津軽じょんがら



左の手をさしのべる
にわかに消えて、はいつくばる

うす明かりの空から
なにも言わずに身をなげる

降りる先はしらない
気まぐれな風に流されて

山をおおった仲間たちは
いつかひとつになって里にとどく



野を駆けるイヌが小屋にかえるところ
風は白さを増して小路に降りかかり
家の扉は頑なに閉ざされる
音を立てながら降りしきる雪を掻き分け
辿り着いたイヌは小屋の前で身震いをする

三味線弾きは肩をすぼめ
積もりゆく地を踏みしめ
戸口で棹の雪をはらう

撥をとる右手の皺が深い
おもむろに振り上げたとき
辺りの風が止まり
降り下ろす緊張に風が堰をきる

両の手は三味線を包むようにはう
押し寄せる強風は体をよけ
確固とした後姿を横目に見ながら
白い山野を荒れ狂い
白い太陽を隠し
白い息を吐く



しばらくののち、
引戸がガタガタと開く
「ままろ、まま持ってがなが」
三味線弾きは見えない目をひらき
ボロから手を伸ばして包をさぐる
深々と頭を下げたあと
湯気にけむる戸口をあとにする

風雪が辺りを押し流し
霞んでなにも見えなくなった


SHIRIAI
2013年06月21日(金) 16時52分47秒 公開
■この作品の著作権はSHIRIAIさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
註釈)
ままろ、まま持ってがなが(津軽弁)
=ご飯をほら、持って行きなさい

*初代・高橋竹山をイメージしています。

この作品の感想をお寄せください。
No.7  SHIRIAI  評価:0点  ■2013-07-02 03:16  ID:My7Ye.F7xJg
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えんがわさん、こんばんは。

おいどんは、九州人ですたい。
津軽の寒さはよくわかりません。
が、つるつると頭から出てきた詩には、
ときどき、なにかが降りてくるようで、
あとから驚かされます。
今から書けと言われても無理でしょう。
また詩の雪や雨が降ってきてくれることを
待つばかりです。
私の詩は、比較的読み解きやすいはずなので、振りきられないようにどうぞ。
ありがとうございました。
No.6  えんがわ  評価:30点  ■2013-07-01 20:09  ID:1rXVLSXzIUI
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うだるような夏とは打って変わって、白くて冷たい空気。
白っていうのは作中でも強調されているのですが、同時に冷たさや静けさや自然の厳しさをくっきりと感じました。
作者さんは雪国育ちなのかな。関東の自分にはかなり新鮮な体験で、同時に把握しきれないものも感じました。
そこら辺は自分の読解力や詩の教養の無さも手伝っていそうで、ごめんなさい。

犬と雪といえば、喜び庭駆け回るような先入観があったので、寒そうにしてるのが、かなり驚きのアクセントでした。
(いや、気ままに一日を過ごしたということは、たくましいのかな。そんなこともわからない自分はほんとダメだ)

後半の三味線の部分は振り切られてしまったというか、何回か読んで卯月 燐太郎さんの解釈を知って、ようやくわかったような。
うーん、まだ肌に馴染みきれてません。
テクニックや密度が濃いなー、シャープだなー、と思ったんだけど、単体だけで解説がなかったら恐らくもっと的外れな想像をしてました。

納得するまでの推敲、楽しみに待ってます。
多分、今の距離感よりも近くでも遠くでも、自由に歩いて書き足してくれたら。もっと印象深くなりそうで。
最後まで直感的に入っていきたい反面、途方もないところまで突き放したとしても、味が出る気がします。
うー。詩心がなくてごめんなさい。
No.5  SHIRIAI  評価:0点  ■2013-06-23 12:28  ID:C0zE4MTHbTo
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逃げ腰さん、こんにちは。

音が聞こえてきたと言われて、結構嬉しいです。詩作者としての本願成就といったかんじです。
緻密なのは、ある人にそうするように教わったからです。例えば、「左利き」をあらわすと、

「ロングコートの」男は、「右手で」小男の胸ぐらを掴み、「ゆっくりと」額に拳銃を突きつけた。

って感じです。「」内は無くても通じますが、細かく描写することで、その裏にある人物像、心情などが浮かび上がってくるということなのだと思います。
この詩が緻密(?)なのは、書く前に、頭の中に高橋竹山の雪降る中でのじょんがら姿がしっかりあったからだと思います。かなりスラスラ書けました。
ただ、犬は付けたしです。ある人によると、犬は、作者自身の私だそうです。ヒッチコックが自作映画に通行人として出てたみたいなものでしょうか。
詳しい内容、手法については、卯月さんの解説をお読み下さい。

