文芸部の三語噺。 ( No.1 ) |
- 日時: 2011/02/27 00:04
- 名前: ウィル ID:4wginLhY
- 参照: http://29.pro.tok2.com/~tc/genreki.cgi?log=20100917&key=20100817184233&action=html2
「三語噺を書きましょ」 その提案は、俺の幼馴染にして文芸部部長で三年の篠宮秋穂によって発せられた。 「ということで、お題は「歪んだ」「忍耐」「認識」ね」 そして、いきなり三語が決まった。 三語噺というのは、決まった三語を文章に入れて短い物語を作る。有名なところでは、電○文庫の公式サイトで読者参加型として募集されていたりする。 「三語噺ですか? 面白そうですね」 そう笑顔で答えたのは一年しえの朝倉菜緒。いつも笑顔でいる女子生徒で、秋穂のわがままにも笑顔で答える、とてもいい子だ。ちなみに、文芸部には二年生がもう一人いるのだが、今日は休みらしい。 「観音も参加するわよね」 秋穂が俺の名前を略して(ちなみに俺の本名は観音寺透だ)参加を促す。 「まぁ、先週やった、蛍の光だけで小説を書こう会よりはよっぽど有意義だしな」 あれはひどかった。うん、視力が一気に下がったような気になる。 「ということで、みんなで書きましょう! 制限時間は十分」 「短っ!」 「スタート!」 秋穂が俺のつっこみを無視して開始の合図を出した。
そしてきっちり十分後。 全員が持参したノートパソコンに文章を書き終えた。
「じゃあ、まずは菜緒ちゃんからいってみよう」 「不束者ですが、よろしくお願いします」 菜緒が笑顔で毎回恒例の挨拶をしつつ、菜緒が書いたものを読むことにした。
私の生き方 作 朝倉菜緒 《私の感情はいつも歪んでいる。いや、私だけではない、皆の感情も歪んだものだと思う。 全く知らない初対面の人間に対し笑顔で挨拶し、多数の人間の認識を人間全体の認識のように勘違いし、それから逸脱した人間を間違ってると罵り、そして、親友でもない友人を作って独りでいることを避ける。 そんな日常を普通だと自らに律し、忍耐力だけが積み重なっている。 でも、私は生きている。 たぶん、生きる権利ではなく、生きる義務を背負って。》
……なんだ、この笑顔一年生。とんでもない内容を書いてるぞ。 「うん、とってもいいわ! なんだか文芸部っぽいわよ」 秋穂が満足げに頷く。 「ありがとうございます」 笑顔で礼を述べる菜緒。その笑顔は本当にうれしいのか? それとも回りにあわせてるのだ? どっちか教えてくれ。 「次は透先輩の小説を見せてください」 笑顔でいう菜緒に、俺は背筋を伸ばして言う。 「どうぞ、お読みください」
告白 作 観音寺透 《認識が甘かったとしかいいようがない。 彼女――春花(ハルカ)と付き合うことになって、俺はそう思った。 俺と彼女は幼馴染だった。小さい頃、彼女は男の子のようにガサツであり、まるで男友達かのような付き合い方をしていた。 あれから幾年かして、彼女の容姿は段々と女性特有のそれとなっていき、なんというか、まぁ、魅力的になってきた。そうなると、男子というのは、一緒にいるのをいやがる。特に小学生や中学生における思春期においてはそうだ。だが、問題は彼女の性格だった。 彼女の性格は男子が抱く女性らしさなど全く無い、男の子のがさつさがさらに増したものであり、俺に対しての対応もそれだった。そのせいで、俺と彼女との関係は昔と全く変わらない。変わったのは、ただ俺の気持ちだけ。 つまり、俺は彼女のことが好きになっていた。 だが、どうしろというのだ。 彼女は俺のことを異性としてみていないことはよくわかっている。そんな状態で告白したら、どうなるというのだろうか? いや、俺もわからない。 