あたためますか

愛ってなんですか
たとえばそれで おなかは満たされますか
今月分の家賃が払えますか


愛ってなんですか
たとえばそれは ふかふか毛布よりもあたたかいですか
疲れた体を癒してくれますか
この連日連夜の不眠が治りますか


愛ってなんですか
たとえばそれは包帯のように
心の痛手をそっと包み込んでくれますか
消えたい死にたい生きていたくない
このどうしようもない想いを
救ってくれるとでもいうのですか


飲み干しても飲み干しても
カラカラに渇いて 決して潤うことのない
この心は一体なんなのですか



愛と名をつければ何でも許されてしまうのですか
どんなに酷い暴力をふるわれても
どんなにひどい暴言を浴びせられても
「愛してる故」と云われてしまったら
もう他に何も云えなくなってしまう


愛とかいうものの裏側には
皿がとびグラスがとび炊飯器がとび
罵声がとび憎しみがとび
包丁がとび
いますぐ殺せがとび
そうして咽びなく声がとんでいるというのに


目を閉じ蓋をして見ないようにして
きれいな上澄みだけをそっとすくって撫でているばかりで
それを知るまでは絶対に正体を現さない


その証拠に ほらごらんよ
都合よく語られた愛の残骸が
そこらじゅうに吐き捨てられてるじゃないの


それでも それなのに
なにゆえ皆 愛が欲しいと泣くのでしょうか


不安で不安で押し潰されそうな夜
ひとりきりでいるのが怖いから淋しいから
貴方の声を聞きたくなって
貴方のぬくもりに触れたくなって


深夜2時に電話して嫌われる


愛は簡単に人を狂わすのです
愛の温度なんて
あたため続けなければ
すぐに冷めてしまうものなのです
コンビニのお弁当みたいに
レンジでチンすることなんてできないのです


愛はまるで使い捨てカイロのようです
あたたかいうちはいいけれど
冷めてしまったらもう用済み
ポイですよポイポイ


     他人を殺すこともあるでしょう
     弱いものを苛めることもあるでしょう
     互いに憎しみあっているのに
     見返り欲しさに離れられない関係もあるでしょう
     邪魔だからうるさいからめんどうだから
     まだ幼い子供を置いて 出て行ってしまうこともあるでしょう
     自分のことしか考えていないくせに
     離婚しない理由を子供に擦り付ける親もいるでしょう

     家にも学校にも会社にも居場所がなくて
     どうしようもない気持ちをクスリで誤魔化そうとしてみたり
     散々暴力をふるわれたあと 泣きながら抱きしめる男と
     いつまでも離れようとしない女もあるでしょう

     こんな ただ重くて暗いだけの詩しか書けないくせに
     同じ思いをしながら言葉にできない人たちに
     声をあげやすくしたくて書いてます だなんて
     自分のためにしか書けないくせに
     何格好つけたこと云ってんだか


愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
アイアイアイアイアイアイアイアイアイアイ
あああああもうっ
お猿さんでもあるまいし バカのひとつ覚えみたいに
それで傷つく奴だっているんだよ
それで生きづらくなってる奴だっているんだよ
そんなに大事なもんなのか愛って奴は
そんなに必要なもんなのか愛って奴は


そんなに大事なものなら
なんでそう簡単に壊したりなんかするんだよ
そんなに必要なものなら
なんでそう電車に傘忘れてきちゃうのと同じレベルで
どっかに置き忘れてきちゃったりするんだよ


痛いよ 痛いってば
壊れた愛の破片が心の奥深くに突き刺さって
痛くてしょうがない


怪我をするのは何も ガラスの破片ばかりではないのです
都合よく語られる実体のないものに
首を締め付けられることだってあるのです
血の涙を流すことだってあるのです


愛は決してきれいで美しいものなんかじゃないのです
血なまぐさくてグロくて生々しくてとても残酷なもの



そうして あたしから最も遠いところにあるもの





それは一体 なんですか
陽炎
2012年02月03日(金) 04時57分30秒 公開
■この作品の著作権は陽炎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最近、毎日寒いですよね(冬だから当たり前なんだけど)

