詩 |
夜、まだ静かに聞こえていた天使の羽音が、急に途絶えた。 誰も彼もが眠る夜、誰も、それに気が付かなかった。 沈黙に、堪えきれない、暗闇と星とが、外のほうへ逃げて出た。 歯磨きのあと、チョコレートアイスを、排水溝にトロトロ流した。 夜がのこらず逃げきって、もう来なかった。 たとえば、黄色い天使の亡骸は朝、電柱の隅に落ちている。 朝露に、濡れた亡骸に、アスファルトの砂が付く。 念入りにそれを洗って味噌汁の具にする。 陽の昇っていない日を、見たことがない。 人の暮らしが、快活な陽のもと、大きな通りに噴出する。 電車が止まれば皆して駆け寄り、走って登るビルの階段。 みどりの芝の公園で、勢い増して吹き上がる、噴水を眺める。 アル中に、なっても生きる、鬱病に、なっても生きる。 錯乱こそが一生なのだと、女に溺れる君が、通りを進むバスに乗る。 地球人口七十億人、みな健気に生きて、死ぬ。 それが夏のせわしない影のような……。 とはいえ至るところで見ているのだ。 熱した雑踏の、立ち止まった足元で、死んでいる。 植木の、黒く湿った根本、くすんだ羽で、死んでいる。 死んでいる。至るところで見てはいるのだ。 たとえば、電柱の隅、黄色い天使の亡骸は、朝の光に、腐っている。 味噌汁の具にして食べる、ぼくの、腹がいたい。 それでも食べる、ぼくの、腹がいたい。 きつく、よじれた腹がいたい、からだが重たい。 ぼくの、まだやわらかったところは、もはやすべて、死んでしまった? 夕方の畳なんかに、衰弱しきって寝そべって、どういうわけか。 思い浮かべている。どこにもない、父や母、静かな海なんてものを……。 西日の照りが、カーテンから漏れ、畳に映る。揺れつつ羽ばたき、また消える。 また羽ばたく、また羽ばたく、 また消える。感傷なんてくだらないものだと、歯磨きをして、 じゃ、さようならって笑う。 |
bokomu
2017年02月05日(日) 21時09分23秒 公開 ■この作品の著作権はbokomuさんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 | |||||
---|---|---|---|---|---|
No.1 井之四花 頂 評価:50点 ■2017-02-07 00:57 ID:uVD8.FKNQlU | |||||
bokomu様 拝読させていただきました。 天使の亡骸は、念入りに洗って味噌汁の具にするのですね。 ばっちいですからね。 にもかかわらず洗わずに味噌汁に入れる、というのはいかがでしょうか。 その方が天使は喜ぶのでは、などと考えてしまいました。 そして、お腹が痛くなるのは洗っても洗わなくても同じであろう、とも。 私どももまた無意識のうちに、来る日も来る日も死んだ天使をまな板の上に置き、下手な手つきでさばいて骨とハラワタを取り除き、 少しばかりの身をそれぞれに料理の具材として使っておるのだと思います。 そしてうまいとかまずいとかほざきます。 腹が痛くなるならまだしも、デカい音で臭い屁をするのが関の山では処置無しでございます。 ああ、最後の一行が重い。 そしてすごく、悲しい。 思わずこう語りかけたくなる。それで のですか? 詩評というよりうわごとのようなものを並べてしまい、失礼いたしました。恐らく真意を汲み取れてはいないと思います。どうかご容赦ください。 ありがとうございました。 |
|||||
総レス数 1 合計 50点 |
E-Mail(任意) | |
メッセージ | |
評価(必須) | 削除用パス Cookie |