クスリをください
― あのぅ すみません
  コトバに効く薬ありませんか ―
     コトバに効く薬ですか
     はぁ そういったものは
     当店では取り扱っておりませんねぇ
     外用薬ですか内服薬ですか
商店街の薬局で聞いてみましたが
どうやらそこには売られていないようでした


― あのぅすみません
  コトバに効く薬ありませんか ―
     さあ ちょっと聞いたこともないですねぇ
     どういった症状なんですか
― 僕の意に反して
  コトバが勝手なことばかりするんです ―
  勝手なこと……といいますと
― まったく云うことを聞いてくれなくて……
  こうして話をしている間も何かするんじゃないかと思うと
  もうどうにかなってしまいそうで
  夜もろくろく眠れないんです
  僕は気が狂ってしまったのかもしれません ―
     それはさぞお苦しいことでしょう
     貴方の探している薬はうちにはございませんが
     貴方は いまとても疲れているのだと思われます
     とても強いストレスを感じていらっしゃるのかもしれませんね
     楽になる薬を差し上げましょう
     いえ 何も怪しい薬ではないのでご安心を
     抗精神薬とそれから睡眠導入剤を
     そうですね 1週間分出しておきます
     すぐに効く薬ではありませんが
     徐々によくなってくると思いますよ
     1週間後に予約を取っておきますから
     またそのとき様子を聞かせてください
― 僕 なにか大変なビョーキなのでしょうか ―
     はっきりとしたことは様子をみないとなんとも云えませんが
     そう深刻になる必要はありません
     大丈夫 心配ありませんよ
     お大事になさってください
街で評判のお医者さんに尋ねてみましたが
心の病を疑われただけで 
コトバに効く薬など一笑にふされただけでした


          コトバ コトバ コトバ コトバ
          生きていくために必要だから
          ヒトはそれを手に入れたのでしょ
          ひとりで生きていくには
          ヒトはあまりに無防備で
          あまりにたよりない生き物だったから
          誰かと関り智恵を分け合い 種を残すため
          それを手に入れたのでしょ


          なのに なのにさ
          コミュニケーションのツールだったはずのそれが
          いまじゃ 勝手にひとり歩き

          気にしないで 気にしないで 僕は大丈夫だから
          本当は淋しくて心細くて死んでしまいそうで
          お願いだから今日だけでもそばにいて
          そう云いたいくせに

          何かあったら何でも云ってね な〜んて
          ホントに云ってこられたって 一体何が出来るとでも?

          知らないことを知らないということが
          解らないことを解らないという勇気がなくて
          知ったかぶりを装っては大恥さらし
          云いたくないのか云わせたくないのか
          そんなちゃちな自尊心をいつまでたってもねこかわいがりで

          昨日まであんなに笑い合ってしゃべっていたのに
          些細なことがきっかけですべてが裏返しになって
          歯止めが利かなくなってもうなにもかも全部ダメにしてしまったり
          ごめんねって云えば それで済んでしまえるものを
          ありがとうって云えば それだけで繋がれるものを
          喉の奥にひっからまって 声に出すことさえできなくて
          部屋の隅っこで灯りもつけず ひとりぼっちで泣きながら
          それでも平気へっちゃらだと 卑屈に笑ってしまう僕なのです
 
          コトバって心から作られてるものだと思っていたけれど
          どうやらそれは違うのかもしれません
          僕はもう 僕の中から勝手に出て行くコトバたちを
          どうすることもできないのです


   そんな困ったコトバたちに効く薬があったなら
   僕は 真っ先に手にいれるんだけど
   きっとどこか遠い国の偉い学者さんが
   日夜寝るヒマも惜しんで
   そんな薬を研究開発しているかもしれないけれど
   いまのところまだ
   そんな都合のいい代物はどこにもないらしいので
   今日も うだうだ云いながら
   そんな困ったちゃんたちを 
   詩にあてがってもてあそぶのです
陽炎
2013年06月05日(水) 23時39分59秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
思ってもいないことを口走ったり
藪をつついたらやぶへびが出てきたり
鴨がねぎしょってやってきたり
(それは関係ないですね、ごめんなさい)

とかく言葉ってやつは
扱いにくいものだと痛感する今日この頃

この作品の感想をお寄せください。
No.9  陽炎  評価:--点  ■2013-06-17 18:20  ID:te6yfYFg2XA
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☆SIRIAIさんへ☆

はじめまして、SIRIAIさん
ご批評、ありがとうございます

う〜ん、アイデア勝負で描写力に欠けたかもしれませんね

魔女ですか
そうなると本当にファンタジックな感じになってしまって
本来の私が描こうとした方向からずれてしまいますが
そういうことを仰っているのではないんですよね、きっと

>プレゼントを用意してくれると嬉しい

↑まさにこの言葉に尽きるのかな、と思いました
私に足りないところはまさにそこなのかも
(もっといろいろあるかな 汗汗)

