三つ子のたましいって本当なのかね

私の母親の両親は どちらも良家の生まれだったらしく
蔵をいくつも持っているような村一番のドン百姓だった
祖母の家は代々蚕を育て 絹糸を紡いでいる家だったらしい
祖父の家も詳しくは知らないが 村一番の家だったと
母は口を開けばすぐにその話をする


しかし そんな二人がどんなふうに出会って一緒になったかは知らないが
祖父は結婚当初から働きもせず 時代的に戦争真っ只中だったろうに
戦争に行った様子もなく マッチ箱のような部屋の真ん中でゴロゴロしては
気に入らないと女子供に暴力を振るっていた
子供がお腹を空かせていようが 給食費が必要だろうが
そんなのはおかまいなしで
自分だけ白い米を炊いて 見せびらかすように食べていた


祖母はとても働き者で というより働かざるを得なかった
近所の農家の手伝いから 遠方まで出稼ぎに
それこそ寝る間も惜しんで朝から晩まで働き詰めだったとか
当時は薬屋で簡単に手に入ったヒロポン常注しながら
ヒロポンを打つと本当に眠気も疲れも吹っ飛んでしまうらしく
いつ寝ているのか 解らなかったと母の談
だけどもお米を研ぐと米が蠢いているように見えたり
野菜を切ろうとすると 野菜が悲鳴を上げているように聞こえたり
幻覚幻聴の症状があったらしい


子供は全部で6人いたらしいが
一番下の女の子は 生まれて三日で謎の病で亡くなってしまった
一番上のお兄さんは就職してしばらくして精神を病んでしまい
睡眠薬を大量摂取して自殺してしまった
遺書が残されていたらしいが
祖父が警察が入る前にすべて破り捨ててしまった
部屋の隅に残された「挽歌」という小説のところどころに
赤い線が引かれていたとのことで
自殺の参考にしたのではないかということだった


2番目の兄は生真面目ではあったが
あまり兄妹思いというわけでもなく
特に母親とは犬猿の仲だったらしい


祖母はいまで云えば スーパーウーマンだったのではないかと
私は話を聞かされる中で そう思っているのだけど
とにかくなんでも出来る人で
和裁の先生をしていたかと思えば
洋裁もお手の物で
子供たちの服はみんな手作りしていたという
明日遠足という日に まだ着ていく服が出来ておらず
不安になりながら床についていると
朝にはちゃんと上下揃えて用意されていたらしい
また 狭いながらも庭には家庭菜園を作り
大抵の野菜は自分で育てていたし
鶏や豚も飼育していたという


祖父は相変わらずのクズ野郎で
何もしないくせに威張り腐っていたらしいが
そんな男の悪口を 祖母は一切子供らに聞かせなかった
そればかりか 子供が反抗的になると
「父親に向かってなんて口聞くんだ!」と
あくまで旦那を立てていたというから
やっぱり昔の女性だったのかなと思いつつも
こんな祖母からどうしてあんな母親が出来上がったのか
今もって不思議でならない




一方父親の方の両親はというと
本当の父親(祖父)は戦争に行って死んだことになっているが
そもそも出征したかどうかもあやしいらしいのだけど
とにかくそういうことになっており
モラババア(祖母と云いたくないのでこう呼びます)は
遺族年金をもらって生活していた
子供は3人だか4人だかいたらしいが
家族仲は最悪だったらしく
年中大喧嘩している声が 近所中に聞こえていたんだとか


そのうちモラババアは男を作るのだけど
籍を入れてしまうと遺族年金が貰えなくなるからと
折半することを条件に内縁関係に
もちろんお金を半分相手の男の人に渡すはずもなく
ひとり占めしていたことは云うまでもない


この男の人はちょっと女癖が悪いけれども
とてもいい人で 女子供に手をあげることは絶対にしない
それどころか 生臭野郎のモラ親父に仕事をさせるために
お尻を叩くような そんな人だった


モラババアは近所でもどうしようもなくて評判で
船をやっていたのだけれど
漁港に水揚げされた魚を選別する主婦たちのひとりの髪の毛をひっつかんで
引きずりまわしたこともある
近所の家には通るたびに唾を吐きかけ
自分の息子の縁談を壊された壊されたと云って憚らなかった
あんたの息子に嫁が来なかったのは
あんたの息子に原因があるからだよ
と いまだったら云ってやるのに




そんな親の元で育った二人が一緒になってしまった
母親は自分の知らないところで勝手に決められて
結納金も貰ってるから断ることできないと
無理やり結婚させられたと 口を開くたびに文句
働かないは 暴力は振るうは ばあさんの云いなりだは
そんなところでよく子供なんか作ったと思うけど
それも逃れられなかったと 母は云うのだろう


兄と私を出産して 何年か後に3人目を妊娠するも
とても育てていける状況でなかったため
可哀想だったけど 堕胎
この3人目がお腹にいる間 一番暴れまわっていたとのことで
しきりに可哀想だったと連呼するのだけども
そのたびにモヤモヤしてしまう
生まれたからいいのか しあわせだとでも思っているのか
自分のことで手一杯で それどころじゃなかったのかな


毒親の親もまた毒親って よく聞くけど
たしかにそうなんだろう
二人の育った環境を考えてみれば 頷けない話でもない


ある意味では とても可哀そうな人たちなのかもしれない




だけど
だけどさ


それを子供に背負わせるっていうのは
やっぱりどう考えても違うんじゃないかと
云ってみたところで




自分が一番可哀想な人たちに
いまさら何を云っても
届くことはないのだろう




私はそんな人間にならないと
心に誓ってはいるけれども
時々 とても意地の悪い考えが
頭をよぎることがある



やはり この親にして
この子ありなのか






考えただけでぞっとする






陽炎
2023年11月10日(金) 20時56分57秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後までお読みいただき
ありがとうございます

