目撃証言

あの日のことはえっと
断片的にしか覚えていないんです



午前中の授業が終わって
みんなで給食の準備をしていました
マイちゃんとメイちゃんがいないことに
あたしたちは誰も気づいてませんでした



突然 大きな悲鳴のような叫び声が聞こえてきました
普段は使われていない 空き教室からでした



先生が慌てて教室を飛び出していきました
あたしたちには静かに待っているよう云っていましたが
あたしたちも先生を追ってついていきました



興奮しているような なにが起きたのかよくわからず
息を荒げているマイちゃんがいました
手にはカッターナイフを握っていました
床を見ると 血まみれで倒れているメイちゃんの姿が



なにが起きたのか なにが起こったのか
あたしにも他の子たちにも さっぱりわからず
ただただ恐怖で 頭の中が真っ白でした



先生は興奮している様子のマイちゃんに
なにがあったのか尋ねました
マイちゃんは「メイちゃん死んじゃう」とだけ繰り返すばかり
マイちゃんが握っていたカッターからは
真っ赤な血が滴り落ちていました



すぐさま救急車が来て メイちゃんは運ばれていきました



救急車で運ばれていくメイちゃんを見ながら
「わたしが。。。わたしがメイちゃんの首を。。。」と
さっきまでの興奮がウソのように
落ち着いて そうマイちゃんはつぶやきました





仲良しだったんです
マイちゃんとメイちゃんと
それからあたしと
3人いつも一緒で
バスケットボールクラブにも入っていました



マイちゃんは真面目で頭もよくって
頑張り屋さんで なんでも一生懸命で
パソコンとかにも詳しくって



3人で交換日記をしたりもしてました
ほとんどが今日あった出来事とか
好きな芸能人の話とかだったけど
そんな中マイちゃんはときどき
ものすごい真面目な むずかしいこと描いてきたりしてて
あたしとメイちゃんは ただただスゴイねって思うばかりで



本当に 本当に3人仲が良かったんです
だけど



マイちゃんにはちょっとめんどくさいというか
嫉妬深いというか そういうところがありました
あたしとメイちゃんとふたりで話してたりすると
その日の日記に 仲間外れにされたとか
ふたりしてわたしの悪口云ってたのとか
そんなこと云ってないよって云っても全然ダメで
だからふたりで話したいときは
出来るだけマイちゃんの見えないところでするようにしたり



メイちゃんもマイちゃんも 自分のホームページを持ってて
お互いにアドレス交換して
いつでもメールやチャット出来るようにしてたんだけど



いつの日からだったか ある書き込みが
マイちゃんのことを中傷してるって思いこんじゃって
それからマイちゃん 少しずつ変わっていったような気がする



あたしたちともあんまり話さないようになったし
あからさまにバカにしたような態度をとるようになったり



マイちゃんは 基本根が真面目だから
きっとひとりで抱え込んで悩んでしまってたんだと思う
あんまり詳しいことまでは知らないけど
お父さんが仕事中に事故に遭ったとかで
後遺症とかでちゃんと働くことが出来ないって聞いたことあったし



マイちゃんがあんまりにもあたしたちバカにしたりするから
だんだん一緒にいるのがイヤになっちゃって
なんとなく疎遠になっていって



マイちゃんはそれからもずっと
メイちゃんがマイちゃんの悪口云ってる 攻撃してるって
信じこんじゃってたみたいで
メイちゃんのホームページに勝手に侵入して荒らしてみたり
悪口書き込んでは嫌がらせめいたことをしていたらしい



いつの間にか マイちゃんはクラスでひとりになっていた





あの日 マイちゃんは
明確な殺意を持って メイちゃんを呼び出したらしい



マイちゃん
マイちゃんが苦しんでいたのに
気づかなかったあたしたちも きっと悪いかもしれない
ネット上に存在している どこの誰かもわからない名無しの権兵衛が
マイちゃんの柔く繊細な心を 深く傷つけていたのかもしれない



けどさマイちゃん
その正体はメイちゃんなんかじゃ 断じてないよ
メイちゃんは決して 他人を無自覚に傷つけるような
そんな人間じゃなかったはずだよ



たった12歳で この世を去らなければならなくなったメイちゃん
たった12歳で ひとを 同級生を 友だちを殺めてしまったマイちゃん



一緒に遊んで 一緒にバスケして
一緒に交換日記して 好きな芸能人の話で盛り上がって
帰り道の途中でアイス買って食べたり
休みの日には一緒に出掛けてプリクラ撮ったり
クレープ食べに行ったりさ



そういうの そういうこと
もう二度と出来なくなっちゃったんだよ



ねえ どうして?
どうしてあんなこと してしまったの?



マイちゃん
あの日 メイちゃんを刺したあの日
多分 マイちゃんも死んでしまったのでしょう
生きてはいるけど
魂が きっと死んでしまったのでしょう
いやもしかしたら
もうずっと前から マイちゃんは死んでいたのかもしれないね



あたしは あたしはふたりの友だちを
同時にいっぺんに失ってしまった





あの日なにがあったのか
なにが起きたのか



思い出せるのは ただ
血塗れで倒れていたメイちゃんと
震える手でカッターナイフを握りしめ
ひどく興奮しながらも
どこか怯えるような瞳でじっとメイちゃんを見てた
マイちゃんの顏



硝子の破片みたいに
鋭く尖った カケラみたいな断片が



いまもジクジクズキンズキンと
あたしの脳裏を突き刺すのです




陽炎
2024年09月04日(水) 20時20分39秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後までお読みいただき、ありがとうございます

この詩は、2004年に起きた佐世保小6同級生殺害事件を元に
加害者・被害者両者のともだちからの目線で描いたものです

詩中に登場する人物名は、実在のものではありません


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