読み手になにかを残せるような
何か、心をひっかくような詩が描けるようになりたいものです

貴重なご意見、ありがとうございました
No.8  SHIRIAI  評価:30点  ■2013-06-14 13:59  ID:..K.tfL042k
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はじめまして、こんにちは。

現実を描写するなら、徹底的に細かく書けばいいと思います。
病院に行って薬の入った紙袋をもらったら、僕の名前を折るように閉じてある
とか、この描写は何を意味するんだろうと読み進めるのが、読者にとって面白い事だと思います。
薬屋を梯子するってところに、読者は期待する訳です。私は、そこに魔女がいるかと想像してしまいました。が、普通でした(本当は処方箋がいるでしょうが)。
文は読みやすく、期待させる力もあると思います。あとは、プレゼントを用意してくれると嬉しい。
失礼致しました。
No.7  陽炎  評価:--点  ■2013-06-13 18:00  ID:te6yfYFg2XA
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☆はしずめまいさんへ☆

厄介ですが、面倒みてやりたいとも思いますよ
だってその厄介なコトバがあるから
こうして詩が描けてるわけですから

ありがとうございました


☆卯月 燐太郎さんへ☆

お久しぶりです
前回は失礼な云い方をしてしまったかもしれません
また読んでいただき、ありがとうございます

相手の考え方とか体調とかそういうのもあると思いますが
やはり、思っていることを思ったまま伝えるというのは
なかなか至難のわざだと痛感します

小説を書いてらっしゃる方の批評は面白いですね
詩ってどこか感覚で捉えることが多いと思うんですけど
客観的、というか、読み物として見た視点からの批評は
あまり頂いたことがないので、参考になります
>コトバが部屋の隅で固まってしまってる
なんか膝を抱えて小さくうずくまってる感じで
たしかにそういう表現、面白いと感じました

時間がなくて未読ですが
「猫男」、あとで読ませていただきますね

ありがとうございました


☆逃げ腰さんへ☆

お読み頂き、ありがとうございます
そう云っていただけてよかったです

ありがとうございました


☆流月楓さんへ☆

いつもありがとうございます

人って、相手もきっと同じ思いを抱いているはずだっていう
どこか都合のいい思い込みをしてしまいますよね
だけど、同じように見えるけどホントは全然違って
それぞれ考え方とか感じ方とかがあるから
コトバとか放った思いとかそのまま受け取ってくれるとは限らないし
自分も相手のコトバに過剰に反応して、怒ったり泣いたり

ホントはそんなこと思ってもいないのに
つい口走ってしまってどうにもならなくなってしまったり
心にもないっていう言葉もありますけど
もしかしたらそれは、コトバではなくて
心にもないという感情が心があるのではないかと
そんなふうにも考えてしまったり

後半の独白はすべて私自身のことですが
なにか流月さんの心にひっかかってくれたのならば
とてもうれしいし、書いてよかったなと
そう思います

コトバについてあれこれ云いつつも
詩を書くことを止められないんですよね
一種のランナーズハイなのかも

ありがとうございました


☆ゆうすけさんへ☆

いつもありがとうございます
面白がっていただけて、とてもうれしいです

コトバに効くクスリありますか
なんて云ったら
誰しも、「こいつダイジョーブかな」って思いますよね(笑)
そこら辺のところを医者との会話で描いてみたので
伝わってよかったです

ゆうすけさんのコメントに、いつも励まされている陽炎です
読んでくれる人がいるから
また詩を描こうと思えるのかもしれません

ありがとうございました


☆楠山歳幸さんへ☆

いつもありがとうございました

ネットという匿名性の中で
コトバが反乱している時代

簡単に「死ね」とか書き込んだり
その人を誹謗中傷するようなことを
誰かになりすまして書いたり

そういうのを見たり聞いたりしているとなんというか
使い方間違ってるんじゃないかなって
そんなコトバたちに効くクスリがあったら。。。
というような思いから描いた詩でした

でも、内容はいたって私個人のことを描いているのですが…

トウヘンボクって言葉がおかしくて^^
リアルでコミカルに仕上がっていたなら
とてもうれしいです

コトバに効くクスリを見つけるために
これからも詩を描いていきたいと思います

ありがとうございました
No.6  楠山歳幸  評価:50点  ■2013-06-10 23:53  ID:3.rK8dssdKA
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 読ませていただきました。
 レベル高いです。
 読みやすい上、ファンタジーになりがちな題材をトウヘンボク?な医者との会話でリアル性をコミカルに表現されていて、後半の気持ちの表現にも説得力を感じました。内容はやや暗くともわたしはこういう一歩引いて俯瞰するような作品、好きです。
 >コミュニケーションのツールだったはずのそれが
 >コトバって心から作られてるものだと思っていたけれど
 自分のことを言われたような、考えさせられる作品でした。
 ゆうすけさんのコメントのように、コトバに効くクスリ、詩の中にあるのかも知れませんね。
 失礼しました。
No.5  ゆうすけ  評価:40点  ■2013-06-10 18:07  ID:1SHiiT1PETY
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面白い、面白いな〜、この作風、語りかけてくるような言葉たち。こういう書き方もあるんだな〜。
コトバを制御できないもどかしさを、どこかユーモアも感じさせるコトバで綴りつつ、心の病の薬でごまかそうとするお医者さんもまた面白い要素、後半では共感できる激情劇場。

