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RSSフィード [58] ミニイベント「再会」
   
日時: 2013/07/27 00:36
名前: かたぎり ID:sTKqH49U

今から一時間で「再会」をテーマに作品を書くというミニイベントをします。
ここに返信する形で投稿してください。
では、健闘を祈ります。

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Re: ミニイベント「再会」 ( No.1 )
   
日時: 2013/07/27 01:34
名前: ぎたる ID:ehc4TiOs

「ギターがさあ」
 ととびおがいうので、かれは手仕事はそのままに相槌を打つ。
「もどってくるっていうのね、いちばんはじめに買ったやつが」
「うん」
「タイミングはそれぞれだけど、手放すことになって、何十年も経ってから――おっさんになって、中古の楽器をみてると」
「うん」
「《あ、あいつだ》ってわかるんだって。
 楽屋で友だちが弾いてるのをみて《おれのだ》って。そういうの」
「うん」
「いいよなあ」
 かれの手許であやつられていた編み棒がぴたり、と止まる。もう随分ながいあいだその編みものをしているが、いったいなにを編んでいるのか、いっこうに判然としない。かれ自身なにができあがるのかわかりかねているようですらある。
「……よく、わかる」
 とかれがいう。よくわかると。
 とびおは、
「そういうのってほんとにわかるもんかね。見てさ、ぱっとさ」
 口調はどこか真剣味を帯びている。
「わかるよ」
 そのニュアンスを肯定するように、かれがもういちど、わかるといった。
「かくいうわたしがきみという存在とここに暮らしているのも、おなじ理由なのだ。
 かつてわたしが月にいた頃、きみはわたしの兎だった。
 かわいい、まっ白な、ちいさな兎だったのだ。月の原には、きみのような、なにかにおびえずにはいきていけないいたいけなけものたちがたくさんいたのだ。そして兎はそのなかでもいっとうあいらしいもののなかまだったのだよ。
 月とこのほしとの関係がほんのすこしずつ冷え込みはじめたとき、けものたちのおおくは月にのこることはできなかった。月はこのほしにさからうことができない、やはりきずつきやすいそんざいだったから。そのような月がわたしをつくったから、そしてそのようなわたしがけものたちをつくったから。
 けものたちも、わたしも、そうしておまえも、かつては月でいきていたのだ。
 おまえはわたしのこどもなのだよ」
 かれはそういってふたたび編みものにふける。なんになるのかわからないままのそれが、なめらかにするするとそのたびにうごめいた。

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Re: ミニイベント「再会」 ( No.2 )
   
日時: 2013/07/27 01:34
名前: 弥田 ID:rHqaMydg

 さてKの行方も知れぬまま、親父から盗んだ缶ビールを片手に都市を彷徨していた。表通りは明るくまぶしく、長居すると目をやられてしまうため、身を寄せるようにして狭い路地裏を往く。酩酊が激しかった。右手の缶ビールはいくら飲んでも尽きることがないため、無限に飲み続けることが出来る。酔う。そして彷徨する。それらに耽溺する。
 これを幾昼幾夜とくりかえす、そのうちに、やがて私は自身が都市そのものとなっていることに気がつく。
 歩道橋の下に住む物乞い婆ぁは格安で春を売るという話だったが、一方で世界の理を知る大賢者でもあるという噂も聞く。彼女からならKの行方を聞き出すことができるかもしれない、と私=都市は歩道橋の下の神殿、聖なるダンボールハウスへと赴いた。
 深い海の色をしたビニールシートが扉代わりで、めくると婆ぁと男が性交しているのが見えた。
「やあ、夜分遅くにこんばんは、都市である。ところで私の一友人であるところのKの行方を知らないですかね、ご老人」
 婆ぁは喘ぎ声をこらながら言う。
「ああ、そのかたならば、タカシマヤのほうにいますよ」
「ありがとう、礼を言うよ。これはほんの感謝の気持ちだ」
 それからタカシマヤに向かったが、Kはどこにもいなかったし、手がかりの一つもつかめなかった。往来する人の数は波濤の如くで、嫌悪感甚だしく、そうそうに退散する。途方に暮れて、住宅街をとぼとぼと歩いていると、誰かの爪弾くギターの音が流れてきた。どうも調子っぱずれでリズムも安定しない、金釘流のギターであったが、一緒に合わせて身体を動かすとだんだんと心地よくなっていき、しまいには踊るようにして歩き続ける。高揚した気分で、私は都市だ! 私は都市だ! と咆哮しつづけると、ある三叉路にて私自身とばったりでくわし、おや、お久しぶり、あなたこそ、お元気ですかな、ええ、ええ、もちろんおかげさまで、ははは、なんと楽しい再会ですかな、そうでしょう、どうですかな、ここはひとつ乾杯など、すばらしい発案です。互いの缶ビールを打ち合わせて乾杯し、一息に喉へ流し込むと、弱った胃にこたえたらしく、音にも鳴らぬ音をたて、噴火のような嘔吐をした。

