あの子はいいの

高校の頃、バイトしていた時の話
海沿いにある、とある和食レストランでバイトをしていました
最初のうちは、土曜日の午後6時くらいまでと
日曜日の午前または午後の数時間だったのですが
おかみさんから、土日とか入れたら閉店までやってほしいと云われ
私も結構そこのバイトが楽しかったし、カッコいい板さんも好きだったので
快くOKしました


そのお店は時間帯によって忙しさのピークがまちまちで
全然ヒマな時間もあれば、急に忙しくなったり
まあ、どこの飲食店でもそうだとは思うんですけど(^_^;)


ゴールデンウィークとお正月は特に書き入れ時で
お客さんがひっきりなし
2階席もあったので、上に行ったり下に行ったり
料理を運んでは片づけて、と
休憩をとっている暇すらなくて
でも、それでもやりがいは感じてたんですよね
私、高校生活真っ暗だったから
バイトのほうで取り返そうとしてたのかも
他に働いているパートのおばさんたちもみんないい人たちだったし




ある時、店を仕切ってるおかみさんの妹が用事があるとかで店出られないから
バイトの私たちやパートさんたちによろしく、と
またその日は特に忙しく、お客さんも途切れなくて
お昼休憩さえまともにとってられずに
みんなで交代で、それこそ立ちながらごはんをかっこんでるといった状況で
最後のお客さんが帰ったのが、深夜0時を回っていました
やれやれ、やっと終わったと思った頃に妹がやってきました
なにやら余ったごはんでのり弁を作っている様子でした
働いている人数分、作り終えたところで
片づけも終えて一杯飲んでる板さんたちの方へつかつかと寄っていき
「今日は大変だったんだってね、お疲れさま。お腹とか空いてない
何か持ってこようか? 陽炎ちゃんの分ののり弁
あれ、持ってきてあげるよ」
と、何故か私が貰うはずだったのり弁を
いいのいいの、あの子なら
といった感じで云い放ったのです
私は自分の耳を疑いました
え? なんで私だといいってことになるんですか?
今日、めちゃくちゃ忙しかったんですよね
昼食食べる暇もないくらい忙しかったんですよ
でも、仕事だから雇われてるから時給発生するから頑張りましたよ
貴方、今日一日いませんでしたよね
そういうこと、何も知らないですよね
のり弁が欲しくてどうこう云ってるわけじゃないんですよ
私は別に、ボランティアでもなければ無償で手伝いに来ているわけでも
ましてやこの店の身内でもなんでもないんですよ
バイトとして雇われてここにいるんですよね
いま何時ですか? 深夜0時を回りましたよ
雇い主として夜食くらい出すものなんじゃないんですか、わかんないけど
貴方がさっき云ったことは、云いかえれば
あの子の給料なんか別にいいのよ、あなたにあげる
と云っていることと同じではないですか?


また軽んじられたな、と思いました
好きでやっていたバイトだっただけに余計に


私も大人げないのかもしれませんが
もうその妹のことを信用することが出来なくなり
ほとんど口を利かなくなってしまいました
社長やその妹の旦那、果ては板さんたちまで
私がのり弁を貰えなかったことに腹を立ててると
いっぺんに態度が豹変
そうじゃないんだと、のり弁くれなかったから怒ってるんじゃないんだと
そんな単純な問題じゃないんだと
だけども結局はみんな妹の身内
身内のほうがかわいいさ、そりゃ
何人も大人がいたけど、誰も解かってくれる人はいませんでした
社長なんて、店が暇なときに私を二階に呼び出して
「人間ってのは多面でできてるから、一面だけみて判断するな」
って云ってきて
そういうあなたたちの方が、私のこと一面でしか見てないじゃない
って、喉まで出かかりましたけども


大の大人が揃いもそろって、理解しようともしなかったのに対し
一緒に働いていたバイトの女の子たちだけは、解ってくれていたから
それだけが救いだったけども







これってやっぱり、私のほうがおかしいんですかね
あの子の分だからいいのって云われて
いいですよ、どうぞどうぞ、って云うべきだったんですかね
たかがのり弁ひとつくらいで大げさなんでしょうか
私はそこのところをどうこう云いたいわけじゃないんです
一応私もバイトとして雇われて、働いていたわけで
雇用主なら雇用主としての義務ってものもあるんじゃないんですか、と
あの子だからいいのって、そんないいぐさはないでしょうよ
私なら何を云ってもやっても 文句云わないだろうってそういう腹ですか
でもそんなふうに思うのは 私のわがままで
夜食を食べさせる食べさせないは雇用主が決めることで
だから、誰にあげようが文句云うなってことなんでしょうか
だとしたら、何故に私だったのでしょうか
他の人だったらいいのかって それもまた違いますけども
全くもって理解不能です






バイト楽しかったなって思い出そうとすると
あの事件のことも蘇ってきてしまって
未だに考えてしまうんですよね
あれは一体何だったのか






そのせいかはともかく
のり弁って言葉を耳にしただけで
胸の奥がギュってなるんです



のり弁は決して悪いわけじゃないんだけど









陽炎
2024年06月13日(木) 22時18分04秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後までお読みいただき、ありがとうございます
高校時代のバイト先での
忘れられない事件について描きました

私が何に怒っていたか
解かってくださる方がどこかには
いるのではないかと

そんな思いで投稿させていただきました

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