森を抜けて |
とある森の暗がりで自らを高貴な麗しの毒茸と妄想する不思議な茸が 魔女が落とし忘れたと思い込んでいる薄汚れた手鏡に向かって自分語りをして悦に入っていた、その頃 空腹に苛立った一匹の虎が森の中心で咆哮をあげた そして猛然と辺りの木々に突進し爪を突き立てて木肌に傷を負わせたが 神経を欠いた木々は何事もなかったかのように素知らぬふうを装っていた 湿っぽく生温い風が吹いていた 腐ったバナナのような臭いに虎は顔を顰めたが、それは皮を剥がれた木々が漂わせたものだった 虎は言うに言われぬ苛立ちに居ても立ってもいられず、全力で木々の間を走り抜けた そして腐臭を逃れ、躍動に身を任せきった時 夕焼けの蝙蝠共は突如絶命して落下し、いつの間にか黒く細長い槍になって森に降り注いだ 怯えた鳴き声をあげながら四方八方散り散りに逃げ惑う猿共は槍に貫かれ悶えながら、やがて息耐えた 枝の下に隠れていた蛇共は森を這い回り槍ごと猿の死骸を食って膨れ上がった末に液状化した 小さな津波のように森を流れる黒い水の到来を認めた茸は「ままままままままま……」と絶叫しながら白い胞子を噴き出して、みるみる内に萎えた 手鏡は疾走する虎に踏まれ地面にめり込み何も映さなくなった 遠くから巨大な暗雲の垂れこめてくる微かな気配に小刻みに震え出した小さな森の外れから 凄まじい風の吹き渡る広大な野へ飛び出した虎 地平線へと急ぐ夥しい数の火の礫のような雲の下を鷲が悠々と翔けていた 水場は金色の光を立ち昇らせて真紅のフラミンゴを大気へ溶かし込んでいた 砂地に伏せた灰の象の瞳は優しい光を帯びた経験を静かに映し続けていた 虎よ、長い夜に耐えるために慰めが必要なら 雨が降り出す前に世界の残り火を集め 戯れに黄昏の森に放て |
A
2014年07月03日(木) 00時49分45秒 公開 ■この作品の著作権はAさんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 | |||||
---|---|---|---|---|---|
No.4 A 評価:--点 ■2014-07-11 16:54 ID:L6TukelU0BA | |||||
游月 昭さん ご感想ありがとうございます。ちょっとした苛立ちから、思い切った詩を書いてみました。そのせいか、今はちょっと虚脱?してます(笑) |
|||||
No.3 游月 昭 評価:50点 ■2014-07-08 15:48 ID:FMdKuJEC1b. | |||||
こんにちは。 凄っ、デカっ、 色が濃密っ、激っ! 上の方にちっちゃな詩を思いつきで載せた私をちょっと恥じています。 卵から虎が誕生したみたいです。 |
|||||
No.2 A 評価:--点 ■2014-07-04 11:16 ID:pA0QzJ9KbiA | |||||
お試しさん(さん) ご感想ありがとうございます。エール、励みになります。お褒めの言葉を頂き嬉しいです。トラ、フラミンゴ、象の生息域がかぶる場所は、かつて、あるいは今、あるいは将来、この地上に、もしくはどこか遠くの惑星に存在すると僕は信じてます(笑)最後は思い切って恰好つけてみました。恥ずかしいです。書きながら、僕もご指摘頂いたブレイクの詩を思い出して、お詳しい方のご叱責を頂く事になりはしないかとびくびくしていたのですが、「褒め言葉」という事ですので、叱責を免れて安心というだけでなく、光栄に思います。 |
|||||
No.1 お試しさん 評価:50点 ■2014-07-03 23:44 ID:9h6qp5PumAE | |||||
『風の卵』をよんで、気になる作り手さん登場だなと思いました。 今作をよんでエールを送りたくなりました。 本格派ですね。ひしひしと伝わってきます。 (本格派ってどこをみても絶滅しかけていますよね……) とりわけ二連目がいいですね。蛇のくだりは疑問符ですが素晴らしいです。「ままままま」も意外や意外、緊張感があって好い響きですね。 第三連もいいとおもいます。トラとフラミンゴと象って生息域かぶるんですね。はじめて識りました。 最後はちょっとかっこよすぎるかなとも思いますが、筋は通っていて、納得はできますね。 余談ですがブレイクの"The Tyger"を一瞬だけ想起しました。これは相当な褒め言葉になります(笑) |
|||||
総レス数 4 合計 100点 |
E-Mail(任意) | |
メッセージ | |
評価(必須) | 削除用パス Cookie |