招かれざる客

誰かと思えば またあんたかい
最近めっきり顔を見なかったが
またここにやってきたのかい
よっぽど あたいが好きとみえるね


あんたがどんなに誘ったって
あたいはその手には乗らないよ


あたいにはまだ やりたいことがあるんだからね
みゆきやエレカシやamazarashiのライブにもっと行きたいし
寺山修司や高畠華宵の記念館にも行ってみたい
読みたい本もたくさんあるし 描いておきたい詩もたくさんある
もっと勉強したいし もっと賢くなりたい
知らないことにもっともっと触れてみたい
まだ出会っていない誰かと いつか出会いたいし
いままでどうやって生きてきたかとか
そんな話を飽きるまで語り合いたい
人を好きになりたいし 恋だって諦めたわけじゃない
あ いま笑ったでしょ
あたいだって一応女やってるわけだし 
恋したいって思ったからって
あんたに笑われる筋合いなんてひとつもないんだからね


くだらないって顔してるね
あんたのやりたいことじゃないからそう思うのよ
あたいがしたいと思ってることに
いちいち首をつっこんでこないでくれるかしら



「お前なんかと出逢っちゃったら 運も尽きるね」
「死んだほうが世の中のためだよ」



あんたってホント 嫌味なやつね
誰もあたしのことなんか必要としていないことくらい
解りすぎるくらい よく解ってるわよ
だけど だからってもう 誰かさん次第で生きるとか生きないとか
決めてしまうのはやめにしたのよ
「死んだほうが世のため」ですって?
笑わせないで
世の中を動かせるほどの力なんか
あたいには1ミクロンも持ち合わせてなんかいやしないわ


嗚呼 もううるさい うざったい
いい加減 帰ってくれないかしら


あたいはまだ死んだりしない
簡単に死んだりなんかしない
まだ何も終わっちゃいないんだ
あんたの思い通りになんか
絶対させないんだから
いつまで粘っているつもりなの
どんなに粘ったって あたいの気持ちは変わらないわよ


人生の3分の1を無駄に過ごしてきてしまったのよ
これからそれを取り戻しに行かなきゃならないの
だから悪いけど あんたにかまってるヒマはないのよ
いい加減諦めたらどう?



     生い立ち 家族 友人 人間関係
     淋しさ 虚しさ 息苦しさ
     意味がどうとか 理由がどうとか
     無意味だとかつまらないだとか
     考えだしたらキリのないことだらけ



ねえ あんたは知らないでしょ
死んだほうが その方がたしかに楽かもしれないって
もう何もかも放り出して逃げてしまいたいって
そんなふうに思うことがないわけじゃないわ
けどね やりたいことがまだあるうちは
多分きっと どうにかなると思うのよ
生きてるうちに やりたいことはやっておかないと
このまんま つまらない人生のまんま強制終了なんて
それじゃあ あんまりにも あたいがかわいそう


あんたがいなかったらあたい
ずっとそのことに気がつかないままだったかもしれないわね
あんたがそこで死を用意して待っていてくれてるから
あたいきっと 安心して好きなことができてるんだと思うの
だから あんたにはとても感謝しているの
嘘じゃないわ 本当に ホントにそう思ってるのよ


あんたもひとりぼっちは淋しいんだね
解るよ あたしだって同じだからさ
けどさ どこかにきっとあるってあたい思うよ
あんたがあんたらしくいられる方法ってやつがさ
お腹がよじれるくらい笑っちゃう瞬間てのがさ
心が揺り動かされるほどの震える瞬間てのがさ
辛いことはなくならない
けど 生きていなけりゃ こんな詩だって描けてないし
あんなすばらしい詩を描く人にも出逢えなかったわけだから


偉そうなことなんか なにもひとつも云えやしないけれど
この途の向こうできっと あたいをあんたを待ってるものが
確実にあるんだってこと
それがいいことなのか 悪いことなのかは解らないけど
どっちにしたって 出逢わないまま終わるなんてもったいないよ



その両手 いっぱいに広げて
何かがこの手に触れるまで
そいつを掴みとるまで
高く高く 遠くまで手を伸ばすんだ


あんたにならできるよ
だってあんた 頭いいんだから
あたいに出来ることを
あんたにだって出来ないわけがないんだよ


大丈夫 何も心配いらないよ
不安ならほら 手をつないで
あんたのぬくもりが
あんたの鼓動が
あたいのてのひらにじんわり伝わってくる
脈打つ波が これ以上ないくらいに
生きてることを指し示してる


