、主人公も狂い出すんじゃないかというラストは怖かったです。笑い話にしたてたホラー作品(?)、これも見せ方なのでしょうか、凄い作品でした。 メッセージも読ませていただきました。個人的には誰もが厨二の可能性はあるんじゃないかと思います。本当なのかどうかわからないのに偏執してしまうようなもの、そういった類と一般に言われている厨二との違いはイメージや道徳という強迫等との違いで本質は同じじゃないかなあ、と思います。
>朝陽遥様 驚きました。あの火の国の作者様が、絶望まっしぐらな作品を書いてる!僕が知らないだけなのかも知れませんが(失礼)。 昔昔に聞いた長唄の荻江節のような美しい作品でした。確か戦に負けて桜の下で割腹するお話です。 冒頭なのでこんなことを書いてはいけないかも知れませんが、一兵卒の悲劇はパターンみたいなものが限られてしまいがちと思いますが、やはりそこはさすがのHALさんですね。魅せる文章なので派手なエンタメ性があるとかえって僕みたいな活字慣れしていないものは混乱してしまうと思います。一番凄いと感じたのは思い思いに戦っている戦場でした。僕が男のためか、戦争といえば奇をてらった策略とかかっこいい司令官の号令というようなどこか英雄じみたイメージを持ってしまうため、このシーンが個人的に一番壮絶でした。 森の象徴、戦争の喧噪と癒し(みたいな)との対比なのか、生き物(畜生)と戦場との例えなのか、読解力が無いためもう一言欲しいかなという感じでした。僕の感覚が鈍いためですごめんなさい。
あと、僕も陣家様のコメントに少し賛成であります。 あの作者様が熱く熱く無駄にかっこいい呪文とか物理的にありえねえだろな剣を振り回すとかお風呂の更衣室でどっきどきのばっちんぐとかええかげんにせえよなハーレムとかURYyyyyyyyy!なものをほんのちょっとでも期待していなかったと言えば嘘になります。失礼しました。
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感想です ( No.14 ) |
- 日時: 2012/11/18 22:34
- 名前: きか ID:MIYWkbYU
>無線不通様 「心のどこかにフランス人を」
ホラー傾向の話もかなり好きなので、非常に楽しく読ませていただきました。 日常に潜む恐怖というか、ふとした瞬間に日常の隙間から顔をのぞかせる非日常というか。 たとえばまず、妹だけがこうした言動を行ったのなら、通常の中二病を発症したものとして若気の至りとして処理され、主人公もここまで事態を深刻なものとしてとらえることはなかったのではないかと思います。 それが、発症したのが子供でなく大人(父親)であったところに、私たちは明らかな狂気を垣間見る。 そこに、やはり中二病は子供にしか許されない特権なのか、ともの寂しさを感じるとともに、中二病と狂気の紙一重さを恐ろしく感じました。
>陣家様 「同伴下校とソーサラーズ」
感想ありがとうございました。 とてもうれしかったです。 この話、バカップルと馬鹿っぷるをかけて書いてみようと思ったのが始まりでした。 (えと、いちゃいちゃが激しいのと、馬鹿なのと、って意味で) 実は私、男女の機微なんてさっぱりわかりませんが、巷のカップルの話を聞き、男女の目線って違うよなー、お互いの立場で意見を主張したら物事って平行線に進みっぱなしになるんじゃないか、と思って書いたような記憶があります。 男心も女心もさっぱりわからない私が書いたため、おそらくいろいろ間違っているはずです。 こちらからの返信が遅くなってしまってすみません。 私からの感想は短くて申し訳ないのですが、ファンタジー、童話板に書かせていただいています。
>朝陽遥様 「森は静まりかえり」
かっけー!!と思ったのがまず最初。 文章がやっぱりきれいです。 感想でほめてもらっていて恐縮なのですが、私としては朝陽さん(うわなんかてれくさい!)の描写力が羨ましくてなりません。 描写から浮かび上がってくる空気や色、においに強い憧れを感じます。 戦場から逃げ出した後にたどり着く森。 そこに咲く一輪の花に彼は何を投影していたのか。 言葉にしてあらわさずとも、心に伝わってくる情景描写に胸を打たれました。 ただ、やっぱり、どうせならワンシーンだけでなく物語として読みたかったなーと物足りなさが。 彼がこれからどこに向かうのか、とかそんなことに後ろ髪をひかれています。
>楠山歳幸様 「それは満月の三日前」 感想ありがとうございます!! ほめられていて照れてしまいました(笑) 女ってこんな感じなのかー 男ってこういう傾向あるんじゃないか? そんな妄想を思い込みで形にした作品だったのですが、そんなに否定的にとらえられていないところを、ありがたく思います。 そしてすみません。 まだ、「それは満月の三日前」を読み終えていないのです。 本当にすみません。 読み終え次第、ファンタジー板に感想を書かせていただくようにしますので、平にご容赦のほどよろしくお願いいたします。
