ヤキソバ |
僕は一人、喧騒から逃れて緑の土手に腰を下ろし、屋台の群れを眺めながら、こう思う。 音っていうのには、味があるんだ。 じゃないと何故あんなにも貧相な肉なしヤキソバが「ドーン、ドーン」という響きの中で、 500円玉一枚の重さを持つかなんて説明はつかない。 「ドーン」 ほら、またやって来た。 そいつは鼓膜をくすぐり下っていき、腹の中を一周する。 そこから空へ帰ろうとするかのように喉を駆け上がり、その切れ端が舌の先の粘膜へと絡みつく。 こうして単なるこげ茶のブルドックソースと紅ショウガの固まりに何らかの作用を引き起こす。 「ドーン」 その証拠に、眼下の奴らだって、もののみごとに見慣れてしまった空をしりめに、 ごてっとしたワタアメやらチョコバナナやらジャガバターへと首を傾け、ワイワイやっているじゃないか。 どれも大味な自己主張を延々と繰り返すこいつらには、平時だったらとても満足できるもんじゃないのに。 「ドーン」 顎を上げれば花、見下ろせば密集した屋台の灯、たぶん子供が光る棒を握りしめている。 カピカピのキャベツと千切れたメンの残がいを箸でかき集め、一気に流し込んだ。 今年は幸い、「またぁ、いけないことするんだから」なんてツレの間延びした声に、遠慮することはない。 中身無くして存在意義も無くしたプラスチック容器と割り箸は、この際ほっぽってしまおう。 僕はまた夜空なんかに目もくれず、群衆の渦巻きへと、蛾のようにふらふらと飛び出す。 「ドーン」 この音をトッピングに、次は何を征してやろう。 いつものタコヤキにしようか、カキゴオリにしようか。 思いきって、タイラーメンやチキンステーキとかいった、新参に挑戦してみるのもいいな。 「おいしいね、これ」 なんて澄んだ声でくすくす笑う浴衣美人なぞ無くとも、僕はこうして今年も祭りを味わうんだ。 |
えんがわ
2013年06月29日(土) 19時55分59秒 公開 ■この作品の著作権はえんがわさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.6 えんがわ 評価:--点 ■2013-07-01 23:07 ID:1rXVLSXzIUI | |||||
ありがとうございます。 想像以上に多くの方にヤキソバを味わっていただいて、嬉しい言葉を残してくださって、こそばゆいです。 萌え死ぬってこんなことを言うのかな。と思いました。うん、マグレマグレ。 >SHIRIAIさん 湿った感じっすか。 ドライになりきれなかったのが、そこまで消化できなかったのが、却ってよかったのかも。 「〜のだ」は強がりっていうか何と言うか、若くて、威張りたい病的な語尾っすね。 もうちっと自然体で書けるように。 テクニックと言うより、心構えみたいなものに甘さがあったように思います。 いい感じですか。嬉しいです。 >飛行楽 さん ヤキソバの美味しさ。こういうのが伝わると、あー、幸せです。 情景が透けたようで、一安心です。ありがちかもしれないけど、推敲してみた部分でした。 今年は、祭りで一つ書いてみたいなー。多分、今回みたいにはいかないと思うのだけど、挑戦したいです。 >楠山歳幸さん ほんと食べ物ばかりで、あー。自分は向上心より、食欲の方が大きいみたいです。 ドーンにリズムを感じていただき、嬉しい。 何とかストライクに投げれたみたいだけど、ストレートばっかりじゃ、そのうち打たれまくる気がします。 変化球も投げれるようになるのが先か、ノックアウトが先か。その前に肩を壊しそうです。 楠山歳幸さんには色んな文を見ていただき、感想までいただき、お世話になりっぱなしで。 感想返ししか出来ないですいません。(街路樹を楽しく読ませていただき、思ったことを書いてみました) 飽きるまで負担にならない程度に、お付き合いして頂ければ。 ありがたいことです。 >卯月 燐太郎さん ああ、何か原風景というか、普遍的なものを描いてみたいというのがあって、そんなのがあったなら、報われます。 そこに花火を書けなくてごめんなさい。 この中では、余り空には視覚が映ってなくて、聴覚と味覚が中心にあって、そうした主人公の心の動きに囚われすぎてしまい、 すっぽり花火情報が抜け落ちてしまったようです。 きっと花火が余り視点に入らない感じを表現する、もっとスマートな描写方法もあるんだろうけど、ナカナカ己の言葉になってくれません。 自分の自分へのハードルはとても低くて、ドーンが花火の音って伝わって下さり、それだけで満足してしまいます。 何とか以前指摘していただいたわかりやすさと、過不足ない文章のバランス感覚を自分のものに出来れば。と思います。 >ふぬーんさん きっとふぬーんさんは、自分の筆力では、到達できない花火を描いてくれたのかな。 意図したのかどうか。結果オーライって感じで。そんな惰性な読み手頼りの自分が、ここにいます。 一人ぼっちのお祭りはしみじみと高揚感が交わって、不思議な感じ? 共感していただくのが一つの理想なので、嬉しいっす |
