終曲〜耳/series "body" |
頭蓋骨の真ん中でひとり 男は最後の演奏のため すべての扉を閉ざした 観客席に人影はなく 非常口の表示灯も消えて ただ一本のスポットだけが下りている 激しい雨が聞こえる 真後ろに伸びる影に ギターの影がクロスする 男の耳に降っていた雨は 深い記憶の椅子におさまった 鐘が遠く 秩序の地へ導いている 男の掌は過去をつつみ 忘れかけた記憶へとのばされる * −−懺悔 カタコンベに隠した筈の柔らかさが 鉄格子の中でまばたきもせず 閉ざされた出口のひかりを探す 壁に映る木立に白い蝶がふわり 赤い鳥は毛づくろいに夢中 葉に伏せる蛙は緑にまぎれている 雫が雨上がりの光をつつみ 鳥の鼻先に落ちる 目の前を蝶がひらり 蛙は一歩前へすすみ枝が揺れている 蝶は青にゆらり 鳥は白に魅せられて枝を蹴る 蛙は艶かしくまっすぐ蝶へ 赤と緑がすれ違う 鳥は白を奪い空を切る 蛙は蝶と水たまりへ墜ちる 再び黒くなっていく空が 鳥の目の前で白く霞んでいる 蝶の舞いは永遠に失われてしまった 雨が冷たく地を叩く 集まった水は濁流になって 全てを洗い流していく * 雨は降り尽くした 厚い雲のきれ間から 誰のものでもない光がもれる 鳥は囀ずりをはじめた 葉にしがみついていた空は 手を離して風に抱かれ 地に弾かれて土と交わる 光が空を満たすころ 赤い鳥は飛びたつ 木々は再び葉をのばし 深呼吸をしている * 黒い鳥が紅い空へもどる 月は冷ややかに微笑み 虫の音は小刻みに笑う 空の幕はさらに黒く被さり 壁の景色は見えなくなった 鉄格子に囲まれた死体にまぎれ 再び柔らかさを閉じ込めた * 辺りは静まりかえっている 男はギターを抱えたまま止まっている 耳には一滴の雨も降らない 影は後ろに長く 長く伸びて スポットは淡く そして 消える − |
游月 昭
2014年06月16日(月) 20時42分20秒 公開 ■この作品の著作権は游月 昭さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.6 游月 昭 評価:0点 ■2014-06-23 14:28 ID:HGGGNe196sc | |||||
青ガラスさん、ご感想ありがとうございます。 この詩のテーマは、私の最大の課題になっていて、半年に一度のベースで書いています。死ぬ直前に完成すればいいとは思っていますが、今回は、メインになった三びきの起用がイマイチかな。この部分のテーマ自体がハッキリしていないのかもしれません。今後も意識を集中させていきたいと思います。 |
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No.5 青ガラス 評価:40点 ■2014-06-23 08:33 ID:6Sbbo4.76/Y | |||||
遊月さん、お久しぶりです 改稿後の感想ではなかったのと、先に書いたコメントが迷走していたので 一度消して書き直します! 頭蓋骨の中に浮かぶ舞台の緊張感、記憶の椅子に吸い込まれた 雨の後の静寂、どこか神聖な雰囲気さえ醸し出していて 凛とした空気を感じます。 影がクロスする場面から懺悔へと移行する展開が素晴らしいと思いました。 カタコンベにカエルはそれらしくて分かるのですが それらの詳細な動きが懺悔へと結びつくのか、読み手のわたしには ピンときませんでした。鳥と蝶とカエルに感情移入するのが 難しく、複数の役割に混乱してしまうという感じでした。 その後の写実的な描写も 何かを伝えると言うより、作者の内面世界を描いた絵 なのかもしれないと感じたのは、わたしの中で場面ごとに絵になっていた それが読後感です。詩としては難解な作品なのかなって思いました。 |
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No.4 游月 昭 評価:0点 ■2014-06-19 04:53 ID:m.6gUmQkDJ2 | |||||
うちださん、告白ありがとうございます。 否、ご感想ありがとうございます。 語彙力とか、詩的表現力とか、まだまだなのですが、もっと上手くなるよう努めていますので今後もよろしくお願いいたします。 |
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No.3 うちだ 評価:50点 ■2014-06-19 02:07 ID:oE2tK3DWyuo | |||||
単純に、好きでした。 日常の散文的な生活から、やっぱり逸脱している言葉の、なんというか、集まりは、刺激的です。 ほんとに良いものを読ませていただきました。 |
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No.2 游月 昭 評価:0点 ■2014-06-18 17:32 ID:E/uClbJUq.g | |||||
shikiさん、ご感想ありがとうございます。 気づかせて頂きました。 まず、ギタリストが過去を演奏で振り返る、という設定ですが、演奏は三つの楽章で構成されていますが、各楽章の主人公を統一させた方が良かったかもしれません。おそらくそうするともっと良いものが書けたかもしれません。書いた後、ちくしょー!と思いました。再度推敲しようと思います。 冒頭の雰囲気は、SF小説のところに投稿した『貝殻の風景』という作品にも書いていますが、子供の頃に無口だった(ウッソー!?ホントデス)私独特の世界感かもしれません。小説は超初心者ですが、暇でしょうがないときにでもどうぞお読み下さい。 何故、ギターなのか。床に映る壊れた十字架(クロス)の影が欲しかったからです。それから、一応三色にも簡単な意味はあります。 体シリーズは34有ります。ここに出せるのは5〜6作くらいだと思いますが、繋がりは全くありません。これから続けて投稿していきますので、その際もよろしくお願いいたします。 −−−−−−− 蛙と鳥を入れ替え、 改稿しました。 |
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No.1 shiki 評価:50点 ■2014-06-18 08:46 ID:zQBvN0wJih2 | |||||
読ませていただきました。 >頭蓋骨の真ん中でひとり 男は最後の演奏のため すべての扉を閉ざした この最初の連で、何故か某バンドのある曲を思い出しました。頭の中の現象がとてもかっこよく表現されている曲なのですが、游月さんが詩として内的旅行(記憶への旅)の冒頭をこんな風に表現できるのは、すごいことだと思いました。 たったこれだけの文章で多くの想像がわきます。 が、そのあとは私自身の脆弱な鑑賞眼が邪魔をして上手く読み取ることができませんでした。 「白い蝶」「緑の蛙」「赤い鳥」から、三角関係を連想しました。 >蝶は蛙と水たまりへ 蛙の瞳は黒くなる雲に向いている このあたりのメタファーが良くわからなかったのですが、蝶は亡くなってしまったように感じました。 そして蝶を亡くした鳥は赤から黒へと変貌をとげたように思えたのですが…。 埋葬された記憶が再び光を浴び、さらに埋葬された風景。 男自身が死んでしまったようにも、「懺悔の魂」が浄化したようにも思えますし、違うのかもしれません。 色といい、雨といい、墓といい、タイトルの「耳〜終曲」といい、仕掛けが満載の作品のようで十分消化しきれませでした。 series "body"ということは、他の"body"もあるのでしょうか。 そちらと合わせるとさらに楽しめるようになっているのかもしれませんね。 感受性の高い作品でとても惹かれるのですが、色とキーワードの関係性やギター(音楽)の効果をはっきり読み取ることが出来ませんでした。 読み込んで新しい発見があるような、かみごたえのある作品だと思います。 |
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総レス数 6 合計 140点 |
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