あんただって あたしだって
今この瞬間を たしかに生きてる
生きてるんだ



誰にも文句なんか云わせない



何度でも云ったげる
ここにいていいんだよ



生きていても いいんだよ


 
陽炎
2015年06月04日(木) 19時28分48秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
この客は、いつも何の前触れもなく
突然やってきては
あたいの中にズカズカと土足で入り込んで
あたいの中のど真ん中に図々しく居座ろうとする
相手をしてやらないと
すぐに拗ねていじけてみせたりするから
まったくもってやれやれなのです

この作品の感想をお寄せください。
No.6  陽炎  評価:0点  ■2015-06-14 11:30  ID:Fby/gHxyItM
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☆クレナイさんへ☆

お読みいただき、ありがとうございます

今回は会話しているような感じで描きましたが
入りやすいと思っていただけてよかったです

ありがとうございました
心より感謝
No.5  クレナイ  評価:50点  ■2015-06-12 19:19  ID:k7isMvt3lGM
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陽炎さま

招かれざる客…、軽い口調で軽快に話が進むのとは対局に、題材や内容は深く重かったなぁと。
しかし、この詩のスタイルだからこそ、読み手としてはスッと入りやすかったように思いました。
No.4  陽炎  評価:0点  ■2015-06-08 16:05  ID:qF/G0WzZYH6
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☆ヤエさんへ☆

いつもありがとうございます

クスっとなってもらえたならよかったです
心が軽くなった気になってもらえたならなおさら

ありがとうございました
心より感謝
No.3  ヤエ  評価:50点  ■2015-06-07 16:58  ID:6G1KAS8HmaE
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こんにちは
ユーモアがあって、どことなくクスっとなる作品だなぁと思いました。
意図してなければ、もしかすると失礼なのかもしれませんが、こういう文体で見ると、何となく心が軽くなる気がしました。

ありがとうございます。
No.2  陽炎  評価:0点  ■2015-06-07 04:15  ID:qF/G0WzZYH6
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☆ゆうすけさんへ☆

いつもありがとうございます

まさしく、これはもう一人の自分
ゆううつや死を持ってやってきて
私のど真ん中に居座ろうとする
とても厄介な奴です
しかも、いつも突然やってくるから
毎回対処の仕様に困ってしまう

嫌がっても調子に乗らせるだけだから
結果、これも自分なんだと受け入れてやることでしか
奴の暴走を止めることはできない

静かになって立ち去っても
忘れたころにまたやってくるので
こちらもある程度心構えをしておかないと
という感じですね

>やっぱり陽炎さんは、語りかけてくる感じの文章が最高です。

そんなふうに思っていただけてうれしいです

足の親指、粉砕骨折って聞いてるだけで痛いです
痛みはひいたみたいですけど、大丈夫ですか
まだ梅雨にも入っていないのに、真夏のような暑さが続いてましたから
体調も崩しがちになりますよね
私の周りでも、熱を出したりしている人が結構いますよ
栄養のあるものを食べて、養生してくださいね

久しぶりにゆうすけさんとお話できてよかったです
ありがとうございました
心より感謝
No.1  ゆうすけ  評価:50点  ■2015-06-05 20:23  ID:oTFI4ZinOLw
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「この客」とは、自分の中にいるもう一人の自分ですね。なんとか遠くに押しやっていても、不意に叫びながら突っ込んでくるような、制御不能の暴れん坊ですね。この客を、無視したり強引に抑え込んだり、分かりあおうとしたり、共存する道を模索したり、認めて容認して、最後には許しあえたら、弱い己を認めて、そこからまた一歩を踏み出せたら、壮絶なダークサイドの中でその奥底に見える光明、この感じがいいですね。
雨はいつかやんで晴れるけど、また雨は降る。朝が来ない夜はないけど、また夜が来る。四季のように廻る光と闇、そんなことを想います。

やっぱり陽炎さんは、語りかけてくる感じの文章が最高です。居酒屋で一緒に語っているような雰囲気を感じて、つい詩的な感傷に浸ってしまいますもん。
仕事に追われて論理的思考しかできていなかった私のドライな心がウエットな感じになって、また文芸を楽しみたくなりましたよ。

先月、足の親指に鉄板を落として粉砕骨折! やっと痛みが治まったら今は風邪ひいてぐったり。日々タンパク質と各種ビタミン摂取を心がけているこの体たらく、元気ですか? と問うのも憚られる〜〜。
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