Re: ミニイベント「再会」 ( No.1 ) |  
- 日時: 2013/07/27 01:34
 - 名前: ぎたる ID:ehc4TiOs
 
「ギターがさあ」  ととびおがいうので、かれは手仕事はそのままに相槌を打つ。 「もどってくるっていうのね、いちばんはじめに買ったやつが」 「うん」 「タイミングはそれぞれだけど、手放すことになって、何十年も経ってから――おっさんになって、中古の楽器をみてると」 「うん」 「《あ、あいつだ》ってわかるんだって。  楽屋で友だちが弾いてるのをみて《おれのだ》って。そういうの」 「うん」 「いいよなあ」  かれの手許であやつられていた編み棒がぴたり、と止まる。もう随分ながいあいだその編みものをしているが、いったいなにを編んでいるのか、いっこうに判然としない。かれ自身なにができあがるのかわかりかねているようですらある。 「……よく、わかる」  とかれがいう。よくわかると。  とびおは、 「そういうのってほんとにわかるもんかね。見てさ、ぱっとさ」  口調はどこか真剣味を帯びている。 「わかるよ」  そのニュアンスを肯定するように、かれがもういちど、わかるといった。 「かくいうわたしがきみという存在とここに暮らしているのも、おなじ理由なのだ。  かつてわたしが月にいた頃、きみはわたしの兎だった。  かわいい、まっ白な、ちいさな兎だったのだ。月の原には、きみのような、なにかにおびえずにはいきていけないいたいけなけものたちがたくさんいたのだ。そして兎はそのなかでもいっとうあいらしいもののなかまだったのだよ。  月とこのほしとの関係がほんのすこしずつ冷え込みはじめたとき、けものたちのおおくは月にのこることはできなかった。月はこのほしにさからうことができない、やはりきずつきやすいそんざいだったから。そのような月がわたしをつくったから、そしてそのようなわたしがけものたちをつくったから。  けものたちも、わたしも、そうしておまえも、かつては月でいきていたのだ。  おまえはわたしのこどもなのだよ」  かれはそういってふたたび編みものにふける。なんになるのかわからないままのそれが、なめらかにするするとそのたびにうごめいた。  
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