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あと参考までに ご指摘のあった「耳ちゃん」ですが、結論から言えばウサギです。 ついでに言えば、題名を書いていなかったのですが、投稿させていただいた作品の題名も「ウサギ」で、まあ、ごにょごにょ、と。 ウサギにしたのは、水につけると体温調節ができなくてすぐに死んでしまう、さみしいと死んでしまうという噂話に由来していて、詳しく調べるとそうでもなさそうだったのですが、か弱いイメージがあったので、そのままで行きました。 さと子もさみしいと死ぬのかもしれんしな(まあ、死なんだろうが)と頭をよぎったこともあります。
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感想 ( No.15 ) |
- 日時: 2012/11/20 01:58
- 名前: 無線不通 ID:YSXWJmuY
遅れて申し訳ない。 まさか100枚前後の作品がほとんどになるようなイベントだとは思わなかったので、読めた分だけ感想を書きます。ごめんなさい。
きかさんの作品の感想
中二いうか、どちらかというと大人っぽい感じのする落ち着いた空気を感じました。落ち着いているといっても、二十二かそこらの、大人だけどまだ幼児性の抜けきらない年頃、みたいな。そういう感じがでてます(私の文体も幼稚だがそれとはまた意味が違う)。それは解っていてそうしているのだろうし、それがマイナスかというとそんな風には思いませんが、こういう作風のものが出ているとは思ってなかったので、そうきたか、という、驚きに近い所感を得たのです。 面白かったですが、なんというか……ほんとに何と言っていいのか分かりませんが、ちょっと、こう、平坦というか、薄味というか、終わり方は美しいのですが、少しスムーズすぎる感じがしました。言ってることは解るのですが(少なくとも私は解ったつもりになっている)、そりゃまあ、そうだよねと思うのです。この文量なのであまり高望みをするのはどうかと思うのですが、ちょっとばかし軽かったです。
「森は静まりかえり」の感想
私には文章の良し悪しは解らないですが、お上手だと思います。でもちょっと描きすぎてる様な気もします。三人称視点だから当たり前なのかもしれませんが、周囲の描写が冷静すぎるている、俯瞰しすぎている、そんな気がします。しかし、それは気のせいだ、と言われれば返す言葉もありません。私にはよくわかりません。 冒頭部分のようですので感想はこれ以上書けないので、以上とさせていただきます。
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二作目、投稿しました &一作目の感想返信 ( No.16 ) |
- 日時: 2012/12/09 22:20
- 名前: 朝陽遥 ID:2pyPNGMs
- 参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/
二作目「嘆きの森」、ファンタジー板のほうに投下しました。 http://www.totalcreators.jp/cgi-bin/ftdowanado/bright.cgi?log=&key=20121209215949&action=html2
自分のなかの中二的萌えを遠慮なく追求したら、どういうわけか驚異的に地味になりました。なんでだ……。 しかも20×20換算で百枚をちょろっとオーバーしました……。もっと短くまとめるつもりだったのに! 長くなってしまいましたので、最初のほうでお口に合いませんでしたら、どうか遠慮なくスルーしていただきたく!
そして前作への感想レス、ありがとうございました! 以下、遅くなってしまいましたが返信です。
> 陣屋さま ありがとうございます! そして物足りなくてすみません……。 俺Tueeeeee! 等々に関してはたしかに燃える展開ではありますが、あれです、多分、男子の中二病と女子の中二病には若干のギャップがあるんだと思います。リアル中二だった私は流血とか過去の罪とか戦争とか自己犠牲とかにおおいに惹かれておりました……ということで、特に続きはないですあしからず! すみません! 続きといえば、陣屋さまのシリーズ二作目の進捗はいかがでしょうか? ひっそり楽しみにしております。もし万が一イベント期間に間に合わなくても、何かの形で読ませていただきたいです。 あらためまして、ご参加&ご感想ありがとうございました!
