おばあちゃんの季節 |
孫の登場はセンセーショナル ほんの小さなお人形の存在が 世界の中心になろうとしていた 家族の呼び名が順に塗り替えられる 姉は母になり 両親は祖父母に そして私は叔父になる 両親にとっての初孫 私にとっては初めての姪が生まれた 姉は子供の頃はオランウータンで 私はリスザルだったが 姪はやっぱりオランウータンだった 私と姪との初めての写真はツーショット 角刈り頭のメガネ青年が抱けば 人見知りの早い赤ん坊が泣いている おばあちゃんはいつもそばに居て おじいちゃんは休みには孫と遊んであげる と言うより お人形と一緒に楽しく過ごせるという感じ 「夢の国行きのお舟が出ますよ〜 お乗りの方はお急ぎくださ〜い」 父はそう言って孫を寝かせていた 自分達が年老いていく分だけ 孫娘は成長していく その姿を目の当たりに出来るのだから この上ない幸せであったに違いない 眼に入れても痛くないとはこのことだろう ところが、残酷な娘の夫 全ては転勤のせい 1000kmも離れてしまえばめったに会えない 孫娘は別れの自動車に乗ろうとはせず おばあちゃんにしがみついて泣きじゃくる いつまでもそうしているわけにもいかないことは 孫娘も分かっていた もうお姉ちゃんになっていた 車に乗り込めば後ろを向いて 泣きながらいつまでも手を振り続けていた 小さい頃、母親の言うことをきかず 「もう、おばあちゃん家の子になりなさい!」 と言われ 「なるから、車でおくって!」 と切り返して母親を泣かせた孫娘も 二十歳をすぎて結婚式の主役になる おじいちゃんは晴れ姿に間に合わず おばあちゃんは息子の私と1000kmの旅へ 大都会のど真ん中を通る電車 よろよろと乗り次ぐ田舎者の姿 孫娘の幸せを暗示するように 老女をいたわる大都会の乗客たち 滞りなく辿りついた結婚式 時を隔ててお姫さまになった孫娘の姿に まるで福笑いのような母の顔 父の笑顔の写真をしのばせて 息子の役目は果たせただろうか 帰りの新幹線の窓いっぱいに春 快晴の富士がひろがっていた |
游月 昭
2014年09月02日(火) 14時19分16秒 公開 ■この作品の著作権は游月 昭さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 游月 昭 評価:0点 ■2014-09-04 16:37 ID:gYbTEfdSPrU | |||||
shikiさん、お久しぶりです! 孫の誕生で家族の呼び名が変わるので、書き手として、どの呼び名だと読者がわかりやすいかってことで意外に文章作成に時間がかかりました。最初は散文だったんですが、あらすじみたいになってしまって。とりあえず出来て良かったです。ありがとうございました。 |
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No.1 shiki 評価:50点 ■2014-09-04 12:10 ID:/S6hyAqUMcE | |||||
お久しぶりです。 拝見させていただきました。 主人公が叔父さんではなく、お母さんというところが良いなあ、と思いました。 游月さんが撮った家族写真のアルバムを見せて頂いたような温かい気分になりました。 姪っ子は可愛いですよね。共感できます。 素敵な作品有難うございました。 |
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総レス数 2 合計 50点 |
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