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Re: ミニイベント「再会」 ( No.3 )
   
日時: 2013/07/27 01:37
名前: とりさと ID:LDZDKpnI

 あめふらしが現れたのだろうか。
 朝起きたら、外は雨だった。ざあざあさあさあ、水の滴が糸を引いて降り注いでいる。灯りの落ちた部屋で、私はそれをぼおっと眺めていた。
 雨が降っているということは、町の誰かがあめふらしになったということだ。知り合いではないといいけれども。あめふらしになるのは、大体が大泣きしている時の人だから。そう思って、そっと息を吐く。
 何にしても、この雨の中で誰かが泣いていると思うと憂鬱になってしまう。雨が作りだすしんみりした空気を感じてしまっては、とても外を歩く気にもならない。
 いつもならば部屋で本でも読んで時間を潰すのだが、実は先日彼らと喧嘩をした。反抗して、奴ら、本棚から出ようとしない。無理に引っ張り出してみれば、今度はページが開けない。何が奴らをそうまでさせるのか、殻を閉じた貝のような堅固さを見せつけてくれる。
 紙切れに過ぎないくせに、生意気なことこの上ない。一応私は金銭を支払い、本人たちの了承も得て彼らを所有しているのだ。それがお菓子のカスが間に挟まったやら、表紙にちょっとコーヒーの染みが出来たやらそんな些細なことで文句をつけてくる。いい加減真面目に相手をするのも面倒になって「読めればいいじゃん」と私が言ったら、とうとう本の奴ら、キレた。私に自分を読ませてやるものかと、己の存在価値を揺るがすようなことをやってくれやがった。
 しかし暇な時にこのストライキは堪える。どうやっても一文字も読ませようとしない奴らにとうとう腹を据えかね「物体の分際で!」と叱りつけたら、ぶつんと音を立てて部屋の明かりが消えた。
 見上げると、電灯がへそを曲げていた。どうやら先ほどの言葉が気に障ったらしい。いくら雨の日は外に出ずらいとはいえ、灯りの落ちた部屋にずっといるわけにもいかず「もう勝手にしろっ」と言って部屋を出ようとしたら、本当に勝手し始めた扉を開けることができなかった。
 自分の発言の迂闊さに気が付いた時にはもう手遅れで、いつの間にか部屋にある物品連中は大概がわたしに反抗の意を示していた。
 おかげで今の私には、窓から外を眺めるほかにやれることがない。冷蔵庫は開かない。蛇口はひねれない。ベッドに寝転がろうとしたら転がり落とされ、座ろうとした椅子には全力で逃げられる。もはや犯行と言うより反乱と言って差し支えないと思う。味方と言えば来ている服のみで、後は中立の壁と床と天井がいるだけである。
 物体連中は拗ねると始末に困る。困るが、拗ねるのが物体共の専売特許と思ってもらっては大間違いである。
 私だって、すねる。
 口をとがらせてへそを曲げ、謝ってやるかとぶうたれる。
 そうして出来上がったのが、明かりも落ちた部屋で延々と窓から外を眺める私である。正直言うと、ちょっと飽きてきた。
 とはいえ、謝る気にはまるでならない。持久戦で有利なのはライフラインを担う奴らに決まっているけれど、人死にが出たら困るのも奴らだ。ああいう奴等は、自分がライフラインを担っているということに誇りを持っているから、自分の担当範囲で人が死ぬようなことを極端に嫌っている。だから、私の勝ちは揺るがないのだ。
 そんな私達の争い事は余所に、雨はしとしと静かに降り注いでいる。窓枠から微かに漏れる音で、ガラス越しに見えるその風景で、何故だかもの悲しくなるのは、その雨があめふらしの感情を映しているからだろう。
 そんなことを考えていると、唐突に部屋の明かりが点いた。見上げると、電灯が根負けしていた。にやりと笑ってから蛇口をひねったら、何の問題もなく水が流れる。冷蔵庫を確認してみれば、しっかり保冷された食材が並んでいる。久しぶりに思い通りになる自室との再会である。
 勝った。
 満足してベッドに倒れ込むと、問答無用で転がり落とされた。床で寝ろとの事らしい。勝ったはずが、何故。驚愕と共に部屋の様子を確認して「oh……」と言葉が漏れた。
 最低限のライフラインを担う奴ら以外は、まだまだ反旗を翻したままだった。
 こいつらから勝利をもぎ取るのに、どれくらいかかるだろうか。平和な自室の再開まで待ち受ける受難を思うと、ちょっと泣けてきた。
 憂鬱に息を吐いて、暗くなり始めた外を見る。
 ほんのちょっとだけ、雨の勢いが強くなっていた。