続けて音楽の詩を投稿しましたが、他の作品は大半はそうではありません。音楽をやっていたぶん、ひとより多いかもしれませんが。
次は音楽ではないものを出します。
ありがとうございました。

−−−−−
それから、私は極めて冷静なので、実は、不快感というのは、ほとんどありません。ちょっと強い文面でしたが、
「逃げ腰ちゃん、ズルくな〜い?」って感じだけでしたから、気になさらずにどうぞ。
No.4  逃げ腰  評価:40点  ■2013-06-23 07:24  ID:zQ6QIuhNZE2
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SHiRIAIさんへ

音の旋律が聞こえてくるようでした。ただ、音楽を下地に書く作業が凄い緻密であるのと同時にこのスタイルに最終的に落ち着いた理由が聞きたいです。そと自由詩を書くとどうなのか見てみたい。

「あと、
あら、ここ、制限かからないの?
規約の1番上に書いてある、
一週間一作品ルール。
たぶん、みんなガマンしてるのに、
法を破って投稿は酷いと思う。

個人的には、詩は毎日書くべきとはおもうが、ルールは守らないといけないと思う。だから、小説書きの卯月さんは詩を投稿しないんだと思う。わたしも毎日投稿出来ますが、みんなでそうしますか???

赤信号、みんなで渡ればこわくない、
って。

わたしもほんとはたくさん出したい。
みんなそうです。たぶん。 」

というのはもっともな意見ですいません…規約破ってます…というか以前から気づいていたかと思いますが、規約読んでません。出直します。

あと不快に思ったのはあなただけではないはずで、あわてて連投した作品を消してしまったので次の作品で謝罪入れておくことにします。
No.3  SHIRIAI  評価:0点  ■2013-06-22 19:12  ID:kalQTutstns
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みなさん、すみません。また、50点を0点に変えずにレスしてしまいました。別のサイトでは、ボタンを押したあとに確認の画面が出るので、そのつもりでつい。点数も編集で変えられるといいのですが。
失礼しました。
No.2  SHIRIAI  評価:50点  ■2013-06-22 19:05  ID:RoO1o3qLvJc
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おおぉ、
卯月 燐太郎さん、深く読んで頂きましてありがとうございます。ほとんど、公認の解説書というくらいに優れた解説をありがとうございます。

>「三味線弾き」の「不安な精神状態を雪と風の気象条件で描写」してみてはいかがでしょうか?

といわれて、気になっていた、
●三味線弾きは肩をすぼめ
という、「弱さ」を描写しているところが失敗であろうと、なおのこと感じました。おそらく、「慣れ」ていながら、「耐える」姿を表さなければならないのだと思いました。と、なると、

「肩をすぼめ」は、
「拳を固め」などの表現にするべきですね。

あとは、戸口を回るシーン、演奏シーンが
序章に比べて確かに短いと思います。
書いた当時はここまででいっぱいいっぱいだったろうと思います。それから二ヶ月経ちましたが、私の一番大切な作品なので、もう少し、せめて、詩作二年生になるまで寝かせてから書き直したいと思います。

大変参考になりました。いずれ必ず、この詩をもっといいものに完成させます。
ありがとうございました。

No.1  卯月 燐太郎  評価:40点  ■2013-06-22 17:42  ID:dEezOAm9gyQ
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「雪 」読みました。

●作品全体では雪と三味線弾きの物語が見えました。
御作の良いところは、雪の気象という客観的な存在が見えるところです。
見えるというのは、単純に冷たく白い物が空から降ってくるというものではなくて、「命ある者」のように感じるということです。


A>>左の手をさしのべる
にわかに消えて、はいつくばる <<
●まず、導入部Aですが、雪のはかなさを描いています。
空から降りてきても掌の温かさですぐに消える、と言うことです。
この「消える」を「はいつくばる」と表現しているのは、一片(単体)の雪のひ弱さを表現していて、なかなかよい物だと思いました。


B>>うす明かりの空から
なにも言わずに身をなげる <<
●導入部Aに続いて、雪のはかなさを描いていると思います。
まるで天上から自分と言う存在感を失くすようにして身投げしているような感じです。
雪の憐れを感じます。


C>>降りる先はしらない
気まぐれな風に流されて <<
●A,Bに引き続いて自分ではどうすることもできない雪の立場が描かれていると思います。
何しろ、風まかせなのですから。


D>>山をおおった仲間たちは
いつかひとつになって里にとどく <<
●この辺りから状況が変化してきます。
一片の雪だとか弱いのですが、それが集団になると「山をおおい」ます。
そしてそれが里に下りてくる。
「仲間」と書いてあるので、団結心が描かれています。


