静かな復讐
ところどころ蝕まれた、
枠のない夢の明るさ
その明るさに滲んだ不安さえも蝕む透明な何かが
不眠の夜、胸の内で
腐りかけの林檎のように重たくなっていた

陽が昇る頃、川辺を訪れ
重たいものを橋の欄干の上に置いた
それから少し川下に向かって歩き
水辺から橋の方をじっと見つめながら
身体が冷えていくのを感じた

夕暮れ時、この川を赤いボールが一つ流れていくのを見た事がある
子供の頃、友達と遊んでいて
手の届かない場所にボールが飛んでいった時の
どよめく心が懐かしい
あの頃には戻れないが

哀しいと叫ぶ代わりに偽り
痛むものを夢の外に隠し続ける日々だから
せめてもの慰めに
美しいものは痛みを横切って
偽りに復讐しなければならない
2014年12月02日(火) 12時04分17秒 公開
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No.4  A  評価:--点  ■2014-12-04 00:24  ID:pA0QzJ9KbiA
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クレナイさん

ご感想ありがとうございます。

「腐りかけの林檎」=「痛みもの」というのは、意識した事なので気付いていただけて嬉しいです。ちなみに、僕の中では林檎、陽、ボールとイメージ的につながっています。痛むもの=林檎ですから、全ての連を丸いものが流れていく感じです。素敵と言って頂けて嬉しいです。
No.3  A  評価:--点  ■2014-12-04 00:27  ID:pA0QzJ9KbiA
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陽炎さん

ご感想ありがとうございます。

ボール遊びの途中で飛んでいったボール、それをめぐって新しい遊びが生まれたような、今考えれば、そんな印象の思い出です。この作品では「ものとの距離」について書きました。痛みや哀しみは自分にとっては距離ゼロですが、イメージに対しては距離をとる事が出来る、だから、あるイメージが偽りとして現われたなら、美しいものが距離ゼロを横切って、イメージとの距離をとりなおす、あるいは距離(新しいイメージ)をつくり出さなければならないという感じです。ラスト2行、気に入っていただけて嬉しいです。
No.2  クレナイ  評価:40点  ■2014-12-02 23:47  ID:dJ/dE12Tc8A
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Aさま

こんばんは。
私もラスト二行がとても素敵だと思いました!
昔のような自分に戻れない苦しみ、葛藤。今の自分の姿への不満、不安。けれど、それらをそのままにしないで、復讐しなければならないという潔さ。そのような感じを受けました。

それと、一連目も好きです。
特に、
不安さえも蝕む透明な何かが〜中略〜腐りかけの林檎のように重たくなっていた”
の部分が大好きです。
違うのかもしれませんが、腐りかけの林檎”=痛みもの”なのかなと思ったりもしました。
素敵な詩をありがとうございました。
No.1  陽炎  評価:40点  ■2014-12-02 15:11  ID:OJmj6OeLU/s
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拝読しました

Aさんの語り口って
なんだか心地よくって好きです

3、4連目がいいな、と思いました
懐かしくてちょっと痛くて
それでいて、夕陽にきらめく水面みたいに
キラキラしているように見える
そのときには別段何も思わなかった風景が
時を経た今、遠くにあるものを眺めるように見つめるから
美しいように見えるのか

哀しいと口に出せないかなしみ

ラストの2行が秀逸だと思いました
やられた、と思いました
総レス数 4  合計 80

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