後れ毛
 
 そのポニーテールが揺れると
 夏の風が薫る

 まだ少し短めのそれらは
 若干の後れ毛を残して束ねられ
 毛先がくるりと内に巻いている

 彼女は
 いつものように階段を駆け上がって4階へ
 北棟の4階の端

 その非常階段は普段はもちろん入れない
 だけれどもその錆びかけた鉄の格子が
 彼女はとてもすきだった

 そこからは
 ひとが見えない

 ただ夏だけがひっそりと
 涼しげにそこにあるだけだ
 彼女はその場所がとてもすきだった

 誰かに知らせたいような
 誰にも知らせず独り占めしたいような
 不思議な気持ちだ

 こんな夏を知らないことを
 勿体無いと思ったし
 こんな夏を知らせてしまうのもまた
 勿体無いと思った

 名前を知らない蔦に巻かれたクスノキの若葉
 やっと夏らしくなってきた空に浮かぶやわらかそうな白
 空っぽになってつやめく時の止まった蝉の抜け殻

 ああ
 なんて場所だろう

 彼女の後れ毛は
 彼女とともに唐突にそう思った

 夏の薫りがすると
 彼女は思った

 
星沢愛美
2011年07月18日(月) 00時18分56秒 公開
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No.3  星沢愛美  評価:--点  ■2011-07-25 22:28  ID:Wgxcq01yypU
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言葉に惹かれてさん>
 返信遅くなって申し訳ありません。
 夏の暑さに勝とうとするより、夏の涼しさを見つけるほうが、近年難しくなっているような気がしますね。
 夏の涼しさがとてもすきなので、コメント貰って嬉しいです。
 ありがとうございました^^

陽炎さん>
 実際星沢が高校に入学してから見つけた場所をイメージして書いてみたので、学生の頃を思い出してもらえるとのコメントはとても嬉しいです。
 10代って、小中高と、独特の雰囲気とか輝きがありますよね。
 って、星沢も高校生ですがw
 コメントありがとうございました^^
No.2  陽炎  評価:30点  ■2011-07-23 06:59  ID:te6yfYFg2XA
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なんだかとてもすがすがしい作品ですね

なんというか、学生のころを思い出します
白いシャツとシャンプーの香り

私は髪が短いので
長くてポニーテールの似合う女子に
ちょっとした憧れを抱いていました

後れ毛、というテーマも夏らしくていいですね
さんさんと照りつける太陽の下でも
負けないくらいの輝きがある娘なんだろうな
そんな気がしました
No.1  言葉に惹かれて  評価:0点  ■2011-07-18 21:29  ID:TxSyyvV0oOg
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 はじめまして、こんばんは。

 拝読させていただきました。後れ毛が引き立つ気がいたしますね。夏の暑さにうだっているときに見つけた、ちょっと静かで寂しい場所。そんなところが避暑地みたいになっているなんて、何とも静かで穏やかで、涼む場所としてはうってつけなのでしょう。


点数化に抵抗があるので形而上は無評価とさせていただきます。すみません
総レス数 3  合計 30

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