桜にとける

雨で散った桜の花弁が
濡れたコンクリートを彩って
陽に煌めくその道は
まるで川の様にも映り
僕の記憶を喚起する

微かに緑の萌える頃
透き通るような空の下
ゆるりと笑って彼女は言った
ボロボロになったスカートを
固く握って……


ーーイジメ

関わりたい人はいないだろう
“見ていないふりも共犯だ”
大人たちは言うけれど
ヒーローでもない僕たちは
今日も共犯になっていた

道端でナイフを振り回す人間を
止められる一般人は何人いるか
通報ぐらいは出来ると言うが
酷く頼りない法の中では
そんなことすら ままならない

変える力をもつグループは
イジメの主犯なのだから
僕には 人脈も力のある友人も
なかった、 いなかった
でもまぁ、元々よく知らない人だし

ぶりっ子だとか 生意気だとか
毎日毎日……あぁ、運が悪かったね
自己愛だけは十分にある
どこか冷めた自分と
罪悪感に震える自分

確かに彼女は
自覚がなかったのかもしれないが
相手によって態度が変わる
無意識に人を傷つけて
無意識に故に謝らなかった

だからと言って
イジメは良くないことだと思う
ナイフを向けられた人間が
善人か悪人かは関係ないのだ
ただ、助ける気にもならなかった

分かっていても ダメだった
長ったらしい言い訳のもと
結局僕は眺めていたのだ
よく知りもしないくせに
決めつけたまま……

ある日 偶然見かけた彼女が
雨の上がりの危険な川で
身を投げ出そうとしていた
必死に走って 彼女を止めた
その服には イジメの跡が残っていた

散々無視していたくせに
僕は一体何を今更ーー
気まずさに目を逸らした
眼から溢れ出てくる涙を
拭うこともせず彼女は言った


ありがとう。
貴方のおかげで死なずに済んだ



あぁ、今年も
……声が 笑顔が

桜に溶ける
ヤエ
2015年04月08日(水) 15時49分47秒 公開
■この作品の著作権はヤエさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。

この作品の感想をお寄せください。
No.8  ヤエ  評価:0点  ■2015-04-10 23:28  ID:BymBLCyvz/o
PASS 編集 削除
Aさん
こだわった箇所や個人的に気に入った表現を良いと言ってくださり感無量です。
ありがとうございます!!
温かいと言っていただけて嬉しいです。
未だに、彼女のあの言葉は皮肉だったのではと思ってしまいますね。
No.7  A  評価:40点  ■2015-04-10 00:43  ID:pA0QzJ9KbiA
PASS 編集 削除
この作品の面白いところは、イジメを受けていた「彼女」をイジメから直に救い出せなかった「僕」が、大人が無責任に振りかざす道徳に従ってではなく、「彼女」と彼女をいじめるグループ、クラスメート、自身に関する思考や感情を偽らず見つめ、その上で「彼女」の自死の予感に対して自分でもよく分からない衝動によって彼女を自死から救う行動が生まれたところにあると思います。驚くべき事に、これは実体験との事。この事実の中に、「僕」は何かを探り出そうとしており、明確にはならないけれども、桜に「声が 笑顔が」溶けるという表現にいわくいいがたい詠歎の念を表出するところに行き着く。イジメでボロボロになったスカートをはく彼女と、雨に散った桜はイメージ的に重なる。この作品の桜色の画面とそこに溶けて見えなくなる桜色の言葉は桜に溶けるという最後の表現に通じるが、同時に、これはうつむいた「僕」が内省しながら歩む道の印象の表現になっている。微かに緑萌える頃から桜咲き散る季節への移行が文字色の違いとしても表現されている。温かいものを感じます。
No.6  ヤエ  評価:0点  ■2015-04-09 17:28  ID:BymBLCyvz/o
PASS 編集 削除
游月さん
こんにちは。
私自身、最近自分が書いたものが詩になっているか微妙だと悩んでいました。真ん中の部分、確かに直した方が良さそうです。
イジメという単語は頭に桜を見て、彼女を思い出した時に そのワードが浮かんで来たので、そのまま書きました。意図がなくとも、読み手が游月さんのような印象を受けることがあるのでしょうから、構成を考え直そうと思います。私も、最近ある方の作品を見て、本人の意図かどうかは分かりませんが、読む気をなくしたことがあります。

直接事実を述べなくても伝わる様に、というのは大分前からアドバイスして頂いてるのに進歩がないのだなと考えさせられました。ちゃんと向き合わないといけませんね。

コメントありがとうございます。
No.5  ヤエ  評価:0点  ■2015-04-09 17:19  ID:BymBLCyvz/o
PASS 編集 削除
菊池さん
勘違いをしてしまい、不快にさせてしまい申し訳ありません。
再度、ありがとうございます。
No.4  游月 昭  評価:20点  ■2015-04-09 16:28  ID:qx2ygamosbQ
PASS 編集 削除
ヤエさん、こんにちは。

ラストへの展開は面白いと思いますが、
真ん中の長い部分をちゃんと詩にした方が良さそうですね。
イジメという解決の難しい問題で、「非難」とか「自殺」とか「無関心」という、幸せとは別方向の事柄を述べていくわけですが、事実を並べても「幸せとは正反対の感情」で読む他は無くなってくると思います。
まず、「イジメ」と銘を打ち、「さあ、イジメ問題ですよ」と言われているような感があり、「倫理の勉強会」か?と構えさせているところが鬱陶しいです。

《映画の話》
例えば時代劇で、仲むつまじい母子が辻斬りに斬られてしまうシーンを撮る。
1カット)手をつなぐ母子の後を浪人。
2カット)地蔵、その足元、蝉の転がる地面。
母子の悲鳴が聴こえ、地に血しぶき。
刀を鞘に納める音と足早に立ち去る音。

これで母子が斬られたことが分かる。
No.3  菊池清美  評価:0点  ■2015-04-09 16:13  ID:te6yfYFg2XA
PASS 編集 削除
ヤエさん
”傍観者と言えど其処に居る”と書きました、その点が良いと思いコメントしたのです。
  
No.2  ヤエ  評価:0点  ■2015-04-09 14:57  ID:BymBLCyvz/o
PASS 編集 削除
菊池さん
コメントありがとうございます。
一体何を持って「作者が居ない」と仰るのかは分かりませんが、一つ言えることは これは私の実体験であり、むしろこの作品には私と、私から見た彼女しかいないということです。

確かに、詩の好みも捉え方も人それぞれです。新たな視点をありがとうございました。

個人的には、前後のは“演出”のつもりもなく、ただ本当に思い出した時のこと(毎年のように思い出すのですが)を自分の中でぴったり来る表現で書いただけなので、なんとも……まぁ、いらなかったのかもしれませんね。

ありがとうございました。
No.1  菊池清美  評価:30点  ■2015-04-09 08:29  ID:te6yfYFg2XA
PASS 編集 削除
傍観者と言えども其処に居る、もはや唯の傍観者ではなく参加者…
作者の居ない物はニュースかドキュメンタリー、詩とは言わないと思う。

あくまでも個人の好みでしょうか、前後の演出は要らないと思う。
俳句は世界一短い定型詩と言います。
痩せ蛙負けるな一茶此処に在りーー弱い者、圧倒的に不利な者の肩を持つ作者が其処に居る…愛される句です。
        
総レス数 8  合計 90

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除