彫刻の朝 |
言い訳をする時、口から出まかせに零した言葉がどんなにもっともらしくても 君の本心でない事くらい、胸に聞けば分かるだろう? 君は本心の殺害者 どれほど冷静を装い、考えを尽くしたところで君は罪の記憶から逃れられない 同様の犯行を繰り返す犯罪者のように、これからも君は本心を殺し続けるのだろうか? 母に抱かれた幼子が花にとまった蝶を指差し、微笑みと共に穏やかな声で名を教えられる春の朝 男達が汗して作り上げた建物の屋上で少年が果実の種のような意志を握り締め鷹の目で植える場所を探す夏の昼下がり ばらばらに壊れてしまいそうな身体を寄せ合って離れ離れだった心の傷が癒えるのを待つ破れた夢の同志達の秋の夕べ 思いやりの中で次第に輪郭を失い溶けていく会話に浸って、あたたかな信頼を身体の芯から取り戻す恋人達の冬の夜 小さな灯の下で書物を開き不在者と心を交わして蠢き続ける世界の闇へ自らを溶け込ませる、季節を忘れた孤独者の深夜 これら偽りのない時に君が反旗を翻し 殺害現場すなわち氷った小さな湖に小指程のその小さな旗を立て、座り込んでいるのはなぜか 君は誰かに迎えに来てほしいとは願っていない その証拠に君は火を熾し煙を昇らせ助けを求めたりしないし、悲鳴さえあげない 君は寒さに震えながら試している 殺した本心が甦るかどうか、それだけを試している たまに苛立って氷った表面を砕いてみせたりするが 純粋だと信じた氷の下の水は黒ずんだ血の色をしていて、そこに浮かび上がる傷付いた唇の断罪に君は怯え 固く目を瞑り両手で耳を塞ぎ膝を両肘で抱え込み 混乱し立ち上がっては暴れ回り、落ち着いたかと思えば再び座り込み 同じ事を繰り返している いい加減、目を覚ませ 自分なんて下らないとか、無力だとか、生きている意味がないとか、 自分を保つためのつまらない言い訳をいつまで呟き続けるつもりなのか 君はそんなに君を貶めるとともに 氷った湖の外にある世界を、人間をつまらないものと決めつけているに違いないが 殺してしまった本心の方が美しかった、なんて 自惚れたごまかしはやめろ どうせ生きる事を諦められはしないのに どうせなら 震える拳を鋭い鑿に変え 透明でごまかしのきかない素材を切り出して全霊を込めて打ち 君の生の全てを要約するような彫刻をつくれ 鮮血で色を塗れ、黒ずんだ血のような水を浴びせるのもいい 君の償いに値するように、唾を吐きかけながらでも 彼方で朝陽に変わる瞬間を見るために沈む夕陽に向かって歩み続ける愚者のような自分を認め 立ち尽くしている事を許し、本当に待つ事を始められるまで 君の気が済むまで打て―― 湖が空を映す瞳であるなら 陽光は空の彼方から放たれた自由な眼差しだ 朝、君の気が済んだなら 君はその哀しみと微笑をたたえた眼差しになり、未完成の彫刻の名を呼ぶだろう 途端、君は世界を遠くから愛さずにいられなくなって 水や空気よりも柔らかくなった無数の指で 沢山の名をつなげては解き、解いてはつなげ 万物を目覚めに誘う、誰も聞いた事のない歌を歌い始めるだろう |
A
2014年09月25日(木) 00時25分40秒 公開 ■この作品の著作権はAさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.8 A 評価:0点 ■2014-10-13 20:00 ID:BymBLCyvz/o | |||||
お試しさん ご感想ありがとうございます。二連目は自分でも不自然かな、という気が強くなってきました。ある意味、素朴である事にこだわりがあるみたいなのですが、素朴に書かれた事を素材にして更に突き抜けた洞察を示す言葉、というものを最近夢想するようになりました。ロジックというのは、洞察を伝達しやすい形に置き換える技術で、洞察がないまま不自然な展開をしても、一言で言えば「面白味がない」という事になるんだろうな、と思うようになりました。僕が得意にする展開とは別の質の展開について意識してみたいと思います。ありがとうございました。 |
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No.7 お試しさん 評価:50点 ■2014-10-13 17:17 ID:9h6qp5PumAE | |||||
ちょっと手抜きの感想になりますが、いままで何度か感想を差し上げたことに免じてご容赦ください。いや、しっかり読み込んで綿密な感想書こうと思っていたのですが、なんだか疲れてしまっていて……すみません。 ここはセンスいいなとおもったフレーズ/行です。 >どうせ生きる事を諦められはしないのに >彼方で朝陽に変わる瞬間を見るために沈む夕陽に向かって歩み続ける >立ち尽くしている事を許し、本当に待つ事を始められるまで >最後の三行 この4箇所は好感触でした。 ちょっと自分の肌に合わない言葉が幾つかありまして、たとえば「殺す」などを「失う」とかにやわらげてもらえたらよかったな、なんて感じながら読みましたが、どうやって詩を展開していくか、その点はかなりの力量をもっている方だなと思います。その展開のエネルギーが波に乗りすぎていて逆に弊害がでてしまってはいないかと感じるのが二連目でしょうか。ここはどの行も尻尾が丁寧に合わせてありますが、ちょっとブランドロゴが目立ちすぎるシャネル製品みたいな感じがします。 展開する力があるということはロジカルシンキングに優れているということでしょう、ここは大事になさってください。どんな言葉を選ぶかっていうのはだんだんと趣味志向がかわっていきますので(その速度は、音楽の趣味の変化と同じくらいだったり、味覚の変化くらい遅かったりと人それぞれですが)、ここらへんはお互い勉強を重ねてがんばっていきましょう。 簡単ですが、今回はこれにて失礼します。 |