久々に詩を書いたら、またしてもこんな長くて暗いものになってしまいました

2月5日 「実態」→「実体」に訂正しました(Physさんからのご指摘により)

この作品の感想をお寄せください。
No.8  陽炎  評価:--点  ■2012-02-23 21:51  ID:dJ/dE12Tc8A
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☆ザイチさんへ☆

返信が大分遅れてしまってごめんなさい
いつもいつも丁寧に読み込んでくださって
本当にありがとうございます

「愛」とかいうものがなんなのか
私にはよく解らないし
だから偉そうなことはなんにも云えないけれど

「愛」ってやつはきっと、
生半可な気持ちでいじくったりもてあそんだりしたら
とんでもない痛手を喰らうはめになってしまうものなんじゃないかと
そんなふうに、私は思います

ザイチさんの心に何かしら迫るものが残せたとしたら
とてもうれしいし、書いていく糧になります

いつもホントにどうもありがとう

余裕が出来たら、またメールでもお話しましょうね

ではでは
No.7  ザイチ  評価:0点  ■2012-02-19 11:40  ID:pU9enW1mras
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愛という不確かなものに、とことん聞き耳を立て、とことん目をそらさず、
向かい合っていこうじゃないかという、潔いまでの信念がうかがい知れます。
いや、というか、向かい合わざるをえないような、悲しみ苦しみも、
血の滲む痛々しさが、ものすごく膨大に語りかけてくる。

「家にも学校にも会社にも居場所がなくて」
の蓮で、ぐっと涙があふれてきました。

「愛は決してきれいで美しいものなんかじゃない」

陽炎さんの詩は、いつも真に迫ってくる。
私の師とする、詩人ランボーの言葉で「詩人は何もかも経験するべきだ」という言葉があります。
私もこんなこと知らなくてもいいから、平和に生きたいと思っておいた頃もありましたが、どん底まで落ちないと見えてこない、人間の真なるものがどれほど人生の大きな収穫か、長い間かかったけど、苦しんできたことは、生き続けていれば決してマイナスだけでは終わらない、その何倍にもプラスになって帰ってくることもあるんだなって、思うときがありました。
なんて、偉そうなことを書きましたが、陽炎さんの苦悩の日々は、無駄じゃない、物を書くことで輝きにも変換できる、そういった詩人のしぶとさみたいなものを感じ、いつも感慨深く読ませてもらっています。

相変わらず、評価のつけられない性分を理解していただけていること、心より感謝します。
こんな私を心の内を話せる、無二の友だちだと思ってくれているなんて、本当にありがたい限りです。
今までと変わらず、陽炎さんの行き先を見守らせてください。
No.6  陽炎  評価:--点  ■2012-02-06 16:45  ID:dJ/dE12Tc8A
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☆ゆうすけさんへ☆

いつもいつもこんな長くて暗くて重い詩にお付き合いくださり
本当にありがとうございます

‘愛’については、数多いる詩人たちによって
手をかえ品をかえ語りつくされてきた
云ってみれば一番手垢のついたテーマですよね

それがあるのかないのか、はっきりわからないままに
信じるの信じないの、ああでもないこうでもないと
まったく、うるさくて仕方がないですよね

この詩は、まったくもって個人的な感情そのものです
生まれて35年、その中で見てきたもの
見せ付けられてきたもの
いやでも目に入ってきてしまったもの
そういったものをどうにか形にしたくって
書き上げたものです

それでも、ここに掲げた問いに対して
真摯に考えていただけて本当に嬉しく思います
きっとものすごく片寄った考えなのかもしれませんが

私には愛の実体がよくわからない
信じるとか信じないとかの前に
‘愛’という名の裏で苦しめられている人間もいる
泣いている人間もいるんだということを書きたかったのです

いやでも、多分私が書かずとも、もしかしたらもうどこかの詩人が
そういうことをとっくに語っているかもしれませんが……

ゆうすけさんと私は、育った環境こそ違うけれども
どこか似ているところがあるのかもしれませんね
(あ、ごめんなさい。こんな暗い奴と一緒になんてされたくないですよね)