E>>野を駆けるイヌが小屋にかえるところ
風は白さを増して小路に降りかかり
家の扉は頑なに閉ざされる
音を立てながら降りしきる雪を掻き分け
辿り着いたイヌは小屋の前で身震いをする <<

●団結して里に下りてきた雪が風を伴って音を立てて降り積もります。
こうなってくると雪はすでにか弱い物ではなくて力を増しています、団結しているのだから。イヌは迷惑を通り越しています。
「辿り着いたイヌは小屋の前で身震いをする」ここは、イヌが身体に付いた雪を振り払うところだと思いますので、そういった表現が必要かなと思いました。
ただ、「音を立てながら降りしきる雪」はかなりの物なので、振り払っても、イヌにへばりついていると思いますが。髭などは冷たさに雪が凍り付いているのではないでしょうか。


F>>三味線弾きは肩をすぼめ
積もりゆく地を踏みしめ
戸口で棹の雪をはらう <<
●「三味線弾き」は目が見えないのですよね。
そして風にあおられて雪が吹きすさんでいる様子です。
このあたりの「三味線弾き」の「不安な精神状態を雪と風の気象条件で描写」してみてはいかがでしょうか?
嵐の前の静けさという感じですが、雪雲が集まりだして、太陽が隠れてしまった。
ということは、太陽が隠れたのだから周囲の気温は冷えます。
「三味線弾き」は目が見えないから、四感(目以外)が研ぎ澄まされています。
当然、太陽が雪雲に隠れたということを察します。


G>>撥をとる右手の皺が深い
おもむろに振り上げたとき
辺りの風が止まり
降り下ろす緊張に風が堰をきる<<

●Fにも書きましたが「不安な精神状態を雪と風の気象条件で描写」に近い物が、ここで描写されています。
要するに「三味線弾き」と「雪と風の気象」との戦いが描かれていると思いました。
「撥をとる右手の皺が深い」これは「三味線弾き」の年期が描かれています。苦労が描かれています。そう簡単には、「雪と風の気象」には、負けないでしょう。
>おもむろに振り上げたとき
辺りの風が止まり<
ここに緊張感が現れています。
「風、雪」と「三味線弾き」の対立です。「風、雪」が構えたというところでしょう。
「降り下ろす緊張に風が堰をきる」ここで、侍同士なら、斬り合いが始まったというところです。


>>両の手は三味線を包むようにはう <<

●ここがいいですね。
別に「雪と風の気象」は自然現象で、斬り合いではないのですが、「三味線弾き」の気合いでしょう。


>>押し寄せる強風は体をよけ
確固とした後姿を横目に見ながら
白い山野を荒れ狂い
白い太陽を隠し
白い息を吐く<<

●「雪と風の気象」が「三味線弾き」の気合いに様子を見ながら、荒れ狂っている様は、まるで白い竜神が、隙があろうものなら飛びかかろうとしているような感じです。


>>しばらくののち、
引戸がガタガタと開く
「ままろ、まま持ってがなが」
三味線弾きは見えない目をひらき
ボロから手を伸ばして包をさぐる
深々と頭を下げたあと
湯気にけむる戸口をあとにする <<

●なるほど「両の手は三味線を包むようにはう 」ここは、ままろ(ご飯)をもらうために三味線の撥を叩いたということですね。
「湯気にけむる戸口をあとにする」暖かそうな一軒家を後にするといったところでしょうか。


>>風雪が辺りを押し流し
霞んでなにも見えなくなった <<

●「雪と風の気象」と言うか白龍は遠慮しませんね。
まあ、「三味線弾き」は目が見えないので、「霞んでなにも見えなくなった」といっても関係ありませんが、風の音で耳からの情報が入りにくいですね。


最後まで読んでみての感想ですが、AからDまでが、雪の憐れが描かれていて、「E」のイヌのところで話が転換して、「F」で本題の「三味線弾き」が出てきました。
この辺りの構成が悪いのではないかと思います。
AからEまではよいのですが、「F」で本題の「三味線弾き」が出てきてからの物語が短すぎます。
たとえばこうすればいかがでしょうか。
「三味線弾き」が一軒家の戸の前で三味線を構え撥を叩いても、戸は開かない。そういった家が何軒かあった末にままろ(ご飯)をもらう。
それも中に入れてもらって囲炉裏でぐつぐつ煮えた汁ものを頂きながらままろを食べる。
身体も暖まり、お礼に三味線を弾く。
その撥さばきが「雪と風の気象」に負けないほどのすごさ。
一軒家の老婆は「ありがたい、ありがたい」と合掌する。


よい作品を読ませていただきました。
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