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RSSフィード [29] ほろびのばーすとすとりーむ
   
日時: 2011/08/16 23:39
名前: 端崎 ID:yEsJqTK2

どうぶつのはなしなどどうでしょう。

とりあえず1時まで。

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船に名前は無かった。呼ぶものがいないのだから。 ( No.1 )
   
日時: 2011/08/17 00:59
名前: 影山 ID:4bQtqkaQ

 ルームランナーの上をけだものがはしっていた。
 大抵のものは「はしっ、はしっ」となき、金具をゆらすようなカチャカチャとした足音を立てている。犬はべろを垂らし、カバは赤い汗を流した。獣臭というにはひかえめなかおりが一室を満たし、おもわず鼻をつまんだ。しめりけを含んだにおいは何故だかなまのにおいがするんだよね、と管理者がいう。
 糞のにおいのまちがいじゃないか。
 いいや、なまのにおいさ。
 管理人は微笑んだ。

 窓のそとでは雨がふりつづけている。一分前も、一時間前も、一月前も、一年前もふっていた雨だ。ここは以前は海のみえるへやだった。昼時になるとガラスの向こうの砂浜をみながら波の音を想像したものだ。だけどいまや、波の音はたたきつけるつぶての音でぬりつぶされて、青かった水面はくろぐろとした雨雲の色にそまってしまった。

 オスとメスが一匹ずつはしっている。
 へびのオス、へびのメス、馬のオス、馬のメス。
 かたつむりのオスメス。
 死んでしまわないよう、死ぬまではしるのだ。

 ルームランナーの上で音がなる。大抵のものは爪がこんべあをはじく音。
 象は意外と静かに走る、足のうらがやわらかいからね。と管理人。
 きがつけば、メトロノームのように一定のリズムばかりが、なっている。
 あたしの仕事は、こうやってあんたたちを見守りつづけることなのよ。
 ははおやの顔をした女が笑う。

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Re: ほろびのばーすとすとりーむ ( No.2 )
   
日時: 2011/08/17 01:04
名前: 端崎 ID:lhNt9iZE

 昨日鬼にあった。草履のかかとにいたのである。
 ずいぶん前から棲んでいたらしいがてんで気づかなかった。左の角だけ出していて、それがわたしをつつくのでようやくそれと知った。
 わたしは、そいつを、きらいだ、とおもった。
 これはどうも失敬、というと憮然として腕組みしたまま眼をつりあげ、大仰に頷いてなどみせるので、わたしはそいつをきらいだとおもった。
 それで草履を捨てた。ずいぶん遠くまであるいていって、水路に流して捨てたのである。鬼は編み目からひょいひょいと這い出てきてこちらをいちどみあげると、大儀そうに振り返って、流されてゆく草履のなかにまた戻っていった。春先のことである。

 イルカをひとりでみにきていた。
 段々になった足場に腰をおろし「世界でも有数の深さを誇る」と紹介された水槽にバンドウイルカが五匹も十匹も繰り返し繰り返しやってくるのをみている。
 頭から空気を三度、あいまいなスタッカートで吐いて、ガラスに背中をなすりつけるようにして翻り、口で気泡を噛んでゆく。
 若いひとが若いひとにそのことを話す。
 小学生たちはガラスの側で飽きずにイルカをみている。
「あれぜったいわかってやってるんだって。ほら、あれ、わかってやってるんだって」
 水槽の中はやたらに明るい青色をしていてものすごく遠くにあるようだった。
 いちどだけ近くまでいってみるとイルカの背中に傷があるのがわかった。

 トモコ・ソヴァージュを聴きながらこれを書いている。
 水の音がずっとしている。
 雨は好きかどうか。ぼくの友だちは半分より多くが好きでない。
 雨どいをつたって蜂の死骸が押し流される。頭のどこかでそれの光景をうごかしてみる。
 水の音がずっとしている。

 出先に手帳をもっていった。
 なにも書かなかった。詩になりそうにない書きつけ以外は。
 こんどは坂の高い場所へいこうとおもう。

 蝿の死ぬ話を読んだ。
 なんと書いてあったかもうおぼえていないが、とにかくああいう虫が死ぬと粉が出てこまるというのである。
 ぼくは蛸が死ぬとおなじように粉を吹くのをしっている。結晶しきらなかったなにかだろうとおもっている。くわしいことはしらない。
 蛸の話を書こうかな、とおもいついて、それからやつの脚の数が何本だったか記憶だけをたよりに指折り数えている。

 電車にのっているとき、まわりは山ばかりだなと気づいた。
 動いている電車にまでセミが鳴いているのがきこえてきた。

 詩があれば歌などかってについてくるとソフト帽を被った詩人がいつかいったそうだ。
 <育ちすぎたアザミの息の根が>わたしのなかにもたしかにあるか、いまいちわからない。
 壮年と老年のはざかいにいるような、細い腕の、下腹のふくらんだ、くすんでひからびた肌の詩人をいちどだけみた。肉は落ちたが酒に酔い、むかしその辺りをうろうろしていた野犬よりよっぽど貪婪な眼と顔であった。

 冬の朝、起きると鬼がいた。右の顎下を角でつつくので起きた。鬼なのであった。
 なにかむきになっているようなのではてと思うたが、どうやら春先の鬼の双子とみえた。
 お早う御座います、というと大仰なそぶりで頷いてみせるので、さむくはないですかと尋いた。返事はよくわからなかった。朝餉の支度をしに床から抜けた。

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