詩、じゃないと云われそうだけど
詩ということで投稿させていただきました

親の親の話を描いてみました
いつも母親から愚痴を聞かされてるので
だったら詩にしてやろうじゃないかと

至極個人的な話なので
何云ってんだ?と思われてしまうかもですが(^-^;

この作品の感想をお寄せください。
No.5  陽炎  評価:0点  ■2023-11-19 18:10  ID:.T.XHKIbJ8o
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☆ゆうすけさんへ

いつもありがとうございます
年がら年中、愚痴文句を聞かされて
いい加減うんざりだったので
詩にしてやりました

ゆうすけさんのところも
結構なハードモードですね
うちの場合は、内弁慶で外面がいいので
家の中で暴れ放題でした
皿やコップ、炊飯器に保温ポット
食器棚にこたつテーブルにそれからそれから
飛び散っていない日はありませんでしたから
寄れば触れば、殺せの生かせのと大騒ぎで
そんなところに、こんにちわ、なんて人がくると
ガラッと態度が変わってしまうんですから
まったく、その豹変ぶりには呆れます
そのこんにちわの人も
外まで大声で叫んでるのが聞こえてただろうに
よく入ってこれるな、と
どっちもどっち、といったところなのかもしれませんね

たとえどんな目に遭ってきたとしたって
その恨みつらみを子供に晴らすっていうのは
どう考えても違うと思うんですけどね
母親は私を、親父とばばあの分身と思っているので
何をやっても何を云っても構わない、と思ってるようです
私もこのままずっと、捌け口にされてはたまらないと
スマホにボイスレコーダーを仕込んでおきました
いつ愚痴が始まっても、録音可能なように(コワいですか)

ありがとうございました
心より感謝
No.4  ゆうすけ  評価:50点  ■2023-11-19 16:37  ID:BqYIjnMQWzw
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拝読させていただきました。
 自分のルーツを辿る旅ですね。
「親の因果が子に報い」という言葉がありますが、これって気質とか性癖とか、あんまりよくない負の感情の連鎖が多いですよね。さんざんやられて嫌だったはずなのに、っ結局自分もやってしまうような。
 連鎖の輪を断ち切る、これも創作のテーマというか、モノを書く動機としては大いにありだと思いますよ。私も以前書きましたし。
 むき出しの魂の慟哭、咆哮と彷徨、ちょっと恥ずかしい感じなのに勢いで圧倒してくる感じが陽炎さんの持ち味なんだと思いますよ。
 私の祖父、父の父も結構強烈な人でよく父から愚痴を聞かされてきて。
 鍛冶屋の親方で、キレるとハンマーを投げたりストーブを蹴っ飛ばしたりヤクザをぶん殴ったり、お祭りでは嫌な奴の家を破壊しあったり(神輿担いで突撃)、麻雀で負けると神田川に麻雀パイ投げ込んだり、東京大空襲の時に品川で子(私の父)をこしらえたり、お人好しで頼まれたら借金してでも金を貸したり恵んだりして騙されて借金だらけになって後はまかせたと引退して五反田の家屋敷壊滅都落ち。
 ついこう釣られて語っちゃうなあ。
No.3  陽炎  評価:0点  ■2023-11-14 17:32  ID:.T.XHKIbJ8o
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☆小松菜 みずさんへ

いつもありがとうございます
邦画ですか?
たしかに、知らない人から見たら
ある意味ドラマですよねえ。。。
でも、現実に起きてた出来事なんですが( ̄▽ ̄;)

私も親になったことないですし
この先もなる予定ないので
親の気持ちはたしかに解らないです
しかしながら、親のほうは
子供時代がたしかにあったはずで
子供の気持ちも解らないはずはないと思いたいのですが
親になるとどうやら忘れてしまう生き物みたいですね

ありがとうございました
心より感謝



☆えんがわさんへ

いつもありがとうございます
延々と愚痴を聞かされ続けてきたので
空で云えるようになってしまい
いっそのこと詩にしてしまえ、と
描き上げたものですが
そうですよね、どすんと来ますよねm(__)m

余所の家族がどうゆうものだか
よく解らないのであれですけど
少なくともうちの場合は
同じ屋根の下にいる他人、という感じでしたね
血がつながっているだけややこしくなってた、というか

なんだか気を使わせてしまって、スミマセン
コメント頂けて嬉しかったです
ありがとうございました
心より感謝
No.2  えんがわ  評価:30点  ■2023-11-12 21:52  ID:PyFRimgEhSs
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陽炎さん、こんばんわん。

どよんとなりました。
ずしんと来ますね。
なかなかこういう感情は己の中に貯めると健康に悪いので、こうやってある程度客観を通して表現する、というのは健康にいいんじゃないかな。
家族って難しいですね。特に子供は母から逃れられませんですし。

自分は最近ゆらゆらだらだらしてるので、何か心を軽くするヒトコトをかけれればと思うんだけど、思いつかない。とほほん。
No.1  小松菜 みず  評価:50点  ■2023-11-12 09:48  ID:ELoqBiWqZQs
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小松菜です。読ませて頂きました。
重厚な邦画を観たような感覚になりました。
これこそ、本当に映像化して、過去と現在が織り交ざる映画にして欲しいと思いました。
わたしは親にはなったことがないので、親の気持ちは判らない。
しかし、子供ではあったことがあるので、子供の気持ちは理解できます。
そういうことを想いながら、読ませて頂きました。

ありがとうございました。
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