自分のためにしか書けないくせに
何偉そうなこと云ってんだかって感じですよね
でも実際、ほんのちょっぴりでも
‘私も僕も、自分の話しを聞いてほしい、話してみたい’
と思ってもらえたらいいなと
それは誇張でもなんでもなくね
ホントにそう思ってるですよ

だからゆうすけさんが私の詩を読んで
自分のことをほんのちょっとでも語ってくれると
なんていうか、すごく嬉しいんですよね
いや冗談じゃなしに、ホントに嬉しいんです
うまく云えないけど、救われた気がするんですよ

いつも丁寧に読み込んでくださって
本当にありがとうございます

心より感謝
No.5  ゆうすけ  評価:50点  ■2012-02-05 14:19  ID:YcX9U6OXQFE
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愛ってなんだろう? 
色々ば場所で見つけた問いですね。
対価や報酬や見返りを求めない、純粋に慈しみ守り励まし褒め癒す事でしょうか? それだと男女間においては「愛するぐらい愛させることを願う」時点で利己的な欲求に落ちてしまいますね。
大上段に構えた金科玉条、伝家の宝刀、或いは黄門様の印籠の如く振りかざされた愛、考えれば考えるほど曖昧で掴みどころがないように思えます。

注ぎ続けないと枯れてしまう「割れた愛の器」求め続けて満ちる事のない渇いた心。いつか、与えて満ちる「愛の泉」を見付けたいものです。

「声をあげやすくしたくて書いてます」何格好つけたこと云ってんだか←ここら辺、私はげしく共感。昔書いた日記を思い出します。「いつか、いつの日か、心弱き人を照らす希望の光となりたい」我ながら恥かしい。
なんだか陽炎さんの詩を読むと、心の奥にしまっておいた部分がにょこっと顔を出してきます。SFホラミスでギャグを書いている「ゆうすけ」と別人だと思われるかも。
 己の情念主観を込める詩、私は好きですし私の小説も影響を受けていますよ。詩を学ばんと欲せば工夫は詩の外にあり、という言葉もありますしね。面白い小説を書くには詩も読まねばってわけです。
えーと、また好き勝手に語っちゃいましたね。ちゃんと感想も書かないと。
たたみかけるような感情の奔流に、言葉遊びのアクセント、そして問いかけ、それらがじゅわーっと沁みてきます。

寒い夜はお酒じゃないでホットココアとか飲みましょうね。肉を食べて肉食獣になれればなおいいですよ。とにかく己の肉体と精神を愛してくださいね。



No.4  陽炎  評価:0点  ■2012-02-05 10:31  ID:dJ/dE12Tc8A
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☆Physさんへ☆

初めまして
読んでくださいましてありがとうございます
心に残る作品、とまで云って頂けて
正直、ちょっと舞い上がってます\(^o^)/
他の作品も読んでくださってるとのこと
重ね重ね、本当にありがたいです

ご指摘の箇所は、仰るとおり
俗っぽくて浮いた言葉かもしれません
ただ、一番解りやすい喩えではないかと思い
その言葉を用いました

あと「実態」
あとで意味を調べたら「実体」のほうが正しいようですね
なので訂正しておきます

私の詩は、決して万人受けするものではないと
自分でも解っていますが
そういう中で、心が震えた、素敵な詩だ、と云ってもらえると
書き手としてとても救われる思いです
本当にありがとうございます

心より感謝


☆まいさんへ☆

いつもありがとうございます
戒めのつもりで書いたわけではないのですが
友達でカトリック信者の人がいるんですけど
その人とよく愛や罪や償いについて話していて
それに影響を受けて出来た詩だったりするんですね

