地獄の扉

この話はきっと 私の家だけのことではないでしょう
これを読んでるそこの貴方も
もしかしたら そうなのかもしれない


ただいまぁって普通に言えたならどんなによかったか
何か苦痛って 家の戸を開けるときが一番苦痛だった


いつも親父がいないかビクビクしながら
そっと引き戸を開けて
物音を立てないようにそっと部屋へ行く


いない時はホッと胸をなでおろし
いた時は気づかれないようにそっとそっと


それでも気づかれてしまうことも
そうすると決まって何かしらが飛んでくる
御膳にあった灰皿とか湯呑みとか
おかえりさえ言ってくれやしないくせに
ただいまも言わないと言っては 掴みかかってくる


こんな家 誰が帰りたいと思いますか


家に帰ったら夕飯の匂いが立ち込めていて
ただいまぁって言ったら
笑顔でおかえりぃって迎えてくれて
今日学校であったこととか 友達のこととか
ちゃんと話に耳を傾けてくれて
いいことしたら褒めてくれて
悪いところは 当てつけじゃなく
ちゃんと叱って そのあとはギュッてしてくれる


そんなありふれた けれどとてもあたたかい家だったら


どこにも安心できる場所なんかなかった
みんな他人だったものね
同じ屋根の下にいる 血だけつながった他人



子どもに殴る蹴るの暴行するような人間に
どうしてただいまなんて言えるでしょう


朝から晩まで慣れない仕事して
家でもコキ使われて疲れてんの 
話しかけんなって
そんな人にどうしてただいまなんて言えるでしょう


自分の家なのに 覚悟が必要なんです



隣の家からは 楽しそうに笑う家族の声
羨ましいな
羨ましいな



食卓にはご飯と生タマゴ
今日もひとり 卵かけごはんです





陽炎
2024年05月27日(月) 14時07分22秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
地獄の方がまだマシかもしれない

一人暮らしを始めて
やっと息継ぎ出来る場所を手に入れた
と思ったら
母親がやってきては数ヶ月も帰らなかったり

公共料金の支払いとか大丈夫なのか
そろそろ帰った方がいいって言っても
そんなに追い出したいか
この部屋は半分自分にもいる権利がある
とか、全く意味不明な理屈こねて帰らない

私が血を吐いたりしても
何をしてくれるわけでもない

もう無理だから
強制的に帰ってもらうことに

それ以来、連絡を経ちました


☆タイトル、変更しました

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