そのとき
夜がね
夜が巨きな
きのこ雲みたいに
見えたの

すぐそこにまで
きのこのような
その暈を
垂れさせていたのよ

フェルトみたいな
その端っこからは
夜が少しだけ
こぼれだしていたわ

前の晩に
月の暈を見たの
月の暈
わかるかしら?

わるいことが起こる
前兆だといわれている
自然現象

はじめは
気づかなかったけれど
なにかおかしいと思って..

空を見上げたら
雲ひとつない夜空の中天に
それは確かにあった

それはほんとうに
明晰なイメージで
これ以上ないほどの
クリアさで
わたしに迫ってきた

見つめていると
まるで
吸い込まれてしまいそうな
凄まじい存在感だった

生まれて初めてみた
月の暈は満月の周りに
大きな暈を広げていたわ

ちょうどそれは
同心円をもうひとつ
ぐるりと月の周囲に
描いた感じだった

めずらしい光景
たんなるそんなものではなく
まず恐怖を感じたの

見ていることすら怖いの
なんと表現すればいいのか

もの凄く透明感のある
おそらく美しい光景
にはちがいないのだけれど
見てはいけないもの

そんな風に思えて
仕方なかった

できれば
見てしまったことを
取り消したいとさえ思った

ふつうならば
月に薄い雲が
かかった際に
その周囲に光の輪が現れる
大気光学現象なのに

わたしの見た月暈は
一点の雲もない
空でのことだった

それは月暈が
悪いことが起こる
前兆であると
なにかで読んだことがあった
からかもしれないけれど

月の周りに
薄い雲のベールがかかって
暈が見えていたならば
おぼろ月夜のような
幻想的な眺めだった
かもしれない

しかし
滲んで
ぼかされることなど
一切ない
剥き出しの
巨大なレンズのような暈は
わたしを恐怖させる
何かを有していた

長く見続けることさえ
憚られるような
底しれぬ恐怖は

そのあっけらかんとした
剥き出しの
狂気だったのではないか

やっぱり
こういったものは
遮蔽したり隠したり
ぼやかしたり
モザイク処理する
べきなのだ

ここまでもろに
露出していると
こちらの気が
触れそうな気がして
きっと怖いのだ

そう思った

そしてその翌晩に
わたしは
巨きなキノコのような
夜に出逢ったの

だからもうこの時点で
気が触れてしまって
いたのかもしれない

わたしは
フェルトのような
ちょっぴりマットで
厚ぼったい
キノコの暈の先っぽから
臨界点に達して
こぼれだしている
夜に向かっていったの

メルトダウンして
とろとろに蕩けた
夜みたいに
わたしも蕩けたかった

そうしないと
夜のなかへとは
入っていけないかもしれない
と思ったし

それに…

でもそれは
杞憂にすぎなかった

わたしの身体は
蕩け落ちた
水銀のような嚢胞に
つぷりと突き入れた
指の先から

滲むようにして
夜のなかへと
溶け込んでいったの

そしてはじめて知ったわ
夜のなかは不思議と
明るいんだって

自分が夜行性の
メガネザルにでも
なったような気がして
瞳をらんらんと
輝かせながら
夜の裡へ裡へと
さ迷い込んでいった

でもまだそこは
細胞膜のような
ぶ厚い皮膜に
覆われていたの

でもところどころ
ジャバラのように
開閉するところが
あったり

千尋の乳色した
薄膜が数百枚も
重なりあって
グラデーションをなし

最後にはほんのりと
桜色に染まるまでを
わたしは膜のなかを
浸透圧のようにゆるやかに
浸潤しながら眺めた














わたしが
あなたのことを
好きなこと

誰にも
知られたくない
あなたにさえも







中村さとみ
2014年02月11日(火) 03時35分05秒 公開
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No.3  謝染はかなし  評価:10点  ■2014-02-11 13:51  ID:Jrs3xCdF2Fg
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言葉の雰囲気に頼りすぎている詩ですね。

言葉は、手触りだけではなかなか伝わらないこともあります。

中村さんにとって、この詩のなかで何が一番大事なのか。

もう一度、見つめ直してみることも必要かもしれません。
No.2  游月 昭  評価:50点  ■2014-02-11 13:27  ID:.AOwAV2zTBA
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こんにちは。

幻が暗喩になっているのですが、裏に一本「訳」が通っていて、夜の、現実の際、あるいは、バーチャルな際に、「それ」に取り込まれてしまう恐れと、望み、喜びを、大きな円を描いて流転するように感じていく心の流れが上手く描かれていて興味深いですね。

同じことが何度も出るようなくどさが感じられたので、少し磨いても良いのでは?と思いました。

ラストのネタばらしは、こじんまりまとめた感にも思えて、良いのか悪いのかは、私にはレベル的に追い付かないので分かりませんが、このまま暗喩で突っ切った場合どうなるのかも読んでみたい気がしています。
No.1  石井大心  評価:10点  ■2014-02-11 07:33  ID:Lf8Xjdi/zBs
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少し直喩が多いかもです。難解な詩ですね。簡潔に書けると凄くいい詩になります。
総レス数 3  合計 70

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