潰れる病院 |
幾つになっても華のある女性がいる。立ち居振る舞い、ちょっとしたしぐさが、かわいかったりする。女性にとってエイジングは、招かざる客だろうが、アラフォーならアラフォーの年齢に応じた美しさがある。若い頃の輝かんばかりの美は翳りを見せるが内面から滲みでる美しさというものが確かに存在する 渋谷の日サロで30分こんがりと焼かれている間に夢を見た。サンデッキで降りそそぐ光りのシャワーを浴びているとヨゼフと皆から呼ばれている爺さんがやってきて、謎めいた事を言うのだった。「おまえさんは、古い魂の持ち主だ。人類がどうなるべきか、もうわかっているはずだ」そう言うやウインクをして消えてしまった 堆く積まれた本。積読主義のアキトの部屋は、もがけばもがくほど吸い込まれていく泥の底無し沼。ある日茫漠たる文字の砂漠の中に他の生存者を発見した。それは極々小さな蜘蛛だった。話しかけてみると即座に思念が返ってきた。そいつはこういった。「エクリチュールの快楽」と 川の下にはもうひとつの世界があってたくさんの人たちが何不自由なく暮らしている。河童だろ? と思うかも知れないが、そうではない。面白い事には、川の下の世界の住人たちは、僕らの世界の存在をほとんど知らないし僅かながら知っている人たちは僕らの事を川の下の住人と呼んでいるらしい シューゲイザーやりたくてバンドはじめたんだ/ほらどうこのサウンド/陽炎のような儚さたまらないだろ?/身も心も天国にいるみたいな浮遊感/拡散と収束繰り返しながら/up&low繰り返しながら/螺旋状ゆっくり上ってゆくのさ 集積回路が手ぐすね引いて俺のことを待っている、などということがありえるだろうか。たとえば、の話である。或いはヨハン・セバスチャン・バッハはドルヲタであったとかなかったとか。とまれ、芸術は生活に追われているようでは大成しない。貨幣経済の終焉は角のタバコ屋のところまでもう来ている 母の三面鏡のことをふと思い出した。かつて鏡に映るのは、もしかしたら表象なのかもしれないと考えた事があった。間髪を入れず前に立つものの心模様を映し出すようプログラムされているのではないかと。鏡の秘密を暴きたい気は更々ないといえば嘘になるが、謎は謎のままの方が美しい となりでピーピー音がしていて、変な人かなと思い横を見るとそれは子どもで、たぶん穴のあいている飴みたいなやつを吹いているのだった。たしか自分もピーピーやった覚えがある。生来ぼんやりしているのが好きな自分は、だから車の運転はできない。何も見ていない虚空を見つめている目はなぜまたあんな風なのだろう いまでは一攫千金を夢見て予想的中に熱い血を滾らせることもなくなった。楓の樹液であるメープルシロップに魅せられ、おれは変わったのだ。楓の樹皮に頬を押しつけ、その生命の音を聴くとき、複雑に絡み合うシナプスがほどけるような神秘のアルゴリズムを感じた。アルゴリズムがなんなのかは知らないが キシニョフはオーロラ舞うホニングスボーグから、懐かしい家族宛に手紙を書いた。東京の妻からは「ここにはもうあなたの帰ってくる場所などありません。レイキャビクなり、フェアバンクスなり、懇ろにおなりになったグラドルと一緒にお好きなだけ世界を彷徨っていらしてください、あなたは国政ってガラじゃない」という返信がメールで届いた。つまりは、そういうことなのである 例の茶室での一件は容子さんの咎ではないにもかかわらず、妙な噂が流布していた。それを知ってか知らずでか容子さんはお昼は験を担いでスフレオムライスを食べたのと、にこやかに話していたが、しばらく見ないうちに少しやつれたようだった。ライバルたちと競い合うことに疲れたのだろうか。しかし、容子さんの凛とした美しさは相変わらずだった。彼女は全く僕のことを知らないが、実は僕も彼女の名前すら知らない 男は絶対エースである少女の足の指を舐めさせて貰う代わりに何でもいう事を聞くと約束させられた。そこで彼女のいいなりになってグループ名を変更したのだった。前の女王様はとっくの頓馬にご勇退遊ばされたのだが、あの頃はやること為すこと全てがうまくいったものだった。ある時路傍の下賤の者に成功はおまえの力ではない。魔力はもう消えたのだと云われた。ふざけるな、輝かしいこの栄光の座は自らの手で勝ち得たのだ。真の実力であることを有無を言わさず認めさせてやる。これは天才の発露なのだ、けっして驕り高ぶった輩の暴走などではない この屋敷は日本画の大家である有名な画家の住まいであったらしい。彼は俗塵に塗れることを嫌い人里離れた山間に居を構え静かな生活の中で風雅を愉しんでいたのだろう。そんなところになぜまた私のような俗人がいるのかというと、あれよあれよという間に話が進み譲り受けたのだ。ただ孤独を愛し静かな余生を送っていた枯れた画家とは異なり、うちは毎日がどんちゃん騒ぎ! 儀助が野良仕事から帰ってくると、味噌汁の椀から湯気がたちのぼり、何ともしあわせないい匂いがしていたが妻のお千代の姿が見当たらなかった。仕方なくひとりで夕飯を食べはじめたものの、どうにもお千代のことが気になって仕方ない。いったい何があったのか。お千代の顔がちらちらと視界に現れては消え現れては消えし、儀助はぼろぼろと飯粒をこぼしていた と、小さな小さな蜘蛛が、囲炉裏の灰に刺してある火かき棒からぴょんと飛んで儀助のそばにくると「儀助どん、お千代さんはな鬼に攫われもうした」そう云った。儀助は「どうしたら、ええんかなぁ」とさめざめと泣いた。すると「蜘蛛の糸をお千代さんの髪につけておいたから、それを辿っていけばいい、そこから先は儀助どん次第だ」蜘蛛はそう云うや、またぴょんと跳ねてどこかに消えてしまった かつて母が入院していた 病院は奥沢にあった 年がら年中ピーピーな私は 支払いの件で 医院長先生だかに会って 相談したことがあった すると医院長と呼ばれる男は これほど嫌な人もめずらしい と思うような人物だった 経営がそうとう 危うかったのだろう その後その病院は 潰れてしまったらしい 暫くして行ってみたら 名前が変わり 別の病院になっていた |
柿の木坂 キングサリ 花いちもんめ
2024年11月11日(月) 13時47分46秒 公開 ■この作品の著作権は柿の木坂 キングサリ 花いちもんめさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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