沈黙の練習
話し方を忘れた
皆の言う事が分かり
言うべき事が分かっても
話し方を忘れてしまった
これで生きていると言えるだろうか
話し方を忘れて

今度、あなたに会うまでに
練習しておこう
沈黙を
たとえ話し方を忘れても
あなたの言葉の隙間から告げるために
(生きているよ)とか

僕は夜ごと、使い古した枕を持って暗がりの中に踏み入り
うつ伏せに倒れ、ぶつぶつ呟く男を必ず見つけ出し
仰向けにして、何を言っているか聞き取る前に
枕を顔に押し当て、窒息させてしまう
そして、言葉の隙間からも眼差しの届かない深い穴に男を捨てる
男が穴の底に着く音に耳を澄ませても、聞いた事は一度もない


温かな雨の降る或る日の昼下がり、小さな喫茶店であなたと会った
あなたも誰かを捨ててきたのが、すぐに分かった
あなたも話し方を忘れていたから
ホット・コーヒーが喉に引っ掛かった
カウンターの端に置かれた小さな観葉植物が何かを叫んでいた
あなたの光のない瞳を時折見遣っては、僕は言葉を探し続けた
A
2014年05月05日(月) 10時40分50秒 公開
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No.6  A  評価:--点  ■2014-05-14 00:46  ID:pA0QzJ9KbiA
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青ガラスさん

はじめまして。

ご感想ありがとうございます。お褒めの言葉、嬉しいです。
No.5  青ガラス  評価:50点  ■2014-05-13 21:41  ID:6Sbbo4.76/Y
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はじめまして!

三連目がおぉ!って思いました。秀逸。
創造力、想像力だけでは書けそうもないです。

あなたの言葉の隙間から告げる、、というのも
唸ってしまいました。

次作もお待ちしています!
No.4  A  評価:--点  ■2014-05-07 03:11  ID:pA0QzJ9KbiA
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時雨ノ宮 蜉蝣丸さん

こんばんは。初めまして。

ご感想ありがとうございます。最近、ほとんど人と話す事がなくて、実際、僕は社会的に死んでるみたいな気がしてます…伝えたい事が伝わらなくて悔しい思いをしたり、相手の気持ちを推し量る事の難しさを痛感しながら思いを廻らせたりする中で、何か複雑なもの、微妙なものに触れる、そういう機会がとても大事だと思います。作品を書く時、その感触をちょっと思い出しました。自分と対話するからでしょうか。「等身大」というお言葉を頂いて、もっと丁寧に自分と対話してみるかな、と思いました。自分の気持ちをもっと繊細に確かめれば、「等身大」に近付くのではないか、それに、「あなた」に届く言葉を見出す事もきっと出来るのではないかと思ったからです。
No.3  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:30点  ■2014-05-06 22:43  ID:oo5THvv4/4k
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こんばんは。初めまして。

話し方を忘れるなんて、このご時世で遭いたくない事態ですね。社会的には死ぬ可能性ありますから。
ただ、その沈黙すら会話の余韻に変えてしまって、心地よく緩やかな空気を生み出すことができたらどんなに素敵なことでしょうか。沈黙を味方につけるなんて、かなり高度なテクニックがいりますね。そんなことを読みながら思いました。

沈黙が訪れたその瞬間
貴方の呼吸が 優しいまばたきが
僕を惹き付けて離さない

若さと不器用な温かさが、不思議な人間味を感じさせる詩でした。もう少し、等身大の表現でも、十分伝わったかなとも思います。
雰囲気はいい感じでした。次回作も期待してます。ありがとうございました。
No.2  A  評価:--点  ■2014-05-06 17:51  ID:pA0QzJ9KbiA
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游月 昭さん

こんにちは。はじめまして。

ご感想ありがとうございます。伯父さんのお言葉、面白いです。僕も煙草は吸いませんが、煙草を吸ってる人を見て、そんな風に思った事はありませんでした。「間」って結構不思議です。無理に話題を放り込んでも、何か白々しい、そんな「間」とか、他にも色々な「間」があると思うんですが、それも人によって感じ方が違ってたりして…何かその「間」に対して働きかけるやり方みたいなものがあるんじゃないか、という思いが「沈黙の練習」という言葉に通じている気がします。

「話し方を忘れる事」と「生きていると言える事」が等価というのは、確かに大げさかもしれません。書いてる時は、そんなに大げさとも思わなかったのですが、今、見返してみるとそんな感じがします。書いている時と、書き終わった後の温度差って怖いですね…

ラストについては耳が痛いです。たとえば最後の一行で、もっと素敵なフレーズがビシッと決まればよかったのですが…途中でへたれた感はありますよね。「言葉を探し続けた」に代わる言葉を考えてみようかと思います。

作品を書くこと自体、もっと練習せねば…!
No.1  游月 昭  評価:30点  ■2014-05-06 16:40  ID:R6ySbySaLFM
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こんにちは!はじめまして。

ど真ん中の連(三連目)みたいな世界、詩的で好きですー。
沈黙を練習するなんていうのも、ちょっと驚きの言葉です。


タバコを生涯吸わなかった伯父の言葉を紹介します。

「煙ば吸うて喜びよらせば、どがんすっかて思うとばってん、人と話ばすっときにぞ、話題の途切れれば、タバコに火ば点けよらすとさ。そん時、間のもつとさ。そいだけは良かねーて思うじょん。」

はい、通訳します。

「煙吸って喜んでれば、(そんなことして)どうするんだよ、って思うけど、人と話をする時にね、話題が途切れれば、タバコに火をつけてるんだよ。その時、間がもつんだよ。それだけは良いなあって思うんだけどねぇ。」

そんな言葉を思い出しました。


>話し方を忘れてしまった
>これで生きていると言えるだろうか
これは、イマイチ大袈裟なような。

ラストは、練習の成果が少しでも欲しかったなあ。


しかし、暗いばかりにおさまらず、可愛いさが見え隠れする詩になってますね。
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