船に名前は無かった。呼ぶものがいないのだから。 ( No.1 ) |
- 日時: 2011/08/17 00:59
- 名前: 影山 ID:4bQtqkaQ
ルームランナーの上をけだものがはしっていた。 大抵のものは「はしっ、はしっ」となき、金具をゆらすようなカチャカチャとした足音を立てている。犬はべろを垂らし、カバは赤い汗を流した。獣臭というにはひかえめなかおりが一室を満たし、おもわず鼻をつまんだ。しめりけを含んだにおいは何故だかなまのにおいがするんだよね、と管理者がいう。 糞のにおいのまちがいじゃないか。 いいや、なまのにおいさ。 管理人は微笑んだ。
窓のそとでは雨がふりつづけている。一分前も、一時間前も、一月前も、一年前もふっていた雨だ。ここは以前は海のみえるへやだった。昼時になるとガラスの向こうの砂浜をみながら波の音を想像したものだ。だけどいまや、波の音はたたきつけるつぶての音でぬりつぶされて、青かった水面はくろぐろとした雨雲の色にそまってしまった。
オスとメスが一匹ずつはしっている。 へびのオス、へびのメス、馬のオス、馬のメス。 かたつむりのオスメス。 死んでしまわないよう、死ぬまではしるのだ。
ルームランナーの上で音がなる。大抵のものは爪がこんべあをはじく音。 象は意外と静かに走る、足のうらがやわらかいからね。と管理人。 きがつけば、メトロノームのように一定のリズムばかりが、なっている。 あたしの仕事は、こうやってあんたたちを見守りつづけることなのよ。 ははおやの顔をした女が笑う。
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