天気雨
街で時々見かける、いつも地味な服装の若い女性が
小さなスーパーの野菜売り場の前で空っぽのカゴを右腕に提げ、静かに泣いているのを見た
女性は俯きもせず、涙を拭う事もなく、悲しそうな顔で通路をゆっくりと歩いていた

スーパーを出てから、イヤフォンを耳に挿し込んで、すぐに外した
小降りの天気雨の中、女性の事を考えながら帰り道を歩いた
時々涙がこぼれたが、拭う度に視界は澄み広がっていくようだった

つがいの雀がアスファルトの路上に舞い降りて
何度も少し跳ねて宙で交差して地面に降りては向き合って
やがて並んで家々の屋根の向こうに飛び去っていく姿が目に焼きついた
そして彼方の雲の切れ目から放たれた陽光の眩しさに手を額にかざした時
向こうから歩いてくる見知らぬ女性が黒い傘を傾けて、一瞬目があった
彼女は怯えたように咄嗟に傘で顔を隠し、僕も思わず肩を竦め視線を落とした
そこらには電線や街路樹、流れる雲を影のように映す小さな水溜まり
そのどれかに火照ったこの顔を浸せば
どこまでも澄んだ空が覗けないものだろうか
そこで本当の事を叫んでから
犇めく言葉に一律投身自殺を命じる
2014年08月20日(水) 09時22分03秒 公開
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■作者からのメッセージ
よろしくお願いします。

大幅に改稿しました。(8/29)

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No.6  A  評価:--点  ■2014-09-04 14:57  ID:pA0QzJ9KbiA
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shikiさん

ご感想ありがとうございます。shikiさんのご感想を読ませて頂いて、キリコの『街の神秘と憂鬱』を思い出しました。この絵に感じられるような独特の「懐かしさ」が大好きでして…それを書こうと意図していた訳ではないのですが。

改稿してしまいましたが、「何だかよくわからないもの」は胸の内に「ある」ような気がするんですね。それは欠落感とも繋がっているのですが、頭の中で響く音楽のようには「あり」ます。もっと上手であれば、それを眼前に取り出してお見せする事が出来るのかもしれませんが…難しいですね。
No.5  shiki  評価:40点  ■2014-09-04 12:41  ID:/S6hyAqUMcE
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拝見させていただきました。

真空とは無で満ちた状態だといいますが、「何だかよく分からないもの」というのがわたしには「心の洞」とか「欠落感」とかに思えました。そう考えると、筆者はないものを凝視しているのではないかと思われ、その姿勢に、あまりにも繊細な詩作家らしい詩作家を見るような気がして(気安く詩人と言われることを好まない方もいらっしゃると思ったので仮に詩作家と言い換えてみました)、いい意味でぞっとするような思いがしました。
もしかすると他の作品でも魅かれた理由は、この「空洞」に目を凝らしているかのような視線だったのかもしれません。
子供の頃、よく「帰りたいのに帰る場所がない」といった思いにかられました。家に居場所がないとかではなく、心の居場所を勝手になくしているかのような迷子感。ほとんどの人が成長過程で一度は感じるであろう根拠のない家なき子感みたいな……。
筆者の作品を読んでいると、そんな子供の頃を思い出し、なつかしい心もとなさに何故か新鮮な感動や安らぎを覚えるのです。
難しい言葉を使わずにこんな繊細な表現をできるのはすごいことですし、言葉の選び方にもセンスが感じられて、想像がふくらみます。
>痺れた指先に静かな音楽が滴るのを待て
とても印象に残ります。
でも下のコメント欄を見ると必ずしも作品に納得していらっしゃらないようなのでこれ以上余計な感想は控えようと思います。

勝手な解釈で感動させて頂きました。
知識も技術も持たない者ですから、参考にならない感想で恐縮しますが、作品は作者の手を離れたら読者のものという観点から、広い心で受け流して頂ければ幸いです。

と、以前書いたものをコメント投稿しようとしたら、すごい改稿されていたのですね。

印象としては……書き換えたあたりから時空が歪んだような印象です。
最初に書いた時と改稿した時の気持ちの温度差が不協和音を生み出しているような感じを受けます。個人的には最初の方が好きですが、これもまた筆者の赤心の一端であることを想えば作品として面白いようにも思います。
勝手を書きましたが、ご容赦ください。
No.4  A  評価:--点  ■2014-08-24 20:32  ID:pA0QzJ9KbiA
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游月 昭さん

ご指摘の箇所から、意図(「救い」)を見失ってしまったというか…今考えると、爆弾の導火線に火を付けたのに、途中で怖くなって火を消してしまったような感じかもしれません。「何を書いても怖くない」と思い込んでいたのですが、違ったようです。愛の反対は怖れかもしれませんね。
No.3  游月 昭  評価:30点  ■2014-08-24 19:57  ID:sqfh9gLDeNI
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こんばんは。

意図してますよね
>「空っぽ」の「カゴ」を「右腕」に提げ
ここに集中力を感じました。

>祈りの姿を見つめる事は
>無言に躓いた痛みに耐える事であると同時に
→分かりにくいのと同時に、ハマってないかなあ、と感じました
No.2  A  評価:0点  ■2014-08-23 10:42  ID:BymBLCyvz/o
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時雨宮蜉蝣丸さん

ご感想ありがとうございます。

〉この忘却は…忘れたい事を連れていってくれる訳ではない。

そうかもしれません。この辺りで書くのが難しくなって、正直、どう書いたらいいのか分からなくなってしまいました。反対の存在が重要、というご意見を伺って(初めて聞きました)、ここで憎しみを書き抜けば良かったかな、と思います。が、僕はまだそれほど強くないようです。この作品もほぼフィクションですし、現実逃避の一形態だと思います。現実を描きたいのですが…

付記

そう言えば、愛の反対は憎しみではなく、無関心だと誰かが言っていたような…どうなんでしょう?
No.1  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:30点  ■2014-08-20 13:35  ID:nJykgayE7oc
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こんにちは。

悲しいことは、喜びを感じるための最大にして最短の手段と思います。物の価値を見出だすに、反対の存在が重要であることは既に広く知れ渡っていることです。

>>何だかよくわからないものを見つめている内に
 失われゆくものの重たさに胸の秤が潰れそうになっても
 その前に優しい忘却が必ずやってきて柔らかな光がすべてを
 奪っていく

ここのところが好きです。
でもこの忘却は、忘れられることしか連れていかなくて、必ずしも忘れたいことを連れていってくれるわけではないんですよね。
仏教の言葉に『諸行無常』『色即是空』というのがありまして、俺の脳内成分の一つです。
この詩のどこか掴みきれないところに、この二つの言葉を見ました。

妙なリアリティありますね、現実逃避に幻想詩ばかり書いてる自分には、ホント現実みたいです。
ありがとうございました。
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