まいさんはまいさんの思うとおりに書けばいいと
私は思いますよ

まいさんにしか書けない想い、というものがきっとあると思います
焦る必要なんてないし、急いで書く必要もないとないですよ

まずは、何を表現していきたいか
自分は何が書きたくて詩や小説を始めたのか

そこらへんをじっくりと自分の中に問いかけてみてください

きっと答えが見つかるはずですから

書くことに臆病にならないでください

そしてね、まいさんの作品を読むのを
とても楽しみにしている人間がここにいるということを

心の隅にでも置いておいてもらえたら
とてもうれしいです

いつも本当にありがとう
心より感謝


☆謝染はかなしさんへ☆

久々のはかなしさんからのコメント
共感することも理解することもできなかったのに
わざわざコメントを書いていただいてすみません

仰るとおり、自分の身の回りのことしか書いてないです
想ってもいないことは書けないし
それこそ「上澄みだけを掬った」ような詩は書けないのです

愛とかいう、名前のないものに
なぜ人は翻弄されてしまうのか

それが今回のテーマでした

与えることこそ愛だとか
見返りを求めるなんて愛じゃないとか

ホントにそんなこと思ってんの?って
私なんかは疑問に思ってしまいます

よく人に指摘されるのですが
私はかなり自分の考えに固執してしまう性格で
他人のアドバイスを、聞いてはいるけど
絶対に曲げないところがある、らしいんです

だから逆に、本編の中で問うている「愛ってなんですか」
これを読んでくださった皆さんに聞いてみたいな
という思いもありました
私の片寄った考えを丸ごとひっくり返すくらいの回答がないものかと

色々ごちゃごちゃいいました
生きてきた道も経験してこたことも違うのだから
理解できないのは当たり前だと思います
それをちゃんと伝えてくださったことに
深く深く、お礼を申し上げます

そういう人にも伝えることができるような作品が書けるよう
これからも模索しながら精進していくつもりです

心より感謝
No.3  謝染はかなし  評価:10点  ■2012-02-04 03:47  ID:hv10uFrSao2
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相変わらず、わたしには分かりません。

というより共感出来ないのでしょう。

わたしが咄嗟に考えてしまうことばかり書いてあって。自分の周囲にある玩具のことしか話してなくて。

陽炎さんの中には、陽炎さんが見てきた愛しかないのかと思うと。寂しいですね。
No.2  はしずめまい  評価:30点  ■2012-02-04 03:04  ID:GWcRNeDnHto
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戒められているような気がしました。

それから、わたしには決してできないと思いました。陽炎さんのように上澄みを掬わない詩を書くことが。

憎しみがいっぱい? 自己主張がいっぱい?
何がいっぱいになれば、書けるのだろう。上澄みの下の、澱む滓どもを。

またよませてください
No.1  Phys  評価:40点  ■2012-02-03 20:43  ID:bNm1u5c8Re.
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拝読しました。

普段あんまり詩板はお邪魔しないのですが、とても心に残る作品だったので、
少しコメントを残させてください。

淡々とした出だしから、にわかに切実さを増していく後半まで、とにかく素敵
でした。作者さまの生きた声を聴くことができたような気がします。読み手に
対して「開かれた」作品、という印象を受けました。(曖昧ですみません。汗)

>きれいな上澄みだけをそっとすくって撫でているばかりで
それを知るまでは絶対に正体を現さない
>都合よく語られた愛の残骸が
そこらじゅうに吐き捨てられてるじゃないの

このあたりがすごく好きです。こういう言葉がさっと出てくるようになりたい
なぁ……と思いました。陽炎さんの詩はいくつか拝見させて頂いていますが、
とても丁寧に言葉を選ばれている印象を持っています。内容に起伏があっても
文章がざらつかないというか、きちんと整っているのは羨ましいです。

ただ、切りつけるような言葉のならびはとても良かったのですが、

>なんでそう電車に傘忘れてきちゃうのと同じレベルで
どっかに置き忘れてきちゃったりするんだよ
>血なまぐさくてグロくて生々しくてとても残酷なもの

なんとなく、「レベル」とか「グロくて」みたいな俗っぽい表現は、本作の中
では浮いているような気もしました。もちろん、さほど本質的なことではない
ので、一読者が気になったこと、程度に記憶に留めて下さいませ。

あ、それと、
>都合よく語られる実態のないものに
は「実体のないもの」の方が意味が通るような気がします。(的外れだったら
すみません。汗)

本当に素敵な詩でした。読み終えて、ちょっぴり心が震えました。
また、読ませてください。
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