寒椿
森の中で、聞いたこともないのに君の声がした。
じん、じん、と唸るように響いて、
私はいっぱいになった雪の中でひとり、
目を瞑って降り注ぐ雨を飲み込もうとしている。
街の騒音に耳を塞ぐよりも、
森を抜けた風は私の胸をざわつかせて、
まだ何も言ってないのに、千切れて落ちた鈴の音は寂しく、
ちりん、と消えた。
君に会いたかった。
会いたかったけれど、会えなかった。
頭の悪い会話が、大好きだった。
会おうとしていた口約束は、
結局なにも為さずに終わってしまった。
それでもよかった。
だって、楽しかったのは事実で、証拠はどこにもないけれど、
それでも確実に、私たちはここに集った。
それが真実だった。
きっと揺るぎない、私たちのつながりだった。

本当に君は来ないのか。
問い質したくなって、溢れた。
口いっぱいになった雨水を、飲み込めなくて、
私は吐き出して、咽せた。
咽せて、ゲホゲホと咳いた、苦しかった、喉が痛かった。
大声を上げたいのに、虚しさだけで、空気が抜けていった。
穴の空いた私は、君でいっぱいになった。
雪に沈むほど体が重いのは、
君が私たちの代わりに、ひどく、軽くなったせいだ。
君はいない。ここにはいない。でも、いたんだよ。
それだけで私はもう、充分だよ。

最後に。
私たちの代わりに、雪が泣いた。
溶けていく様子が、美しかった。
君が本当に美しかったは知らないが、
少なくとも私には、とても美しく映った。
そうやって、君も私も皆んなも、少しずつ消えていくんだね。
またここに集まろう。
雪に埋めた椿の花と、鈴の音が、私たちの道標だ。
ナカトノ マイ
2019年01月23日(水) 20時10分56秒 公開
■この作品の著作権はナカトノ マイさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
沈んだ時こそ前を向かなければいけないのですが、なかなかそれが難しいので、自分への激励も込めて書きました。

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