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再会の曲がり角 ( No.4 )
   
日時: 2013/07/27 02:18
名前: かたぎり ID:sTKqH49U


 盆ということで里帰りした二日目は、自室の整理をすることになった。東京から高速バスに乗って奈良まで帰ってきて、早速掃除とは母も酷なことをいうとは思う。しかし、なにから処分して良いのかわからないからあんたがどうにかしなさい、と言われれば娘としてしたがうほかなかった。
 あらためて見てみる自室は、確かに雑多で、自分でもどこから手をつけていいものやらと、しばし呆然とする。学生時代の写真が、棚や机にやたらめったらと貼り付けられており、それでいて年代順に分かれているというわけでもない。本棚だって、収納された衣服だって、わたしの部屋のなかは、まるで整理ということを知らないらしい。
 どれをどうしようと考えているだけで疲れてしまい、わたしはベッドに腰掛け、エアコンのスイッチを入れた。事態は長期戦のかまえとなると踏んだのだ。
 そんなとき、ベッドの足元の方に面した壁に、小さな落書きを見つけた。
『美香』
 と書いてある。すぐには意味が分からず、その落書きの前までいき、じっと見つめる。
「あっ」
 思わずつぶやいた一言と同時に、わたしのなかに記憶の奔流が起こった。
熱い汗が腋ににじむのは、まだエアコンが効いていないわけではない。わたしは動揺している。忘れていた古傷にふたたび血がにじみだし、どんどんと溢れ出してくるかのような感覚。
杉田美香はわたしの古い友人だ。わたしと中学校で知り合い、親友と呼べるほどの仲となった。わたしたちは毎日一緒に学校へ通い、休み時間となればクラスが離れていようと関係なくどちらかのほうに集まり、そしてまたふたりならんで下校した。わたしたちふたりは、中学を卒業して高校にいっても、高校から大学、その先に社会に出たとしても、決して変わることなく友のままであると信じていた。
汗が全身ににじんでくるのがわかる。
わたしは知っているのだ。この記憶をひも解く先にあるものは、わたしを揺るがし、わたしを責め、わたしを壊す。何度も何度も思いだし、その度忘れようとして努力してきたのに、今になって思いださなければならないというのか。
 自分のなかに叫びたい欲求が芽生えていることを感じ、わたしはたまらず外出をすることにした。玄関口で母がなにか呼びかけたようにも聞こえたが、それさえ振り切るように靴をはいて外へ飛び出す。
 八月の昼間とあって、外は猛烈な暑さだった。それでもましだとわたしは思う。あの部屋にいるよりは、あの記憶にとらわれているよりは、まだ息苦しくないように思えた。
 団地を歩く。百何十というほどの狭い団地を抜ければ、水田に囲まれた風景が広がる。立ち止まれずに、私は畦道を歩く。やがて神社の前を通り過ぎ、竹藪が眼に入ってきたというところで、わたしの脚はようやく止まった。
竹藪の近くに、曲り角があった。
身体が固くなっているのがわかる。息は荒くないが、鼓動が速まっていた。
わたしはこの曲り角を知っている。ある日から、曲がることも、近寄ることさえしなくなった曲がり角だ。わたしはこの場所を恐れ、そしてそこから離れることで恐れていることさえ忘れようとした。ではなぜわたしは今ここにいるのだろう。ここにやって来てしまったのだろう。
