使用上の注意

          言葉は骨折しない
          言葉は咳をしない


          言葉は恋をしない 
          言葉は愛ではない


          言葉は嘘をつかない      
          言葉は裏切らない


          言葉は病気をしない
          言葉に効く薬なんてない


          言葉は絶望しない
          言葉は自殺しない
          そもそも言葉に命なんてない
     

          言葉に罪はない
          言葉が悪いわけじゃない



だけどでも


言葉の正しい用法・用量なんて
一体誰が知るというのだろう


わたしたちはいつだって用法を間違っては傷つけ合って
用量を間違えてはこじらせてばかりいる


わたしたち 心で生きる生き物でしょ
寝ても覚めても 心で生きるしがない生き物でしょ


なのに 心の正体は誰にも見えない
鏡にも映らないし 本当のところは自分にだってわからない


この思いを伝えるにはどうすれば
この気持ちを伝えるにはどうすれば



心に翻訳機でもついていたらよかったのに
心辞典でも売っていたらよかったのに


そしたらもっとちゃんと思いを伝えられたのに
云いたいことだけをちゃんと伝えられたはずなのに


傷つけたいわけじゃない 嫌われたいわけでもない


ずっとだなんてあるわけないのはわかってる
どんなことだって いつかは終わりがくることは
わかりすぎるほどよくわかってるはずなのに


見えない心が不安を煽るから
ささくれだった心がチクチク痛くてしょうがないから


苛立ちまぎれに投げつけては なにもかも壊してしまうんだ
操作不能になった心の前でわたしたちは いつだって無力で
粉々になった破片の前で泣き崩れたって もう取り返しがつかないんだ


いっぱいいっぱい傷ついて
いっぱいいっぱい泣いたのに
こんな思いするのはもうこりごろだから
2度と同じことは繰り返さないと
誓ったことさえいつの間に


いつまでたっても学習できない
出来損ないのわたしたち
いつまでたっても粉々になった破片ばかり 拾い集めてしまう




          言葉は傷つかない
          言葉は涙を流さない
          言葉は血を流すこともない



涙を流すのはわたしたち
血を流し痛い痛いと泣くのもわたしたち



ただひとつ 言葉が足りなかったばっかりに
ただひとつ 言葉が余計すぎたばっかりに


わたしたちは永遠に軌道から外れてしまう





それでも それでもさわたしたち 
心で生きる生き物だから
寝ても覚めても 心で生きる生き物だから


ひとりっきりではとてもとても淋しすぎて
誰かを求めずにはいられない
暗がりの中で叫び続けずにはいられない
声にならないその声で



他の誰でもない
あなたにめぐり会えるそのときを
あなたが返事をしてくれるそのときを


いつだって
わたしたちは
         
陽炎
2012年10月24日(水) 19時02分49秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりです

ふぅ、詩作するもなかなか骨が折れますね(汗)

この作品の感想をお寄せください。
No.6  陽炎  評価:--点  ■2012-11-07 15:48  ID:/dxzQ0Wmf36
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☆ん〜さんへ☆

お読みいただき、ありがとうございます

びっくりしちゃった
感想、英語で書いてるよぅ、と思って
よぉ〜く見たらローマ字でした
(でも、ちょいと読みづらかったです (^^ゞ)

「わたしたち」に感情移入できなかったとのこと
ご指摘、ありがとうございます

ただ、「わたしは〜」とするのも
なんだかしっくりこないし

言葉をテーマにしていますが
それを受け取って噛み砕いて意味付けるところって
心じゃないか、と

わたしにもあるし
当然、相手にだってあるわけで

説明するまでもないんですけど
まあ、そんなこんなで「わたしたち」としたわけなんです

体も大事です
そうでした
そうでしたね

忘れるところでした

ありがとうございました
No.5  ん〜  評価:40点  ■2012-11-07 14:59  ID:ycUJN/7upDY
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hitori ni narekitte hisasii node
shi no‘watashitachi’ni hairemasen deshita
buddha no yu- jito-myo- wo shinrai shimasu
karada mo daiji to omoimasu
No.4  陽炎  評価:--点  ■2012-11-01 04:29  ID:/dxzQ0Wmf36
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☆RAWさんへ☆

