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バブル吸い、と誰かが言ってた気がする。
何年も吸い続けている煙草は、本当に好きで吸っているのだろうか。

まだ十分にその力を発揮しそうな長さの白い殺人器を
とりあえず色をつけてある指先で殺した。

この苦い煙に依存するなんて事は、15年たっても、無い。
なんで吸い続けるか。
考えるのは煩わしいからってだけの理由だろうと思う。

目の前の男が、距離を置くだか別れるだか
着地点のない迷路のような言い回しを続けている。

ふぅ、とまだ肺に残っている気がする苦味を吐き捨てて、
同意の言葉を、それらしく、並べた。

その途端、つらつらと恨み節を放った男に、
また肺を汚したい気持ちにさせられる。

縋って欲しかったのでしょう。
乞うて欲しかったのでしょう。
否、そうなると確信していたのだろう。

そうしてもいいと思っていた。
一通り考えた対応の中では、一番無難だと。

終止符を、なんて言い回しは大袈裟だ。
面倒臭くなっただけなんだから。

陳腐な言い訳を躱して部屋を出る。
男の唖然とする顔が、私にはしっくりきた。

何を感じればいいか分からない。
喪失感、焦り、悲観も今の私には無い。

暗くなんかない冬の夜の道で、
なんで頬で風を冷たく感じるかは、
分からないままでいようと決めた。
だって、面倒でしょう。
それでいい。それが、いいのだ。





pico
2018年01月06日(土) 08時02分41秒 公開
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No.1  陽炎  評価:20点  ■2018-01-20 21:00  ID:uVD8.FKNQlU
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煙草は吸っているが、決してニコチン依存というわけでもない女と
少しめんどくさそうな男との別れ話の詩

女は終始一貫して冷めている、というか渇いていて
なくなって困るものなど何もない、といった感じで
はっきりしない男の態度にイラつきながらも
冷静に男の意図を分析したりしている

縋りついてほしいんじゃなくて
男のほうが女に縋りついていたいんだということを
おそらくこの女は見抜いたのかもしれない

別れの喪失感がないといえば、それは嘘になるだろう
だけど、それを云ってしまっては負けになるので
女はどうってことないわと、そこでまた一服したかもしれない

全体に漂っているであろう煙草のむせるような煙と
渇いた文体が、この詩にすごく合っているように思いました

ただ一瞬、これ煙草吸う人の話なのか吸わない人の話なのか
どっちなんだ? と思ってしまった部分があり
そこだけちょびっと気になりました
総レス数 1  合計 20

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