> 楠山さま ありがとうございます。中二のときは絶望まっしぐらなかんじの、流血とか不幸な生い立ちとか過去の罪とか、あと人死にとか人死に人死にとか書いてました。今回なんというか、大変懐かしい気持ちになりました。 萌えポイントがそこだったもので、なんというか冒頭とかじゃなくて続きはありません……すみません。なんとなく掌編としてもっとすっきりとまとまったオチっぽい書き方はできなかったものかと反省しております。お目汚し失礼いたしました! ご感想・ご指摘、深く感謝しております。あらためまして、ご参加ありがとうございました!
> きかさん ありがとー! 中二的萌えを吐きだしたかっただけで、続きとかぜんぜん考えてませんでした。お恥ずかしい。なんか、こう、すぱっとキレのある掌編を書けたら幸せなのになあと思います。 あらためて参加ありがとうでした! そして仕事いそがしいと思うし無理は禁物だけど、でもこっそり新作も楽しみにまってますからー!
> 無線不通さま ありがとうございます。三人称がうまく使いこなせず、無念でした。 情報量の多すぎる件については、なんといいますか、もっとも自分の好きな呼吸で書くと、なんとも過剰というか冗長というか、そんな感じのことになってしまいます……。お恥ずかしい。普段ならいくらなんでももうちょっとくらいは自重するところなのですが、イベントなので、ひとつ開き直って思うぞんぶん自分の呼吸で書かせていただきました。読みづらくて申し訳なかったです……! お目汚し大変失礼いたしました。ご感想&ご指摘、感謝です。 あらためまして、ご参加ありがとうございました! またなにか機会がありましたら、一緒に遊んでやっていただけると嬉しいです。
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Adieu ( No.17 ) |
- 日時: 2012/12/24 01:53
- 名前: asari ID:E6ocJRGQ
「それで、あんたはその子の王子になってやるわけね」
洋子は終始挑発的な態度で元恋人の話――二週間に渡る二重交際の言い訳――を聞いていた。 駅前の日当たりの良い喫茶店でのことである。時計はまっすぐに空を指し、店は一日のうちでもっとも華やかな賑わいで満ちる。 隣の席の紳士などは熱心に今朝の朝刊を読むふりをして若い誤ちに聞き耳を立てていた。 「お前のそのドラマティックな物言いもとても魅力的だったよ。さすが現代テレビっ子。だけどそれは影響されやすいだけで、本当の言葉じゃない」 勇太はしたり顔でそう言い、大袈裟に首を降る。自然、口元が引きつる。 勇太の正直で子供っぽいところがいいと、付き合う前は随分お熱だった自分を思い出す。勇太の少年らしさは少しも損なわれていないのにおかしいな、と顔を歪ませて不意に目頭が熱くなった。 「真実の愛に犠牲は付き物なんだ。泣かないでくれ」 堂々とした台詞とは裏腹に、勇太は顔を伏せた洋子におろおろと紙ナプキンを握らせようと必死であった。決して受け取るものかと伏したまま拳を握りしめる。 「真実の愛?」 と洋子が低い声で呟いたとき、喫茶店のドアが激しいベルの音と共に開いた。 「勇太!無事!?」 飛び込んできたのは派手な格好をした若い女だった。やたら嵩張ったスカートで周囲の物を蹴倒しながら、一直線にこちらへ向かってくる。 思わず顔を上げた洋子を見て女は絶叫した。 「このメデューサ!勇太から離れなさい!」 大声に店員が驚いて女に指差された洋子を凝視する。急に顔を上げた洋子は長い黒髪を振り乱し、さながらB級映画の女幽霊のようであった。 洋子はさっと朱に染まり下を向く。 「サーヤ、それはちょっと……」 勇太が宥めるように女に話しかける。 「忘れないで……勇太。あなたと私がいにしえ、王国で引き裂かれ、無念のまま来世を誓ったことを」 サーヤは優雅な手つきで勇太の顎をとる。すると勇太の顔はたちまち神妙になり、サーヤと視線を合わせた。 「ああ。忘れるはずはない。今度こそ運命を共にしよう、サーヤ、光の姫よ」 「ああ、千年の孤独を埋める唯一の王子……」 気づくと、呆気に取られて口を馬鹿みたいに開いていた。二人は完璧になりきっていた。 