宙ぶらりん

シングルファザーの場合 周りの人間は子どもに大変だね という
シングルマザーの場合 周りの人間はお母さん大変だね という
どちらも片親に違いないのに この差はなんだろうと思ってた
男は外で仕事 家のことは子どもが担うことになるからか?
女は外で仕事し 家のこともしなければならないからか?


お母さん大変だから 助けてあげるんだよと
よく云われたものだけども
親の都合で 離婚まで決着つけなかったために
越境通学することになり
朝5時起きしてバス通学してた
田舎で時間通りに来たためしがなく
ある時は バス停で待っているにも関わらず
素通りされたこともあり
仕方なしに大橋を歩いて帰ってことも
土砂降りの雨の帰り
待てど暮らせど一向にバスが来ず
定期があるからと予備のお金をもらっていなかったため
家に電話することも どうすることも出来ず
途方にくれていたとき
たまたま親切な方に 方向が同じだからと云って
車に乗せてもらったことも
母親は仕事で まだ帰ってなかったので
勿論どうやって帰ってきたかも知らない
親切な方に車に乗せてもらったと云っても
特に何を云うでもなかった
慣れないバス通にちょっと疲れて寝てようものなら
楽するためについてきたのかと まったく意味不明な
当てつけみたいに 烈火の如く怒った
だから中学時代は絶対に疲れたと云うまいと決めて
ついでにそのせいで成績まで下がれば
きっと怠けているからだって云うに決まっているから
何も云わせてなるものかと
とにかく頑張った
頑張った つもりだった


母親も仕事が大変だったんだろう
兄のこともあったし
疲れて帰ってくれば もう何もしたくないと
横になってしまっていたし


高校受験にしたって 小さいときから決めていた学校があったし
そこに行くものだと思っていたのか
一切なにも 気にしてもくれなかったし
その割 テストの点数にだけは
やたらと口を出してきたり


受験日前日 兄が暴れたために
私は他人の家から受験会場に向かうハメに
いくら知り合いだからといったって
他人の家でリラックスできるような私ではないのに
だけどでも 私のためを思ってのことだもんね
文句なんか云っちゃいけないよね
だって大変なんだもん お母さんは


卒業式の日 私は母に来てもらいたかった
色々あったし お互い大変だったという思いもあって
来てくれたら ありがとうございましたと
ちゃんと云うつもりでいた
だけども 母は来なかった
こんな日でも来てくれないんだな と
しょうがないしょうがないと自分を納得させて
いつもお世話になってる遠い親戚のおばさんの家に行くと
母親がうなだれて座っていた
何故来なかったか その理由は
朝に兄が暴れたため ということだった
そのことと私の卒業式は全然関係なくない?って
思わず口をついて出そうになったけれど
多分この人にとっては 毎朝5時に起きてバス通していたことも
土砂降りの雨で 来ないバスを延々と待ち続けていたことも
担任には連絡先の番号失くしちゃった と平然と云われ
台風で休校なのに 連絡も貰えなかったことも
理不尽な云いがかりにも 一言半句も文句も云わず
ちゃんと希望通りの高校に合格できたことも
全部 勝手に好きでついてきたんだから
そのくらい別に大変なうちに入らないし当たり前
くらいにしか思っていないんだなって
昔っからそうだったけどさ
そうかそうか そうだよなそうだよって
もう文句も云う気すら起きなくなって
ただただ 笑ったよ
本当はめちゃんこ傷ついてたけど
傷ついてるってことすらきっと
この人には理解できないんだろうから
笑うよりほか しょうがないじゃない




お母さん大変だから 助けてあげるんだよ
お母さん たしかに大変でしたね
夜遅くまで仕事して ホントにお疲れさまでした
でもさ でも私だって大変だったんだよ
疲れてても早起き辛くても なんとかやってきたつもり
だからさ だからたったひとこと
ひとことでいいから云って欲しかったよ
よく頑張ってきたねって


兄妹平等 ってよく云ってたけども
知ってる? 同じように扱ってるようでも
器が違うんだって話
コップいっぱい溢れるほど水を注いだとしても 器の大きさが違えば
当然与える水の量だって違ってくるっていう
私の分の器は きっととっても小さい器だったんでしょう
卒業式に来てくれなかったのも
行けなくてゴメンでもなく
兄が暴れたんだからしょうがないだろって
そんな程度の器でしかないんでしょ あなたにとっては
なにか反論ありますか?
反論あるならどうぞ




シングルファザーの場合
シングルマザーの場合


どちらも片親に違いないのに
違いないはずなのに


お母さん大変だから
助けてあげるんだよ



親は子どもになにをしても許されて
子どもが親を助けないとわがままだと責められて



あの日 伝え損ねた「ありがとう」は
いまも誰にも
母親さえも 知られることもなく


ぶらりぶらんと
宙ぶらりんのまんま







陽炎
2024年10月31日(木) 16時08分29秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後までお読みいただき、ありがとうございます

あの日、あの卒業式の日
もしも来てくれたら伝えようとしてた「ありがとう」

いやいや、別に来る来ないに関わらず
云えばいいじゃない、と思われるかもですが
それまで受けてきたこと
その日の態度
兄が暴れて、そんな気分じゃないの解るだろ?
みたいな、そういうのもあり
とても伝えようとは思えなかったのです

でも、いまにして思えば
伝えなくてよかった、とも思っています

ありがとうございました

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