懸想文 |
懐に狗のひそめし懸想文 恋ふるをみなを想ひつづるに *かろき小男ありて 誰そ知らねど いと*やむごとなき*際に見えたる方 我が狗になれ、とのたまひて 褒美を与ふること*結びたるゆえ 男、一日を暮らしかぬるよしにて受けたり 銭なる綱にくくられて あるじの命を重んずる狗になりけり ある日の昼つ方 *おもき方、男に命じたる事ありき 大きなる*亭のあるじが*夜殿を見つくること もし捕らへらるることあらば つくりものの懸想文をばとり出だすこと 和歌はみずからよみて 歌よみをして書かせしむること *実知られたれば自害を*くはだつること 問ひに*おつらば*家内の命あらざらむこと 男*おぢまどひけれど如何はせむと 恋ふる女を想ひてよめる歌 春の夜に舞ひちる花の立ちかくす 空のいづこに月やどるらむ 十日後の*夜半 男、亭に忍びたりけり 月影さやけき庭ぞ*まかりぢに見えける あな、口惜しや、狗ぞほえたる すなはち亭より番出でたりて捕らへらる はたと思い出づるは懸想文 頼まれしものとて懐よりとり出だせば 亭に姫はおらぬとぞのたまいける ところ*違へてけり、と申さば 一同にうち笑ひけり 何と と夜殿と思しきより出でし方おもき様なり *許られし男*なくなく帰へり来るは 懸命によみける懸想文を *没収せられしゆえなり あるじより褒美をたまいけるが 綱こそ解かれざりにける ―完― 〔註釈〕 懸想文(けさうぶみ)=恋文に短歌を詠み内容に纏わる草木を添えて使いに持って行かせる物 狗(いぬ)=(犬=嗅ぎまわる者)=密偵 をみな(女)=若い女性 かろき=身分の低い やむごとなき=おもき=身分の高い 際(きは)=身分 結び=約束し 亭(てい)=屋敷 夜殿(よどの)=寝室 実知られ=正体を見破られ くはだつる(企つる)=実行する おつらば(落つらば)=白状すれば 家内(けない)=家族、一族 おぢまどひ(怖ぢ惑ひ)けれど如何はせむ=恐れうろたえたがどうにもならない 夜半(よは)=夜中 まかりぢ(罷り路)=冥土への道 違へ(たがへ)=間違え 許られ(ゆられ)=(ゆるされ)解放され なくなく(泣く泣く)=泣きながら 没収(もっしゅ) |
游月 昭
2014年10月20日(月) 15時08分42秒 公開 ■この作品の著作権は游月 昭さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.6 游月 昭 評価:0点 ■2014-10-31 06:13 ID:1K/KT8CGgX. | |||||
ヤエさん、おはようございます。 返信が遅くなりました。すみません。 古語を使うと、その時代の匂いが滲み出て来そうでワクワクします。 ご指摘の言葉について。 まかりぢ、は柿本人麻呂や近代の歌人が使用しています。 なくなく、は源氏物語で使用されています。 とはいえ、さて全体的に言葉が揃っているかというと、全く自信がありません。 まだまだ当時の書を読み足りないので、 バラバラ感を読者に伝えているかもしれません。今後出来るだけ統一感のあるものが書けるよう、頑張って行きたいと思います。 今後も宜しくお願いします。 ありがとうございました。 |
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No.5 游月 昭 評価:0点 ■2014-10-31 05:53 ID:1K/KT8CGgX. | |||||
笹竜胆さん、おはようございます。 返信が遅くなりました。長い文章になるだろうと思い、書けずにいました。 古文による歌と物語のこころみ第一弾になります。第一弾と言うのですから、更にやらかしています。(ハマっちゃいました) そんなわけで、このあと伊勢物語を教科書として平安の言葉を勉強することになります。 まず第一に「つづるに」を「つづれど」へということですが、後者だと、歌としてぶつ切り感が残る気がします。 とはいえ、本文に繋げていく為の語尾への配慮という点では、意識はあまりしておらず、今後意識していくべき事柄であろうと思いました。 二首目については、大変難しいご指摘で、詩や短歌の基本の手法として十分練るべき事に違いないと思います。短歌の作法としてそういうことがありそうですね。美しく聞こえるために両立は難しいのかもしれません。 「花」については、オ〜ノ〜!なウッカリです。 >地の文で花の咲き様を示して これはどうしようか迷ったところです。 >>夜さりの空に花ちらす枝を、手折りてふみへ……音たちにければ、狗…… 狗の登場シーンも端折ってあります。 詩文と短歌の組み合わせをたまに書くのですが、この内容の重複の度合いについていつも悩みます。 いろいろと考えさせられました。 大変身になる時間をありがとうございました。 |
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No.4 ヤエ 評価:50点 ■2014-10-31 20:53 ID:L6TukelU0BA | |||||
こんばんは 最近は生物学ばかり学んでいるので、古典はとても懐かしいように思います。 古語にはなんとも言えない魅力がありますよね。 怪しく儚く美しい。そんなイメージです。 そんな私ですので、特に言えることは無いのですが、ただ「まかりぢ」や「なくなく」などは実際の古典文書ではあまり見かけない表現だったので(とはいってもさほど量を読んできたわけではありませんが)少し違和感を感じました。 読んでいて楽しかったです。ありがとうございました。 追記 そうだったのですね!無知をさらけ出してしまってお恥ずかしい。申し訳ありませんでした これからも楽しみに待ってます。 |
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No.3 笹竜胆 評価:30点 ■2014-10-24 23:52 ID:RsRwhEcmzDk | |||||
歌物語かぁ。挑戦ですね。第一首を地文に添わせるなら、「つづるに」より「つづれど」かな。さて、第二首だけど、夏の夜はの本歌取りで季節と主題をずらしたところ、象徴が花と月に割れて半端な印象です。加えて、花は平安時代だと梅を指すことが多いので、そこでも微妙にブレが。地の文で花の咲き様を示して支えた方がいいです。末摘花にしてよいのならば別ですが。 |
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No.2 游月 昭 評価:0点 ■2014-10-22 23:35 ID:qx2ygamosbQ | |||||
菊池さんこんばんは。 古語は学校で習っただけですが、方言と性格が同じなので、最近ハマってしまいました。今後平安の言葉で統一させたものを手がけたいと思っているので、現在勉強中デス。昨日から(^^;; 面倒なものを読んで頂いてありがとうございました。 |
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No.1 菊池清美 評価:50点 ■2014-10-22 13:01 ID:te6yfYFg2XA | |||||
流石古語を習った方は違いますね、平安にスリップした感じです。 日本文学の原点を見た感じです、懸想文と言う言葉すら知りませんでしたからコメントする資格も無いですね。 只ご苦労を労いたくお邪魔しました、注釈と見比べて何とか読み終えました、有難う御座いました。 |
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総レス数 6 合計 130点 |
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