周囲が見えていない、というより現実を見たことがないんじゃないかと洋子は思う。 激情の波に襲われていた洋子の胸中は二人の熱病に侵されたようなやりとりに急速に凪いでいった。 (おい、サーヤ。自分の顔を鏡で見てみろ) 何が姫だ、という言葉こそ本音であったが言わず、洋子は代わりに見当違いなことを言った。 赤い目を勇太に向け、一息に吐き出す。 「ああ……ユータ!わたくしはずっと待っていたのに!」 え、と勇太は間抜けな声を漏らす。 素っ頓狂なことを叫んだ洋子に、盗み聞きしていた客たちは体裁を忘れて一斉に目を向けた。 「あなたは忘れてしまったのね……わたくしの人生で最も輝いていたあの幼い日々を」 もう恥も外聞もない。勇太の手を取り両手で包み込んで、見つめた。できるだけ物悲しげになるように。 「生まれてすぐお母様が逝かれ、後ろ盾を無くしたわたくしの月影の宮に、末の皇太子である貴方だけは足繁く訪れてくれた。継母となったサーヤ姫の実母に虐げられ、粗末な生活をしていても貴方がいたからわたくしは救われていましたのよ」 「えっと、ごめん。俺は舞踏会に誘われた彼の大国の王子で……」 「惑わされているのよ。記憶を何もかも改竄されて。あちらのお母様は魔術がお得意でしたもの」 そう言って横目で見やると、サーヤは顔を真っ赤にして、乱暴に洋子の手を掴んだ。わなわなと勇太と握った手を解かせようとする。強く爪を立てられ、血が出てきたけれど絶対に離すものかと全力でを握り込んだ。 「痛い!痛い!」 勇太が情けない声を上げる。 「離しなさいよ、メデューサ!勇太、惑わしてるのはこいつよ。王国を滅ぼしたのもこのメデューサ!約束したでしょう?滅びる王宮で」 「滅びたのは貴方のお母様のせいでしょう。飢えた国民に暴言を吐いて貴方方親子だけがいつも贅沢をしていた。じき反逆が起こるのは火を見るよりも明らかだったわ」 皇女らしく、そう精一杯高貴な笑みを浮かべる。 「それに、仮にも姫ならそんなお下品な言葉使いをされますかしら」 お株を奪われ、我を忘れたようにサーヤが突進してくる。洋子はサーヤの醜い般若のような顔をわし掴みなんなく止めた。 他愛ないことだ。こんな茶番ならいくらでも続けられる気がした。 勝ち誇って勇太に問う。あくまでそれらしく。 「ユータ様、どちらを信じられますか?」 そう言うと、思いがけず勇太の目線は洋子の手にそっと落とされた。食い込んだ爪の痕から少し血が出ている。気まずく片手で隠そうとすると、勇太がぱっと手を割り込ませ爪痕を撫でた。 「傷つけて、ごめんな」 その声の温かさに隙を突かれて、胸がつまる。何故だか、前よりもっと泣きたくなった。 サーヤはテーブルの端から縋るようにその顔を覗いている。 勇太が彼女に見向きもせず、もう一度口を開いたとき、盛大な泣き声が上がった。洋子ではない。 「ゆうちゃああん……いかないで、私の、光の姫の、千年の孤独がぁ……」 サーヤはしゃくり上げ、つっかえながら意味不明なことを言って、遂に堰が切れたようだった。スカートの型を潰して座り込み、ごめんなさいと泣き喚く。洋子ではなく勇太の方を向いて。 赤ん坊のように箍の外れた涙だと、気づくとぼうっと眺めていた。はっと向かいの席を見ると、サーヤを一心に見つめる目があった。 洋子は知らない、見たこともないような表情だった。ねぇ、と思わず呼んでいた。 聞こえないようだった。 「……さようなら」 え、と気の抜けた声を背後に店を出る。 外は、眩しい。 小雨が降っているのに、雲の隙間からところどころ光が見えて綺麗だった。 冷たい雫が肌に伝う。折りたたみ傘を持っていたけれど、濡れるのは気にならなかった。 駅を行き来する人ごみに紛れるように、前を向いて歩きだす。
「私の孤独は……」ぽつりと呟いた。
了
ここまで読んでいただきありがとうございます。 中二病を行動に移せるのは周りを無条件に信頼してるから?とか書くうちになんとなく考えました。 文章もまだまだ納得できないのですが今回は特に正しい改行を意識しました。お暇があれば目についた間違いを指摘していただけると嬉しいです>< もちろん一行でも感想をいただけたら恐縮です。
皆様の作品の感想は年内に必ず書かせていただきます!