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No.6 A 評価:0点 ■2014-10-03 05:15 ID:BymBLCyvz/o | |||||
芋の部屋さん サンクス! |
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No.5 芋の部屋 評価:50点 ■2014-10-03 01:20 ID:TMdxqdG6k8U | |||||
グッド! | |||||
No.4 A 評価:0点 ■2014-09-27 02:47 ID:pA0QzJ9KbiA | |||||
shikiさん ご感想ありがとうございます。 「君」という言葉を使っていますが、自分に向けて書いたというのが本当です。書き終えて、(まだ足りない、まだ)と思いました。 ご指摘の第二連、甘かったかな、と思います。「春の朝」「夏の昼」「秋の夕」「冬の夜」「季節のない深夜」というラベルが先にあって、後から中身を注いだので、本心をうたっているのに、嘘っぽい感じがしたかなぁ、とか。他にも、突っ込みどころがあるかもしれません。 ただ、この作品を書いて、少しは前進したような気がします。「誰も聞いた事のない歌」って何やねん、という問いを自分で発しつつ、もっといいものを書けるようになりたいです。ありがとうございます。 |
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No.3 A 評価:0点 ■2014-09-27 02:39 ID:pA0QzJ9KbiA | |||||
逃げ腰さん ご感想ありがとうございます。 純文学とそうでない文学の違いがよくわからないのですが、これで一本通るかな?という「筋」を意識しながら書きました。なるべく分かりやすいように、というか、自分で何を言っているか分かるように書いてみました。自分で何を言っているか分からない、だが、分からない事を書かざるを得ないというような地点に立って書くという事は有り得るのでしょうか?そのような地点に導かれる事は望むところですが、インスピレーションは降りきてはくれません…なら、出来る事をやるしかないのでしょう。出来る事をやりたいと思います。 褒めてくださってありがとうございます。 |
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No.2 shiki 評価:50点 ■2014-09-26 12:16 ID:/S6hyAqUMcE | |||||
こんにちは。読ませて頂きました。 彫刻が詩を意味しているのかなとは思いますが……読む者を彫刻するようなきびしさに、背筋がのびます。 すごいです。痛いです。ささります。 最初に読んだ時、二連目がしっくりこなかったのですが、何度か読むと、やはり注意深く書かれているのがわかります。 最後血みどろの格闘の後、誰も聞いた事のない歌を歌い始めるというのが感動的です。 タイトルも素敵です。 いつも、いいとしか書けないので、Aさんの成長のさまたげになってしまっているかも……。 批評は他の方におまかせすることとして、今回も期待を裏切らない作品有難うございました。 |
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No.1 逃げ腰 評価:50点 ■2014-09-25 05:04 ID:j.IsO/gOFss | |||||
3回も熟読しちゃった。 >>立ち尽くしている事を許し、本当に待つ事を始められるまで >>万物を目覚めに誘う、誰も聞いた事のない歌を歌い始めるだろう 好きなところです。 質と量共に凄い。あと、情熱も。 「純文学」よりは「一般文芸」寄りだと思います 何を志向するかは人によって違うので難しいですね。 プロットや伏線に重きをおくならば、実験ばかりしてよくわからない純文学より、一般文芸を意識するとよいかもしれませんね。 なかなか人の筋を見極めるのは難しいですが…。 しかし、圧倒される。「彫刻」とはこの強固な詩ではなかったか…とw 良いです、とても! |
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総レス数 8 合計 200点 |
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