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RSSフィード [79] 「ピリオド」小説にピリオドを。
   
日時: 2014/12/21 15:58
名前: 片桐 ID:6ioV39hw

こんにちは。
今日もミニイベント開始です。
テーマは「ピリオド」 
縛り(執筆上の約束)として、作中に寒さに関する描写を入れてください。
制限時間はこの後、60分(16:00~17:00) 文字数無制限
このスレッドに返信する形で投稿してください。
なお、投稿の際は、トップページからミニベントの欄をクリックして、このスレッドを開いてから投稿してください。そうしないとエラーが出るようなので。

ピリオドは、何かに一区切りがつく、つける、というような意味でも使われますね。
一年のピリオドでもいいし、仕事、恋愛、趣味、夢、色んなものにピリオドはあります。
それぞれが考える、「ピリオド」をテーマとした小説を書いてみてください。

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Re: 「ピリオド」小説にピリオドを。 ( No.1 )
   
日時: 2014/12/21 17:02
名前: 朝陽 ID:ky6zDM2A

 二十七歳の誕生日を三日後に控えて、彼女にふられた。クリスマスイブの前々日だった。
 誰だこんな日に産んだのは、とふるさとの母親にせんのない文句をつけたくなるけれど、ともかく毎日の仕事はあるのだし、貯金はない。貯金がないからふられたのだと考えるのは、いくらなんでも虚しすぎるので、そこからは目を必死に逸らしている。
 何が悪かったのか。考え出してはくよくよとして、もう考えるまいと頭を振って、だけどそんなことができるはずもない。
 間が悪いことに、普段はぎちぎちに詰め込んでいるシフトも、イブの日は空けていた。先輩に必死で頼み込んで、厭味をいわれながら手を合わせて。その結果カップルだらけの雑踏を、顔を上げないでひたすら歩いている。
 本当だったら今ごろデートのはずだった。予約していたレストランはさすがにキャンセルしたが、プレゼントに取り寄せたペンダントはいまさら返品とも言い出せなくて、結局わざわざ休みなのに出かけて受け取ってきた。カップルだらけの街中をとぼとぼ歩きながら。営業スマイル満面の店員の顔が、まともに見られなかった。何をやっているんだか。
 こうなってくると赤と緑の、いかにもクリスマスらしい包装紙の柄まで憎たらしい。よっぽどそこの川に投げ捨てようかと思ったが、なけなしの貯金をはたいたことが頭の隅をよぎって、捨てきれなかった。彼女への未練から手放せないんじゃなくて、金額にひきずられてというところが、また我ながらみじめったらしくてかなわない。
 どん底だ。自分の白くなった息だけを見つめながら、口の中でくりかえしている。いやもっとどん底の人だっているんだろうけど。
 たとえばその通りの先の公園にゆけば、この、クリスマスイブの雪のちらつく夜に、段ボールと新聞紙をひっかぶっているおっさんが二人いるのを知っている。昨日から北のほうでは大雪で、家が潰れた人がいるのも知っている。彼女に振られてイブにひとり、それくらいで何がどん底だと、口の中で呟いてみても、やっぱりむなしい。人の不幸と引き合いにして自分の情けなさをごまかすこと、の白々しさ。

 そういう理屈っぽいところがだめなんじゃないのと、姉の声が耳の中に響いたような気がした。もちろん、本物の姉じゃない。大学卒業と同時にひとり暮らしをはじめて四年にもなるのに、ことあるごとに、何かうまくいかないとそのたびに、姉から呆れ罵られるような気がする。
 理屈っぽくて面倒くさい。気むずかしい。よく言われる。ネガティブ。なんでも形から入ろうとする。何を考えているのかわからない。
 ああ。もう。

