或る朝、氷雨に黒猫と
今日

雨が降って 朝
靄は街を  否

昼を忘れた空
暖を捨てた床

街頭 街灯
灰色 車道

午前六時

アスファルト色した風景は
濡れに濡れて
どこか近く どこか遠く

ベランダに ぽつり
放り出された 鉢
咲くには
まだ
早い

黒猫が鳴く
アザレアの鉢

散らばる錠剤を
指先で集めて
また
散らしては
集め

何の薬か
訊いても君は
答えない

診断書は 昨夜
破り捨ててしまいました

点滴の跡だらけの
痩せ細った腕に
指を這わせて

現実逃避
わかってる

君に怒られてしまう
何度目か
忘れてしまった

アザレアの鉢も
世話できなくて

硝子

窓の隙間から
黒猫が
足音ひとつ無く
濡れるのは
嫌いだって

氷雨

きっと君に
怒られてしまう
駄目だって
猫も
雨も

ありふれたこの部屋も

全部

どうせ同じ
なのに
君は

何度も 何度も

無駄なのに

黒猫は鳴く


雨音に紛れる
クラクション
人の声

車の往来
自転車
足並み

水面に
白い空を映して
水溜まりは
雫を受け止める

僕と違って

また今日も 君は
ステンレスのドアを開けて
挨拶とともに
猫を追い出して
薬を集め
部屋を片付け
僕を
病院へ連れ出すんだろう

それとも
君だけしか知らない
診断書が破られてて
びっくりするのかな

朝靄 小鳥

アザレアの鉢



粉末のあれは
ごみの中
錠剤のこれは
床の上

ずいぶん長いこと
世話になりました

深呼吸

降る 雨
街は灰に
空は白に
色を喪っていく
君はきっと



氷雨 街灯
硝子の雫

黒猫が鳴く

アザレアのベランダ
時雨ノ宮 蜉蝣丸
2013年11月04日(月) 20時38分11秒 公開
■この作品の著作権は時雨ノ宮 蜉蝣丸さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 アザレアの花言葉は、
『貴方に愛される喜び』
『愛されることを知った喜び』 だそうです。

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No.2  時雨ノ宮 蜉蝣丸  評価:0点  ■2013-11-08 18:44  ID:LMVBYAvlibE
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コメント感謝いたします。初めまして。

そうですね、病気なのが彼なのは、最初から決まっていたことなのですが、あとで読み返してみたら「あぁこれ途中から気付くやつだ……」ってなりました。
外で雨が降ってる時にふと思い付いて書いたものなので、コメントにあるような『いい効果』云々とかは考えていませんでした。嬉しい反面、何か申し訳ないです……。

読んでくださり、ありがとうございました。
No.1  陽炎  評価:30点  ■2013-11-07 21:34  ID:g3emUcYnoi6
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序盤まで読んだ限りでは、彼女のほうが病気なのかと思っていたのですが
実際、病気なのは彼のほうだったんですね

氷雨の降りしきる窓辺
床に散乱した何のクスリだかわからない錠剤
破られた診断書
ベランダの鉢植え
黒猫

文章自体はすごくそっけないようにも感じるのですが
この詩のどこをつっついても
なんとも後味の悪い痛みや狂気が滲みでてきそうで

詩中にずっと降り続ているであろう雨が
その痛みや狂気が噴出すのを
寸でのところで抑えているかのようで
いい効果を生み出している
そんなふうに感じました
総レス数 2  合計 30

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