日々の気持ち、想いを詩に残していこうと感じさせてくれます。コトバを大事にしていきたいですね。
コトバに効くクスリ、詩の中に探してみるのも面白いかもしれません。偉そうなこと言っちゃって赤面。

ではまた、陽炎さんの詩を読むのを楽しみにしてますよ。
No.4  流月楓  評価:40点  ■2013-06-10 09:45  ID:7i6OEkkggig
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おもしろい描き方ですね。
とてもよく気持ちが分かります。
コトバというものは、いろんなことに邪魔されてうまく伝えられないことが日常にありますよね。
空気の上で消えてしまうコトバが多すぎますよね。
私も気をつけようと思っても、どこか顔をよけて通り過ぎることに慣れてしまっていて駄目です。
毎日、気をつけていないと心に染みて落ちる言葉がないんですよね。
ほとんどすべって通り過ぎるだけです。
コトバってほんと大事なのに、それに気づいていながらも難しいですよね。

「気にしないで 気にしないで 僕は大丈夫だから
          本当は淋しくて心細くて死んでしまいそうで」

「何かあったら何でも云ってね な〜んて
          ホントに云ってこられたって 一体何が出来るとでも?」

「知らないことを知らないということが
          解らないことを解らないという勇気がなくて
          知ったかぶりを装っては大恥さらし」

この三つ。
すごく心に痛いです。
そして、重いです。

気づかせてくれてありがとう。
立ち止まらせてありがとう。
そんな詩です。

詩を描くことを止めてしまったら、私もすべるだけの毎日のようです。
時折、言葉をしたためておくのも効果ありなのかもしれませんね。

素敵な詩をありがとうです♪
No.3  逃げ腰  評価:50点  ■2013-06-09 00:10  ID:m22W0M7n7x.
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うん、レベル高い。文句ないわw
No.2  卯月 燐太郎  評価:40点  ■2013-06-06 19:12  ID:dEezOAm9gyQ
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「クスリをください」読みました。

お久しぶりです、卯月です。

結構面白かったです。
コトバというものは、やっかいなものですね。
なかなか自分の思い通りにはいきません。
相手に伝わらないということです。
それは自分のコミュニケーション(伝達能力)力が弱かったり、また、相手の読解能力とかにより、伝わるものがつたわらなかったりします。
御作の場合はそういった「コミュニケーション(伝達能力)力」がうまくいかなくなった主人公の話だと思います。

A>生きていくために必要だから<

B>自尊心<

C>喉の奥にひっからまって 声に出すことさえできなくて
部屋の隅っこで灯りもつけず ひとりぼっちで泣きながら
それでも平気へっちゃらだと 卑屈に笑ってしまう僕なのです<
D>>部屋の隅<<(Cのなかの一部)

作品としてはよく出来ていると思います。
ただ、面白くするにはABCときて、Cのなかに「D」があるわけですが、このABCDはすべて、主人公そのものなのですよね。
「D」の部分を主人公の発した「コトバ」たとえば、「ありがとう」または「ごめんね」にすると、面白いと思います。
御作では「喉の奥にひっからまって 声に出すことさえできなくて」と言うことになっています。
これでは、「言葉は」主人公の口から発せられていません。
私の言うのは、主人公の口からは発せられたが、その言葉自体が「部屋の隅」で固まってしまっている。というイメージです。
そうなると、もちろん相手に伝わらないだけではなくて、自分でもコントロールが出来ない状態と言うことになります。

このサイトで「ファンタジー」というところに「猫男」が出て来る掌編を投稿しましたが、別作品で、100枚を超す作品の中で猫男が現代に出て来るシーンがあるのですが、そのなかで猫男は「言葉の缶詰」を時間と交換に売るという商売をします。
缶詰のふたを空けると、「ありがとう」とか「あなたを愛しています」とかの大小色とりどりの言葉が、シャボンのように宙を舞うという「言葉」の缶詰です。
人々はその「言葉の缶詰」を争って買います。
猫男は、それだけ現代から言葉と言うコミュニケーションが弱まっていることを知っていて、売っているわけです。時間と交換に。
御作とは意味合いも内容も違いますが、コミュニケーションというところでは、少し似ているかな。
現代社会はコミュニケーションが欠けているので、あなたが書いたような「クスリをください」こういった作品は必要でしょう。


それでは、頑張ってください。
No.1  はしずめまい  評価:30点  ■2013-06-06 00:13  ID:9HLXbBZTWqY
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厄介な代物ですね。ことば何ぞは忘れてしまえばとおもう今日この頃。
総レス数 9  合計 280

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