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No.5 ふぬーん 評価:50点 ■2013-07-01 21:32 ID:p72w4NYLy3k | |||||
僕は、逆に花火の描写を入れないことに意味があるのかなあと思いました。 全体を書いちゃうと、題が「ヤキソバ」ではなくなっちゃう。 僕も一人でお祭りは行った事があります。 不思議なもので賑わっていると、こっちまでしんみりそんな気分になっちゃうんですよね。 めちゃくちゃ解ります。 でわ。 |
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No.4 卯月 燐太郎 評価:40点 ■2013-07-01 00:40 ID:dEezOAm9gyQ | |||||
日本の原風景が主人公の心に描かれた作品ですね。 縁日の屋台のヤキソバ、本来なら原価は五十円にも満たないでしょう。 それが、五百円とかになります。 ほんとうぼったくり。 しかし「花火」の音がそこに入ると、原価五十円のヤキソバが五百円に上がる。 付加価値が付くのですね。 ちなみにこの作品では「ドーン」という音で重要な役目をしていますが、これって花火でしょう。 だったら、どうして夜空を焦がす花火の描写をしなかったのですかね。 それの方が作品としてはきれいに治まると思いますけれど。 「ファンタジー板」で「猫男がいる不思議な夏祭り」という私の作品があります。 この作品は異世界の縁日を描いた作品です。 良かったら、読んでください、短い作品です。 |
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No.3 楠山歳幸 評価:50点 ■2013-07-01 00:40 ID:3.rK8dssdKA | |||||
読ませていただきました。 良かったです。 恋人?のいない賑やかな夏まつりがうまく伝わって来ました。 えんがわさんは食事に愛着のある方だなあ、と思っていたのですが(失礼)今作はそれがとても良いアイテムになっていました。しょぼいヤキソバに命を吹き込んだというか。 >音っていうのには、味があるのだ。 この文章が特に好きでした。 繰り返される「ドーン」もリズム感や流れに間があって良かったです。そういえばジャンクフードって、味付けが濃くてドーンって感じですね。 意図を読み取っていなかったら申し訳ありません。 失礼しました。 |
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No.2 飛行楽 評価:50点 ■2013-06-29 23:59 ID:O45hXEyvClA | |||||
こんばんわ、お祭りだね。いい感じです、いかにもヤキソバだ。美味しそう〜 表現出来そうで、なかなか出来ない。それが見事に情景が見えてきそう。 あと少しで、お祭りの季節だね。今度は今年のお祭りをイメージして書いてみたらどうかな? |
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No.1 SHIRIAI 評価:40点 ■2013-06-29 21:06 ID:2un0QyHxhs2 | |||||
こんばんは 正に現代の言葉が生きて、小気味良く湿った風に吹かれている。 祭りの花火のように過ぎ去っていくなんでもない、なんか感じる詩だと思う。 しかし、 >味があるのだ。 などの、「〜のだ」は、この詩には似合わない。 >>味があるんだ >>味がある (分かるか?お前、)みたいな そんなのでいいと思う。 いい感じ。 |
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総レス数 6 合計 230点 |
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