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感想&お礼 ( No.18 ) |
- 日時: 2012/12/24 17:44
- 名前: 朝陽遥 ID:twm5zD3I
- 参照: http://dabunnsouko.web.fc2.com/
>asariさま
ご参加ありがとうございます! 拝読しました。
「あっ王子様ってそういう意味!?」から始まって、読み進めるたびに意表を衝かれる感じで、楽しく読ませていただきました。まさか主人公が乗るとは思いませんでした(笑)
百年の恋も冷めそうな経緯なのに、恥も外聞もかなぐりすててまで恋人を取り返そうとしたのは、意地やプライドもあったのでしょうが、やっぱり好きだったんだろうなあ……ラスト、じんわり切なかったです。
そうそう、投稿期間は年内いっぱいですが、感想のほうについては締め切りを特に設けていませんので、ご無理なくお時間のあるときに、読まれた作品だけでも書きこんでいただければと思います。
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Re: みんなで書けば怖くない! 中二病イベント開催します! ( No.19 ) |
- 日時: 2012/12/26 10:13
- 名前: asari ID:NJcgAmBo
>>きかさんの作品
価値観の違いを不器用でも埋めようとする二人が素敵でした。 わたしは同性の友達とでもずれてしまってうまくいかないことがあるので、 二人のもどかしいやりとりについ共感してしまいました。 特に>「もう戻ってこないかと思った」 さと子のこの台詞で一気に切なくなりました。 戻れてよかったねぇ;と。 全体が綺麗にまとまっていて、読んで良かったとしみじみ思わせてくれる話だと思います。
>>「心のどこかにフランス人を」
主人公の冷めっぷりと絶妙な会話の間に楽しませていただきました。 不可解なホラー?SF?母を亡くして不安定になった家族愛の話? 色んな読み方が出来る作品だと思いますが、わたしは最後の >わたしの頭はちゃんとおかしくなっているのだろうか。 に主人公のかすかな期待感を感じました。 みんなで中二病で楽しく遊ぼうぜ!みたいな。 でもそれにしてはお父さんやりすぎですね… わからない。 わからなくて何だか心に残る作品でした。
>>朝陽さん
感想ありがとうございます。 書きたかったことを優しく汲みとっていただいて正直ほっとしました。 しかし掲示板に公開してから読み返すと、感情の流れが途切れて不自然だったり 描写不足な部分が目について、こんなもん読ませてすみませんと謝りたくなります(ーー;) 他の方の作品はゆっくり読んでいこうと思います。
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そして、物語としては竜頭蛇尾 ( No.20 ) |
- 日時: 2013/01/01 11:32
- 名前: お ID:lRXF20ZY
帯刀さん、感想ありがとうございました。 おっしゃること、逐一ごもっともで、言い返す言葉もありません。 まぁ、3日で取り敢えず終わらせられる展開と文面で大急ぎで書いたことが過ちですね。
ちょっと書き直すのでいったん、消します。
また、よろしくお願いします。
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Re: みんなで書けば怖くない! 中二病イベント開催します! ( No.21 ) |
- 日時: 2012/12/31 14:19
- 名前: 帯刀穿 ID:kXgTzTp2
HALさんへ。 何やら懐かしい名前が…… 少しばかり昔の知人が投稿していたので、頼りのレスを入れることにした。 とりあえず、こちらに参加するかはまだ未定であるものの、いくつか作品があるので 感想を投稿したい。
おさん久方ぶり。 まずは、投稿された作品への批評と感想を。 正直にいうとおさんがこういうものを執筆しているとは露知らずであったものだから、一瞬誰の作風かと、いかぶかしげに思ったものだ。 しかしながら、読み進めていくうちに、既存の世界観に魔法を取り入れたという、そこそこに面白みのある設定だ。 少しばかり、場所と時間について、時折、判然としないところがあり、映像化するための脳内再生で不首尾が存在していたことを除けば、言葉遣いといい、まずはわかりやすい。 女王陛下というのであるからには、イングランド女王なのだろうか。 次々と登場してくる人物は、何かしら命題を抱えているということがはっきりしており、どのような事柄であるのか。馬鹿馬鹿しい行事やしきたりに縛られたアルスヴァートン卿の秘密。大まかなところは終わっているかと思える。 風景の描写と、地域の設定、この二つの欠如が著しい。どうせ日本人には理解不能といったところかもしれないが、やはりある程度はほしいものである。 すでにシナリオそのものは終わっているのだから、あとは肉付けの一環として加筆すればよいので、資料と格闘されよ。 それから、方向性が一方通行になっており、ミスリードの一つもないので、すっきりし過ぎているようだ。全体像の部分で、掘り下げを要求して、今回の記載を終了する。 おさんのこれからの繁栄と邁進があらんことを。
追伸。 中二病といってよいのかどうか謎な作品はあるが……枚数がずば抜けて多い。 陣用のものであるし、投稿期限が今日までなので、割愛……したほうがよいのではないかと思う。
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