夢の波止場 |
ベランダのガラス扉を覆う白のカーテンは 無機質な蛍光灯の光に散逸する記憶と 蝉の声をなだめながら沈黙している その模様は縦に伸びる蔓草 手を組み合わせ 祈りを真似ながら どんな文字でも掬えない叫びを思う 斜め上を見上げたり 人差し指を頬にあてたり 何気ない昼の所作が表わそうとしていたものを 夜は誰もいない海辺の波のように攫い隠してしまうから 壁に掛けたホワイトボードの片隅に あえて油性のペンで書いた「私」という文字 夜に溶けていけないのなら 火で包もうとした 何度も余白ごと燃やそうとした 夏の朝の砂浜に散らばった花火の残骸が 静かな波の音と共に掻き立てる郷愁を味わおうと 乾いた舌を文字と白紙の間に滑り込ませたりもした もっとも強く感じたのは苦味だった 刃物で掌を刺し貫く衝動に駆られるのだった そこに空いた穴をホワイトボードの「私」に重ね 「痛い」と一言、口にしたかった そしてパンを頬張り 火照った身体を壁に押し付けて しばらく無言で泣いていたかった 蝉の声を押しのけて 消防車のサイレンの音が聞こえる 部屋を出て アパートの外付けの階段を上り、街を眺め渡す 蒸し暑い大気の曇り空を見上げ 雨を予想する 不意に踏みつけたガムが 靴裏で伸びて糸をひきながら放つような 束の間の香りを残してくれたらいい そうすれば蝉の声も際立って 白昼の大気に亀裂を走らせるだろう 僕は亀裂を指先でなぞり 蔓草に夏の光と影を与えながら 夢の波止場、ベランダで煙草を吸おうーー 誰かの投じた瓶詰めの手紙が流れ着いているかもしれないと 足早に部屋に戻った |
A
2015年08月02日(日) 02時27分07秒 公開 ■この作品の著作権はAさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.4 A 評価:--点 ■2015-08-12 22:19 ID:pA0QzJ9KbiA | |||||
返信遅くなりすみません。 笹竜胆さん ご感想ありがとうございます。孤の言葉ではないものがもっと関わってくるような文章を書けたらいいのですが…難しいですね。 時雨ノ宮 蜉蝣丸さん ご感想ありがとうございます。掴めないものを書きたかったので、掴めなくてもおかしくありません。「短い映像」を断片的に挿入して、漠然と引き寄せたかったのは海のイメージでした。不安も哀愁も妙な愛しさも懐かしさも海に関連すると思われます。 |
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No.3 時雨ノ宮 蜉蝣丸 評価:40点 ■2015-08-04 03:04 ID:hydm4N2oU1M | |||||
こんばんは。 はっきり意味を掴みきれていないまま感想言うのもアレかもしれないですが、許してください。 バラバラな感じがしても、最後は妙にまとまっている。いろんな短い映像を繋げたような、そういうビデオテープの再生みたいに感じました。 上手く言えないですが、不安とか哀愁とか妙な愛しさ?みたいな…………たぶんAさんの考えとは違うと思うんですが「懐かしさ」的な何かを見ました。 個人的には蛍光灯のところが好きです。 変なことを書いてる……気がします。すみません、感想下手で……。 でも雰囲気好きです。ありがとうございました。 |
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No.2 ? 評価:0点 ■2015-08-04 00:55 ID:02vdbEm/EVA | |||||
縦読みすればいいですか? | |||||
No.1 笹竜胆 評価:40点 ■2015-08-03 20:08 ID:j/Aj1g3Atl2 | |||||
おかえり。 題のごとく掴み所がないんだけど、まとまっている感じが不思議だね。独りのようで、他人の残滓が漂う。最終連を別にしても、選んでる言葉が孤のものじゃないんだろうな。 表現としては「乾いた舌を文字と白紙の間に滑り込ませたりもした」が一歩抜けてるかな。 |
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総レス数 4 合計 80点 |
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