 友達の紹介だった。つきあって一年半。なんでこんな可愛い子なのに俺みたいなのにOKしてくれたんかなとか、単純に舞い上がっていられたのは最初の三ヶ月くらいで、まあ、そのうちふられるんじゃないかというのはずっと頭の隅にありはしたのだ。だけどいざそうなると、何が悪かったんだろうなんて考えている。
 二十七歳アルバイト貯金無し、ついでに根暗で理屈っぽい。そら見限られてもしかたない。貯金もないのに無理をしてクリスマスにいい店を予約とか、自分は飲めないくせにワインの美味しい店をネットで調べてみたりとか、そういう見栄っ張りなところがだめなんだろうかとか、いやこうやってくよくよする性格がだよとか、次から次に、駄目だった理由なら百でも浮かぶ。
 自分だって自分のことが面倒くさくてしょうがないのに、他人からしたらもっと面倒くさいだろうとか。
 貯金がないからやけ酒に逃げるわけにもいかない。そもそもほとんど飲めないし。アルコールに弱い、なんていうちっぽけな弱点まで、こんな気分のときにはひどく情けないことのような気がしてくる。
 いつかふられることを、頭の隅で想定してはいたけれど、具体的に最近そういう前触れがあったわけでもないし、まさかこんなタイミングでなんて、思いもしていなかった。それともあったのかな。前触れ。俺が鈍くて気づかなかっただけなのか。
 新人がどんどん辞めていくもんだから、ここんとこシフトをぎゅうぎゅうに詰め込んで、深夜までのときも多かったから、ラインもメールも反応遅いっていうか、まあ正直いえばほったらかしがちだった。文章を打つのが苦手というのもあって、バイトで疲れてるからっていうのはむしろ言い訳で。会うのもいつもこっちの都合に合わせてもらって、そういうところかな、だけどこの年になったら男なんか皆そういうもんだろう。一日中ずっと彼女のことばっかり考えてられるような男がいるとしたら、そんなんヒモか結婚詐欺師だ。
 風が強くて、頬が痛い。川沿いだからなおさらだ。アパートまでの道が遠くて、もうなんかいっそそのへんに座り込んで凍え死にしたいような気がする。いやべつに死にたくはない。
 昨日まではともかくシフトがぎゅうぎゅう詰まっていたから、働いてる間はそんなに考えないでいられた。たとえカップル客が手をつなぎながら来店しても、仕事中ならわりきってスイッチオフにできる。今日は逃げ場がない。
 スマホをいじって、彼女の番号を呼び出して、かけようかどうか迷う振りだけして、やめる。別れ話を切り出されたときのトーンを思えば、やり直せるかもなんて思えもしない。怒っているとか、寂しそうとか、なにかそういうのがあればよかった。彼女の最後のせりふは、もうとっくに決めていたことを通達する声だった。まだ耳に残ってる。もう会わない。じゃあね。
 それでも何かひと言くらい、まだ言い忘れてることがあるような気がする。だけどたとえば掛けて、相手が取ってくれたとして、今日はクリスマスイブの夕方だ、電話の向こうに新しい男の気配でもあったら、立ち直れる気がしない。いや、そもそもそんな状況だったら電話に出るわけないか。っていうかいっそ二股かけられてたんだったらすっきりするかも。俺が悪いんじゃなかったって。
 するわけないか。
 一回だけ電話かけて、出なかったらあきらめようか。
 だけどいざ発信しようとしても、何も言うことなんか思いつかない。捨て台詞でもなくて未練がましい言い訳でもなくて自分に酔ってもいなくて、口に出したら気持ちがすっきりして後腐れなく忘れられるような、そんな便利な言葉は。どこにも転がっていない。
 そこまで考えてから、自分が探していた言葉が、気持ちに区切りをつけるためのものなのだということに、遅れて気がついた。
 やり直したいとか許してもらいたいとか。たぶん俺は思ってない。みっともなかったのをなんとかちょっと挽回したいとか、もやもやするのを振り払ってすっきりしたいとか、そんなんばっかりだ。
 まあ、そら、フラれるわ。
 本日何度目かの溜め息をついて、ようやく顔を上げた。カップルだらけのイルミネーションの中を歩くのも辛かったけれど、アパート近くの閑散とした川べりの寒々しさは、もっと痛い。
 給料日前で財布は薄いけれど、コンビニに寄って、残った有り金はたいてビールを買っていこうと決意する。飲めないやけ酒でも飲んで、ひとりで祝ってやろうじゃないか。二十七歳おめでとう、俺。

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