別れ際
喉が詰まったよう
胸が苦しい
全身緊張している
そんな自分を斜め上から眺めたら台詞は簡単に思いつくけれど
宙に浮いた言葉を手渡したくなくて
身体が納得するような言葉を探しながら
駅まで送るために川沿いの道をあなたと並んで歩いていた
あなたも途中から黙って、時々首を回しては眼差しをどこかへ注いでいた
僕も何となく真似をして、傍から見れば滑稽に見えたかもしれない
川の黒い流れが妙に心に残った
それにしてもあなたに近いほうの半身がずっと痺れていて
不思議な磁力のせいにして身を寄せたいと思っていると
「月が綺麗ですね」
震える声が僕の言葉でなかった事に驚いた
見上げると確かに綺麗な月だった
振り返ると、あなたはもう下を向いていたけれど
震える声の余韻は胸の底にまで沈んでいって、僕の心は揺れた
その途端、僕達を包む空間が殆ど透明な微かに青い物質に満たされている事に気付き
その中を歩んでいる事を知って緊張が解けていった
僕は自分の言葉を求めなくなった
それよりも音楽に耳を傾けるように、心を二人の歩みに委ねた
あなたの言葉に言葉では応えなかったけれど
きっと僕達は同じものを感じていて
この世界に生きている事が嬉しくなった
視界は澄み広がり
どこまで深まっていくのか分からない胸の内の安らぎ
また一人になって苦しい時は、何度でもここに戻ってきたい――

枝垂れ柳を背に仄暗い駅舎の前であなたに別れを告げた時
小さな光があなたの瞳に宿って潤みの中に吸い込まれていくのを見た
今も忘れられない
2014年10月30日(木) 12時40分13秒 公開
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No.4  A  評価:--点  ■2014-11-13 21:07  ID:pA0QzJ9KbiA
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お試しさん

ご感想ありがとうございます。

緊張が高まって、それが解消される感じというのは、気持ちの良さに関係していると思います。冒頭三行は唐突に言われるので、違和感を抱かれたのかもしれないですね。なぜ緊張が生じたかについて書くのは控えたいのですが、別に原因を書かなくても、もっと上手く書けたかもしれません。

今作は前の板の『風の卵』『短歌』からの系列で作りました。「適度な幸福感」という風に受け取っていただけてよかったです。
No.3  お試しさん  評価:50点  ■2014-11-13 18:59  ID:9h6qp5PumAE
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冒頭の3行にはちょっとだけ疑問符がつきます。とくに3行目。
以降はおおむね綺麗ですね。Aさんのいままでのなかで一番すきかも。
最後のほうは特にいいですね。幸福感が適度だからいいんです。ちょっとさみしさを孕んだ幸福感だからこそ。
簡単ですが。
No.2  A  評価:--点  ■2014-11-05 08:08  ID:pA0QzJ9KbiA
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游月 昭さん

ご感想ありがとうございます。一昨日から熱にやられてほとんど動けず、布団にくるまって寝てたんですが、さっき起きがけに見た夢に「あなた」が出てきて、夢の中だけでも心が癒されました。「あなた」は二人に分裂してて、一人は僕を背中から抱き締めていて動かず、もう一人は僕の前にやってきて、僕に色々と話をするんですが(笑)

現実で上手くいかなくても、夢に心を癒す機能があるなら、どうして現実でも夢の力は及んでくれないのでしょうか。そうすればもっと楽に生きられるでしょうね。
No.1  游月 昭  評価:50点  ■2014-10-31 15:15  ID:9RQqff0XeF.
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おおー
Aさんこんにちは!
言い表してますねー、いいなぁ
(最近小さな「ぁ」の出し方を教わった^^)
ふたりなんでもないように振る舞いながら、実は全く同じ意識で、バツが悪くて境目に意識のエネルギーが放電し合ってる感覚!
どちらも溶けるルートを探っていて、双方その光が見える瞬間が有って、この詩で言えば「月が綺麗ですね」という名言になる訳ですが、さりげなく使われていて、例えばこれが50歳の二人であっても、若人であっても共通する、人の純真で可愛らしい部分を浮き彫りにしている良い作品だと思いました。
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