初めまして
読んでくださいまして、ありがとうございます

人を切り刻む言葉は
自分自身をも切り刻んでしまうんですよね

本当に、生かすも殺すも自分次第なんだと
痛感します

素晴らしいと云っていただけて
とても嬉しかったです

全然、変な感想なんかじゃないですよ

ありがとうございました
No.3  RAW  評価:50点  ■2012-10-29 22:35  ID:3.rK8dssdKA
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 初めまして。読ませていただきました。
 以前(題名は忘れてしまいました。すみません)の作品も読ませていただいたのですが厭世的な内容がちょっと、と思ってしまいました。すみません。しかしこの作品は素晴らしいです。
 言葉に命はない。でも、こういう作品に出会うと言葉にも命があると感じます。生かすも殺すもわたしたち自身ですね。使用上の注意、題名も素晴らしいです。何かの本で嘘をつき続けると中心軸がぶれるみたいなことを読んだことがあります。意味がわからなかったのですが、この作品で何かが氷解したみたいです。
 >返事をしてくれるそのときを
 この言葉に世界の広がりのようなものを感じました。

 変な感想、失礼しました。
No.2  陽炎  評価:--点  ■2012-10-28 08:50  ID:/dxzQ0Wmf36
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☆ゆうすけさんへ☆

お久しぶりです、ゆうすけさん
いつもありがとうございます

言葉なんかじゃとても気持ちを伝えきれるものではないけど
でも、言葉にしなければわからないこと
たくさんたくさんありますよね

私も心で生きている
相手も心で生きている

心で生きていることには違いないのだけど
同じようにはできていないから

意図したこととはまったく別の意味あいに受け取られてしまったり

本当はそんなことが云いたいわけじゃないのに
感情が先走って、とんでもない言葉を吐き出してしまって
気づいたときには何もかもすべてが取り返しがつかなくなってしまったり

相手の気持ちを推し量りすぎたり
逆にけんかを吹っかけるようなことをわざと云ってみたり

そういう経験をするたび
もう2度と同じ失敗は繰り返さないと誓ったことさえ
すぐに忘れてしまう出来損ないのわたしたち

たかが言葉
だけども
されど言葉

思ってることが何も伝わらないからとて
それに絶望して、伝える努力を放棄してはいられないんだと

そういうふうに思います

いつも本当にありがとうございます


追伸
 めっきり秋も深まってきましたね
 ご飯は一応ちゃんと自炊して食べるようにしてます

 腰痛のほうは大丈夫ですか
No.1  ゆうすけ  評価:50点  ■2012-10-26 10:04  ID:1SHiiT1PETY
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お久しぶりです。お待ちしておりましたよ。陽炎さんの言葉の羽で、ひとときの魂の浮遊と共鳴を楽しみました。

我社の職人さんを叱咤激励したつもりが、急かされたと恨まれてしまい、私としては軽い気持ちで応援したはずなのに余計な事を言ってしまったような感じになっておりまして、今まさに、この詩がぐさりと突き刺さっております。つい売り言葉に買い言葉になったり、丸い卵も切りようで四角、モノも言い様で角がたつになったり。
些細な言いたいことすら簡単には伝わらない、ましてや複雑な感情の機微を相手に伝えるなんて無理なんじゃ……否、心で生きる私たちなんだから諦めちゃだめだ。
薬にもなり、毒にもなる
力にもなり、足かせにもなる、
矛にもなり、盾にもなる、
正しい処方箋が欲しいですね。

陽炎さんの詩を読むと、傷つけてしまったあいつの事とか、色々思い出したり語りたくなったりと、変なおじさんだな〜。
語りかけてくるようなライブ感ですね。

今まで不用意に人を傷つけて来たんではないか? 相手の気持ちを察することを怠ってきたのではないか? 「誰もわかっちゃくれない」わかってもらう努力はあったのか? いろいろ考えさせてくれますね。

創作はやっぱり骨が折れますよね。脳内のもやもやした作品イメージを読者に伝える……やっぱり言葉は難しい。でもそれゆえに素晴らしいです。

さてさて食欲の秋。コンビニスイーツで太ってしまって悲しい、腰も痛いし、すっかりおっさん化しております。ちゃんとに御飯食べてますか? 
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