「わかったよ」
 わたしはそう口にした。まわりには誰もいない。いるのはわたしひとり。
わたしは曲がり角をまがり、左右に竹が茂る路地を進んでいく。止まりたい、けれど進みたい、そんな思いがかわるがわるし、最早自分の心がどうなっているのかわからない。
 路地の先に、一軒の家があった。間違うはずなどない。なぜならそれはわたしの一番の友人の家なのだ。杉田という表札を見つけて、まだ人が住んでいるのだとわかった。インターホンに目が行くが、手が伸ばすことができず、いっそ帰ってしまいたいと思い始めたとき、背後から人の気配がした。
「どちらさん?」
 中年ほどの女性の声だ。ずっと緊張していたせいもあって、穏やかな誰何にさえ身体が飛び跳ねてしまいそうだった。わたしがゆっくり振り返った先には、買い物袋を手に提げた女性が立っていた。
「あの、わたし」
 それだけしかわたしには口にすることができない。
「ああ、香ちゃんね。なに? 元気にしてたの?」
 自分の名前を呼ばれて、わたしはようやく女性の顔を見ることができた。知らぬはずもない顔だ。わたしの友人の母親である人、わたしが何度も遊びにきたこの家に住むひとなのだから。
「すいません、突然。あの、先日帰ってきました」
「そう、香ちゃんももう就職して働く歳になったんやね。そうよね、そういう年齢よね」
「ええ、それで、わたし、昔のことを思いだしているうちに、ここまで来てしまって」
 わたしがたどたどしくいっていると、香の母親はうなづき、
「わたしも香ちゃんにひさしぶりにあえてうれしいわ。今日は時間に余裕はあるの?」
「今日は、このあとすぐ用事があるんです」
「あらそう。じゃあ、またいつでも好きな時に来てね。」
「はい。必ず」
 
 わたしは再び歩いている。今度は歩いてきた方向を逆に、我が家の方に。
 足どりは軽いとはいえないまでも、自分の足で歩いているという感覚は取りもどせていた。
 杉田美香はもういない。
 彼女は中学三年の受験を控えたある日に亡くなったのだ。
 その日も、わたしは彼女と一緒に下校していた。たわいもない会話をしていたのだと思う。わたしも美香も、相手の嫌がることなど言おうとしていなかったのだと思う。それでも、ささいな食い違いができた。細かい部分はもう思いだせない。気づいたころには口論が激しさをまして、お互いが譲れないという状況に陥っていた。美香は突然わたしに背を向けて走りだし、わたしはその背中を追うことなく彼女を視界から外した。彼女はほどなく70キロ以上のスピードで暴走する車に引かれ、その命を失った。
 わたしは詫びることも、真実を語ることもできずに、全てを忘れようとして生きてきた。あの時、わたしに事故が予見できたわけもない。わたしが何を語ろうと家族の心が癒えるわけでもない。そんなふうにいいわけして。
 わたしはあの曲り角の方角を振り返る。明日もう一度行こうと心に決める。
それは、わたしの自分勝手な罪滅ぼしだ。わたしはわたしのために泣くことしかできはしない。それでも美香はわたしを笑って許すだろう。いつも彼女はそうだった。わたしはそれをどうしようもなく知っている。そして、そんな美香だから、わたしは今なお再会を願う。

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