遠く遠く

旅に出ようと思います
いまは、あなたの傍にいるのがツライから
出来るだけ遠く、遠くへ行ってみようと思います


こんな時、小説やドラマなんかじゃ
「探さないでください」なんて書き置きを
そっと残していったりするのでしょうが
そんなことをしたって
あなたが私を探さないことを
私自身が一番よくわかっています


だから何も云わず
そっと出てゆきます


私の荷物は鏡台の脇にまとめておきました
もしも邪魔になったら
手間をかけてしまうけれど
処分しておいてください


あなたと暮らした5年間
長かったような 短かったような
あっという間だったような
色々ありましたね


あなたはトマトと人参と椎茸がキライで
だけども私が作ったオムライスは
おいしいおいしいって食べてくれて
あの中に人参も椎茸も入っていたんだよ
気づかなかったでしょ


あなたは寝付きの悪いひとだったから
いつも遅くまで本を読んだりゲームしたり
うとうとしかけてる私に
よく喋りかけてきたりして
こっちの眠いのなんてお構いなしに
やたらと喋りまくっていましたね
それでうっかり寝坊すると
自分の方が早起きだって自慢顔
何度蹴ってやろうかと思ったものです
そんなこと思ってたなんて知らなかったでしょ
だって いまはじめて云ってみたのだもの


私は掃除が好きで あなたは散らかすのが好きで
脱いだ靴下の片っぽがいつもないの
探すの苦労してたのよ
ベッドの下とかソファの後ろのほうに
いつも所在なげにちょこんといたわ
靴下はまとめて洗濯かごへって
でもそれももう 今日でおしまい
明日からは自分で
間違っても散らかしたままにはしないで
きっと遊びにきた女性がびっくりしてしまうから


一緒に暮らしていたから
私てっきり あなたは私を好きなんだと思っていたけど
それはただの勘違いだったなんてね
ただ部屋をシェアしていただけの同居人
家賃諸々の費用安くするため
ただそれだけの それだけの関係だったなんてね
気付かない私も 相当バカでおめでたいわよね
私の方はあなたのこと 結構本気で好きだったものだから
笑っちゃうわね おかしいわね
おかしいわよ




あなたがくれたネックレス
決して高価な品物ではないけれど
あなたがくれたはじめてのプレゼントだから
誕生日にくれた プレゼントだから
これだけは失くさずに
大切に 大切に
いまでもずっとつけています
誕生日プレゼントなんて
生まれてはじめてもらったものだから
あの嬉しかった気持ちは
ずっと持ち続けていたいから
ごめんなさい
重いですよね
ごめんなさい


本当はふたりでしあわせ掴みたかったけれど
お互いに掴みたいしあわせが違いすぎて だから
いつまで経ってもひとりぼっちで
淋しくて孤独で
だけど 時々は同じ映画観て泣いて笑ったりしたけど
やっぱり同じお皿の上にはなくて
だから取り分けることさえ出来なくて
悲しみも喜びもひとり一人分
いままでも 多分きっとこれからも




部屋のカギ テーブルに置いていきます
朝食の後片付け
食器洗っておいたので
乾いたら仕舞ってください





ベランダにある鉢植えのミント
水やり忘れないで
夏は浴槽に入れるとスーッとして気持ちいいから
暑い日には入れてみて
って もう何度もやってるから知ってるね




ゴミもこまめに出して
火曜と金曜が燃えるゴミの日
木曜がプラスチックゴミの日
瓶や缶は隔週水曜で
段ボールや衣類は隔週月曜
不燃ゴミは月一だから
うっかり忘れちゃうと大変


でもあなたはきっと大丈夫ですよね
ひとりでも 私がいなくても
きっと生きていけるひとですよね





電車の時間が迫っているので
そろそろ行きますね


もうここは 私の帰る場所じゃなくなってしまうのが
少し淋しいです




たんぽぽの種子のように
風に乗ってどこまでも飛んでゆく
どこに辿り着くかもわからないままに
そんな人生もまた
私には似合っているのかもしれません



サヨナラは云わないでゆきます
あなたはきっと すぐに私なんか忘れてしまうでしょう
私の心の片隅にだけ そっと置いておいてあげてもいいですか
小さくてかわいいサボテンみたいに
いつかそっと 花が咲いてくれたなら
私は多分きっと この上なくしあわせです





いままでありがとう






行ってきます
どこか遠い遠い旅路の果てへ








陽炎
2024年06月04日(火) 12時14分01秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後までお読みいただき
ありがとうございます

某お題ありきのサイトに投稿したものです

5年も同棲していて
相手の気持ちが解らないなんて
そんなことあるかよ、と
ツッコまれそうですが( ̄▽ ̄;)

この作品の感想をお寄せください。
No.3  Fnoon  評価:0点  ■2024-06-09 18:54  ID:URA.SyXRxB6
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正直威張りたくもないし、インターネットですらもあんま嘘もつきたくもなかったので、そこはごめんなさい。謝ります。
返信は大丈夫です。
わざわざ自分の投稿したものに返信くださってありがとうございます。というか、偉そうな口聞いてしまって申し訳ないです。
No.2  陽炎  評価:0点  ■2024-06-08 07:02  ID:qUGSF4Qri.s
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☆Fnoonさんへ

いつもありがとうございます
別に恥ずかしいことじゃないと思いますよ
好きな人がいないから、結婚したいと思う人がいないから
そういう方は結構たくさんいらっしゃると思いますけども

5年は長すぎたですね
しかも相手にその気はなかったって
なんだよそれ、てな感じで

やっぱり惚れた方が、どうしても弱くなっちゃう

彼に女がいようが、責めることは出来ない
だって私たちは恋人同士でもなんでもないわけだから

ただ5年間は長すぎたですね
色々ありすぎて、疲れちゃった

どこか遠い遠い場所で根付いて花を咲かすもよし
ふわふわとどこまでも浮遊し続けるもよし

ようやく自由になれたんだって思えばね

ありがとうございました
心より感謝
No.1  Fnoon  評価:50点  ■2024-06-07 19:00  ID:ASIrFCwxb3Y
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恥ずかしい話でごめんなさい。ちゃんと同棲とか結婚を考えた相手が僕は居ないんですけど、5年間は長いですね。少し相手方が安心しすぎて浮気したのかなと思いましたけど、今までお疲れさまでした(笑)
一人の時間ゆっくり楽しめばいいと思います。

文面から同棲の別れの重たさは伝わってきました。

総レス数 3  合計 50

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