夏の夕暮れ


震災の跡地で
十円玉をたくさん拾った
汚れをぬぐい
きれいに磨いて
青空に一枚ずつ
丁寧に貼りつけてゆくと
空は鮮やかな赤銅色に輝き
点描画のような
夏の夕暮れができあがった

とてもきれいな夕暮れに
おもわず涙がこぼれそうになった
しかし
泣くのなら自分のためにではなく
誰かのために泣こう
もっと手を動かそう
そういう声が
どこかから聞こえた

だから
空に貼り付けた十円玉を
ひとつひとつ剥がして
自動販売機へと放り込んだ
夏の夕暮れを崩して
その十円玉で
たくさんの
ミネラルウォーターを買って
家路についた

いま赤胴色の夕空には
ぽっかりと穴があき
そこからは紺色の
暗い空がのぞいている
こんなにも
暑苦しいというのに
今年の夏はもうすでに
終わってしまったのだろうか

家に帰ると
ミネラルウォーターを
娘に一本手渡した
わあ、
娘が明るい声をあげた
見ると
小さな手のなかで
ペットボトルの水が
夕暮れの色に染まっていた

私は娘の頭を撫でた
今年の夏は小さい夏だ
夏の夕暮れは
娘の手のなかで一瞬輝いて
すぐに去っていった
水は元に戻り
夏の夕暮れは
もう帰っては来ないだろう


うんこ太郎
2011年06月27日(月) 04時25分28秒 公開
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No.2  うんこ太郎  評価:--点  ■2011-07-11 00:04  ID:MSnHZH1V1XI
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藤村さま。はじめまして。ご感想ありがとうございました!
一連目のイメージが好きと言っていただけて、嬉しいです。
ありがとうございました。

No.1  藤村  評価:30点  ■2011-07-10 13:44  ID:sg12n8JFuiY
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こんにちは。拝読しました。
一連目のイメージがどうしてもなぜか好きで、感想書きたいなとおもいました。
自分はたぶん季節がはじまったりおわったりするのになかなか無頓着なんですが、これを読むとつかまえた!って感じがしてなんだか好きです。
総レス数 2  合計 30

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