隔絶からの散文詩

洗面器にぷかぷかと浮かんでいる林檎を眺めながら、これからのことをどうしようかと考えていた。家はない。たぶん蟻の腹の中だ。突如の大波で、自分が浮草であったことを思い出す。大体いつもそんなんで、これからもこんなんだろう。林檎はぷかぷか浮いていて、誰かがかじるのを待っている。別に、どんな器でも構いやしないのだ。きゅっと拭ってがぶりといった。滴り落ちる蜜は鋭い甘さで脳内を駆け巡る。これが知恵の実だと言うなら、知とは快楽だろうか。指先まで蜜を追い、獣のようだと自覚する。しかし、生きよう。地を這って。

やはりそれは狂気だと思うよと、友人が物憂げにこぼす。ブランデーを回す手はいつも決まったリズムを刻んでいて、秒針のようだと常々感じる。ナサケナイ人と詰りかかって止めるのも、専らこの動作のせいだ。乱れない規律がそこに表れていて、踏み入ることができない。情けないのは私だ。で、いつも終わる。珍しいのは、彼がこちらの目を覗き込んでいることだ。わずかに首を傾げる。じんと痺れるような感覚があって、彼の熱に気が付いた。腰が浮くのは何故だろう。どこにもいたくないのだ、きっと。どうしようもない本音が喉を抜けるより先に、するすると馴染む躰が怖い。背きかかって、左手が搦め捕られていたことに唖然とする。
例えば君が僕を求めるとして、と落葉色の声で友人が囁く。
ーー君は僕に、何を望むんだい?

笹竜胆
2014年12月19日(金) 00時35分38秒 公開
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■作者からのメッセージ
散文詩は初挑戦。いやはや。

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No.8  笹竜胆  評価:0点  ■2015-01-02 23:18  ID:yUDZSoSYd1k
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>藤村さん
うえぇえ! 何でわかったんですか?
確かに川に流れてるのを拾って洗面器に入れたんですよ。流した本人か私以外はわからないだろうと思っていたのですが……凄すぎる。
こちらこそ読んでいただけて光栄です。
深謝。
No.7  藤村  評価:40点  ■2015-01-02 20:59  ID:0gZVgy/IpYg
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拝読しました。
なんどか読んでいるうち、この林檎は川から流れてきたのをひろわれたのにちがいない、ということに(もちろん一人合点ですが)おもいいたって、読んでよかったと楽しくなりました。
No.6  笹竜胆  評価:0点  ■2014-12-31 12:45  ID:yUDZSoSYd1k
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>游月さん
こんにちは。
思いつきでさらさら描いただけなんですけどね。主題についてはここしばらく考えていたことではあります。一応、二段目は一段目に合わせて組みましたが、あまり綺麗に嵌めてません。対比を決めすぎても散文として鼻につくかな、と。比喩の塩梅といい、普通の詩よりかえって制限が多い印象ですね。気が向けばまたやります。
No.5  笹竜胆  評価:0点  ■2014-12-31 12:09  ID:yUDZSoSYd1k
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>時雨ノ宮さん
こんにちは。
従来、詩と小説の間に散文詩があると言われてきたのですが、違うのではないかと最近考えています。散文にはエッセイや論評もあるので、そちらとの境界に散文詩を置いてもいいかなと。模範文法に基づき、段落で管理するのが個人的ルールですね。

現実と意識の解離から接触までを二層で描いた、というところですかね。友人は実体そのまま、というよりは意識下まで取り込んだ像、です。ただし、相手はそのことを承知した上で、捕らえています。とはいえ、別の「私」と読むのも面白いですね。
香る、とは嬉しい言葉。ありがとうございました。
No.4  笹竜胆  評価:0点  ■2014-12-31 11:07  ID:yUDZSoSYd1k
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皆様返信が遅くなってすみません。
>菊池さん
ご意見ありがとうございます。
散文詩、韻文小説、境界を定めたワイルドやプーシキンを読みきれず、萩原朔太郎の散文詩を参考にしたものの、あまりしっくりきていないのは事実ですね。詩と散文詩は用途が異なるようにも思えますが、さて。
林檎は貰い物を剥いただけです。
No.3  游月 昭  評価:50点  ■2014-12-20 13:59  ID:Dt2LimhRpY6
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こんにちは。
初散文詩ですか。申し訳ない。これが一番面白いです。
私は初心者に毛が生えた程度ですから、サッと読める訳じゃなくて、
蟻か?……あ、そうか、するってぇと、おお。
狂気か?……ふむ。みたいな感じですが。
他所でもこういう詩はどうやって読むんだろうと思いながら游月殺法苦し紛れ感性読みをするわけですが、私なりに読めてくる。
作者はキッチリ骨組みを立てながら建設していくんだろうかと思いながらお会いしてそこんところ聞いてみたいなあと思ったりしています。
曖昧な「感」ていうものをかつがつでも読めるように書けるところが凄いなあと、詩評になっていませんが、お許しを。
私から見れば成功していると思います。
双方の詩作の何の糧にもなりませんが楽しませていただきました。
いや、私にはボディーブローかもしれない。
ありがとうございました
No.2  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:40点  ■2014-12-19 12:47  ID:TKGGpZYl9T.
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こんにちは。

散文詩の定義は俺もいまいちわかっていませんが、たぶん助詞とかそういう普通の文章で使われているやつら(〜も、とか)が使われた、文章的な詩なんじゃないかと思っています。
とはいえ詩と文章の境目なんて、結構曖昧ではっきり認識してる人も少ないのでは、と身勝手に考えています。

林檎の蜜の描写と後半の展開が、何とも言えない狂気、恐怖を感じさせますね。
実はこの友人とやら、「私」の中にある「私を否定する私」だったりしないかしら。
雰囲気がとても素敵です、フレグランスとかみたいな香りが漂ってきそう。

ありがとうございました。
No.1  菊池清美  評価:50点  ■2014-12-19 04:17  ID:/dxzQ0Wmf36
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私も散文詩と言うものの意味が判りません、多分言葉を削げなかった人の方便かと思います。

林檎の果汁が滴って指を舐めるなど表現は変わらず見事です。

総レス数 8  合計 180

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