続いていくすべてのことが永遠じゃないこと
ひょっとしたら道端で偶然に、とても美しい花に出会えるかもしれない。だから生きていようと思う。帰り道、坂道をのぼりきったところから見る、夕焼け空が綺麗で、明日ももう一度、こんな空を見れたらな、となんとなく思うから、生きているのだ。ずいぶんと長い道を一人ぼっちで歩いてきた気になっている。けれど、本当はそうじゃないのかもしれない。いつも誰かが私の背中をきっと支えてくれている。それは目には見えないけれど、春先の空気のように温かいものなのだ。曇りガラスを指でなぞるように、そっと心に手をあてて、目を凝らしていたい。そうすれば、そうしたものが、きっとかすかに見える気がするから。

坂の上で見た夕焼け空は、自転車で走るうち、夜に消えてしまうし、美しい花もいつかは枯れる。隣に、もしも、君がいたら、そんなことはないんだよ、と言ってやりたいよ。君に向けたつもりの言葉は、私にはねかえって、からっぽの鐘のように響くのだ。

透明な手のひらが、私の背中をそっと撫でた。温かい風のように。雑踏のなか、空に風船が、音もなく昇ってゆく。誰も気づかないところで、少女の指をいつか離れた風船が。か細い手で大切ににぎっていた、糸の先から、目に見えない何かがつながり、新しいものが生まれる。

都会の雑踏で、車のエンジン音の何処かで、アーケードに流れる使い古されたヒットソングにまぎれて。

夕焼けの何処かで。
たろう
2012年07月07日(土) 00時13分41秒 公開
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