ただわかるのは、彼女と俺の関係は変わるということだろう。 今までのように、友達のような関係ではいられない。 少なくとも、彼女は俺のことを友としては好いてくれていると思う。そんな状態を、俺はいやじゃなかった。そうじゃなければ、忍耐力の無い俺のことだ、彼女と距離を置いているだろう。いや、そもそもこんな状態にはならなかった。 歪んだ感情だとは思う。恋人になりたいのに恋人になりたくない。でも、このままではいたくない。 だから、俺は彼女に告白することにした。 「春花、好きだ。付き合ってくれ」 悲しいかな、前日まで用意していた告白の台詞など全て忘れてしまい、そんなテンプレートな告白をした。 そして、彼女の答えは、 「別にいいわよ」 めちゃくちゃシンプルな答え。 「というか、付き合っても、今と何が変わるのか全く分からないけどね」 と付け加えられた。 そして、結果、全く変わらなかった。 そう、俺の認識が甘かった。俺が春花に対して、彼女になってもらってしたかったことなど、とっくの昔から叶っているんだと。 彼氏になってもなにも変わらないんだと。 「あ、でも私の彼氏になるなら、お昼ご飯たまに驕ってね。男でしょ」 訂正。彼氏になんてなるもんじゃなかった。》
「あらあら、まぁまぁ」 なぜかおばちゃん口調になって笑う菜緒。頼むから、その笑顔は嘘の笑顔であってくれ。ていうか、書いたときはよかったけど、後輩に読まれることをすっかり忘れていたからめっちゃ恥ずかしいぞ。 「ねぇ、観音。この春花ってたまにあんたの作品で出てくるけど、モデルとかいるの?」 「さぁな」 秋穂が春花のイメージについて考えている。 「なぁ、秋穂。俺たちって付き合ってるんだよな」 「ん? そうだけど?」 「だよな」 これを読んで少しは改めて欲しいと思ったけど、どうやら俺と秋穂の関係はこのまま続きそうだ。もしかしたら一生……やべぇ、涙が出てきやがる。 「じゃあ、最後は私ね!」 最後。秋穂が自信満々に俺たちに小説を見せた。
読書 作 篠宮秋穂 《本を読むには忍耐がいると思ってたけど、歪んだ認識だったわ》 「またこのおちか」 結局、秋穂の文章はそれだけだった。どうりで早く書き終わっていたはずだ。 まぁ、一文だけで三語使う力は尊敬するが。 「もう、このオチも天丼(いつものオチ)ですね」 菜緒が笑顔で言う。 「じゃ、帰るか」 俺は疲れたので帰ろうと提案した。
☆
透先輩だけが気づいていませんでした。 あの時、私はその文章が改行され続けているのに気づいて下にずらしていきました。 そして、七十五行目の一文を見ました。 《だって、みんなで小説を書いて、皆で読むのはとっても楽しいから》 このオチもテンプレートっぽいです。一行の間に、“みんな”と“皆”が混ざっているのが部長らしいですが、この一行には私も同感です。 だって、先輩たちといるときの私は嘘の私である必要が無いんですから。 「菜緒ちゃん、今日は透に奢ってもらいましょ!」 「なんでお前が決めるんだよ」 「菜緒ちゃんだけ自分で出させたらかわいそうでしょ」 「俺のことは可哀想とは思わないのか! てかお前の分まで出すなんて言ってないだろ」 「思い出したんだけど、私たちが付き合ったときに時々おごってくれるって約束したじゃない」 「あぁ、余計なこと思い出させてしまった」 二人を追いかけて、私はパソコンの電源を落としました。 「はい、今行きます!」 ただ、あの二人を見ていると、私も彼氏が少し欲しいかな、なんて思います。
------------- 文芸部物語。 過去に、似たような物語を書きましたが、まぁ、読んだことがある人はいないのでこそっと出します。ちなみに、過去の作品では、三人で三語ではなく、四人でポエムを書いていました。
|
|