鬼灯

 夏陽の窓硝子に頬を合わせても

 誰かと触れ合ったことにはならなくて

 破損した夕立の喚きが

 ラジオのニュースを逆撫でている


 落ちたレールの先

 無くした下駄の片っぽ

 聞こえない茅蜩

 押し込めた感情の洞


 ねぇ、

 早く迎えにきて

 待っているの

 ずっと、あの日からずっと


 薄緑に弾かれた

 希望みたいな言葉を捨てられずに


 ずっと泣いているの

 ずっと、

 ずっと


 もう随分経つわ

 永い永い夏だった

 もう誰もいないのよ

 もう誰も

 誰も

 貴方さえも


 ねぇ、早く来て

 送り火が潰える前に

 鬼灯を振って待っているから


 八月の海は何色かな

 また教えてくれるかしら

 置き去りは懲り懲り

 もうしないでね


 今度こそ

 いよいよ融けてしまうわ
時雨ノ宮 蜉蝣丸
2019年08月15日(木) 20時25分19秒 公開
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■作者からのメッセージ
お久しゅうございます。

この作品の感想をお寄せください。
No.4  春さん  評価:50点  ■2020-09-05 15:20  ID:IaJIiwK2bLw
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ところどころひきつけられる表現があってイイです
No.3  ヤエ  評価:50点  ■2019-09-25 21:28  ID:qa8d3rN2tVw
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お久しぶりです。
変わらぬ言葉のセンスに、少し頬が綻びました。
八月の海の色、ってところ好きです。
お邪魔しました。
No.2  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:0点  ■2019-08-26 04:41  ID:RFnG7gIBzU.
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陽炎 様

コメント感謝致します。
お返事が遅れてしまい申し訳ありません。お久しゅうございます。
お盆になるたびに、誰か帰ってきたんだろうなぁと思い、
そしてお盆が終わるたびに、みんな還っていったのかなぁと思っています。

陽炎さんも、まだしばらく暑いですが、お体に気をつけてお過ごしくださいね。
No.1  陽炎  評価:50点  ■2019-08-17 01:44  ID:uVD8.FKNQlU
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お久しぶりです
相変わらず、表現が美しいですね

遠い死者からの手紙、とでもいいましょうか
きっと誰かを思い、待ち続け
死んでいった魂が
この季節になると、還ってくるのでしょうね

お元気そうでなによりでした
総レス数 4  合計 150

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