車窓
車窓から眺める街の交差点上空に
懐かしい歌を思い出して
指先で窓に触れる
遊び疲れた夕暮れに
友達と別れて一人になった少年の影のように
ただし透きとって、そこにある
遠い昔
こんな隔たりはなかった
あの頃も歌は変わらずそこにあったけど
手を伸ばせばそれは降りてきて
きっと掴む事が出来た
あの頃に戻る事は出来ない
バスの車中には名も知らぬ人々が
微かな振動に揺られている
イヤフォンを付けたiPhoneで検索するとヒットしたのは
確かにあの歌だが
背後に置き去りにしたあの歌とどこか違う
この指先で今を操作してみても
(But I don't need no friends
 As long as I gaze on Waterloo sunset
似たものに触れただけでは慰めにもならない
イヤフォンを外す
一時停車
乗り込んでくる若い男女の中国人グループ
プシュー
「次は百万遍…」
こんな風に
大人になるなんて思ってもみなかった
本当に求めるものがわからなくなるなんて
たとえ涙を流しても
全身で求めていたかった
たとえ唇を噛み締めても
切実でいたかった
あの頃は
抉られた傷口の縁に沿って滑る透明な刃のような歌に慰められ
傷口から滲み出る夢で世界を変えられた
束の間…
今は穏やかな道行きの中で
少し眠気がする
次で降りる予定だったが乗り過ごす事にした
このまましばらくあてもなく行こう
ふと車窓から外を見やると
糸の垂れた赤い風船が秋晴れの空を昇り続けていた
A
2015年10月28日(水) 01時34分22秒 公開
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No.5  夏貸しさん  評価:50点  ■2017-12-03 02:36  ID:IaJIiwK2bLw
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とてもなめらかな抒情詩で心地よく感じました。
No.4  A  評価:--点  ■2015-11-06 06:38  ID:O6O0a8UCtXM
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笹竜胆さん

ご感想ありがとうございます。「プシュー」は他にも書きようがあったのでしょうが、なんかもうこれでいいかと思いました(笑)全体として、笹竜胆さんはこういうの苦手かなぁ、なんて思ってたのですが、点数が割と高かったので意外でした。いつも感想いただきありがとうございます。
No.3  A  評価:--点  ■2015-11-06 06:35  ID:O6O0a8UCtXM
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ヤエさん

ご感想ありがとうございます。日常の一コマを切り取るみたいな、そんな感じのものを書きたかったのですが、ところどころ共感していただけたようで良かったです。「ボンヤリと時身体をあずけてしまってる感じ」というのは、書いてる時の感情だったかもしれません。論理的に考えるのとは別の働き(大雑把には流れは作りましたが)なので、読みにくい事はなかったでしょうか?素敵と言っていただけるのは意外でした。ありがとうございます。
No.2  笹竜胆  評価:40点  ■2015-11-02 23:58  ID:KrjFhwsBKxc
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引っ掛かるところもなく、さらさらと読んでいたのですが、プシューで笑ってしまいました。
全体としてはうっすら積もった疲れがもの悲しく、赤い風船が映える爽やかなラストでした。
No.1  ヤエ  評価:50点  ■2015-10-30 01:29  ID:Uf7XqFVsX0k
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こんばんは
Aさんの作品の中でも特に好きな部類で……素敵です
車窓越しの世界や過去と今に浸る感覚
悲しいような、すべてがどうでもいいような、いや、どうでもは良くないような、ボンヤリと時身体をあずけてしまってる感じが何となく好きです。
絶妙な脱力感には私も覚えがあります……
表現の一つ一つに透明感があって、素敵でした。
総レス数 5  合計 140

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