東北のまち: 青春五首

はしる春追い抜けわれのミニバンよバックミラーにみどりは眩し

 私は東北で働いていたことがある。業務は縫製工場の特殊ミシンの賃貸およびにメンテナンスサービスだった。勤務地は東北一帯。秋田県を拠点にし、青森、岩手、山形、宮城の縫製工場を、先輩に連れられて一緒にミシンを直してまわった。
 当時私はいつも先輩と一緒に行動していた。まだ車の免許を持っていなかったからだ。業務が終わってから時間のあるときには、自動車学校へと通った。
私が働きはじめたのは冬だったので、工業高校卒の先輩が、深い雪のなかを、ときどき車にのせて自動車学校まで連れていってくれた。そうしてあたたかい春になる頃には念願の免許がとれ、私は先輩が使っていた車を譲ってもらった。先輩は会社から新車をあてがわれた。自分の車を手に入れて、私の心は躍った。


折れ針を見つめた目玉は濁り居り街工場で首を吊りしか
銃のごとくミシン撃つ手に血はあかくここもまた北の戦線


 縫製工場には零細企業が多い。とりわけ東北の工場は貧しい気がする。私が最初に先輩から教えてもらった仕事は、郵便受けの中にサラ金の督促状が来ていないかどうかを確認することだった。時には債権回収の名目で、夜中に工場に侵入することもあった。賃貸料が滞っている客先から、特殊ミシンを回収するためだ。
 東北の工場というと、私は貧しさを連想してしまう。大きい縫製工場であっても、誤って折れ針を混入させてしまうようなことがあれば、アパレルメーカーから干されてしまう。だから小さなミスが致命傷となり、零落していく工場もあった。貧しさに絶望して、工場で首を吊ったひともあった。


髪の毛に湿る潮の香みづみづと女のような港町
貧しさも美しさももろともにやさしく抱きし青春のまち

 私は十七歳から十九歳頃まで東北中を仕事でまわった。山形では燃えるような紅葉を見た。秋田の日本海の凪の静謐なこと。岩手花巻の木々の厳かなこと。宮城仙台の街並みは明るい。気仙沼や石巻にも行った。気仙沼は海に面して窪んだ古い街で、小高くなった山側から街全体を見通すことができた。気仙沼にあった木造建ての縫製工場では、積み上げられた衣類に囲まれて、汗を流しながらミシンをメンテナンスしたことを覚えている。この工場も震災で倒壊してしまった。


おしまい。














■ ■ ■ ■


【年譜】

1991年:黎明期におけるエプロン学派に夢中
・素人人妻裸エプロン派
・学生系ギャルお姉さんお嬢様みなさま肉親系
・妹系、義母女子高生、女子大生痴女系列メイド科

1993年夜:中興の祖としての女教師に夢中
教師族

1995年夜:エプロン学派の逆襲に夢中
・裸エプロン学派
・スチュワーデス、未亡人部隊
・女子アナ部、コギャル教徒、ウェイトレス的
・レースクィーン種族

1998年:黒船襲来に夢中
・バニーガールズ的発想

1999年夜:ジャパニーズルネッサンスに夢中
・巫女

2000年夜:めがねクーデターに夢中
・めがね紛争、めがね内乱
めがねイデオロギー

2001年夜:安定期・不確実性の時代に夢中
・インストラクター、チャイナドレス

2002年夜:バスガイド、フリーター、令嬢に夢中

2003年夜:第二期性的十字軍/シスターに夢中

2004年夜:ミニスカポリス・リバイバルに夢中

2005年夜:アンドロイド/たくましき女の時代 I に夢中

2006年夜:戦士/たくましき女の時代 II に夢中

2007年夜〜:あらたなコンセプトの模索へ、えこエロい、ろぼエロい、夢中




追記
なんかしょぼいけど、さらしておこう。
・・・(´ρ`)ぽか〜ん




うんこ太郎
2011年10月19日(水) 23時24分44秒 公開
■この作品の著作権はうんこ太郎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
短歌五首書いてみました。よろしくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.4  うんこ太郎  評価:--点  ■2011-11-12 13:04  ID:iIHEYcW9En.
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藤村様

ありがとうございます。
初稿まで読んでいただいていたようで、頭の下がるおもいです。
お探しの寺山修司の詩集は「田園に死す」でしょうか。
私は寺山は花粉航海が好きです。

ところでタモリが寺山修司のモノマネをしている動画がYOUTUBEで見られるので、機会があれば是非ご見てみてください。
とてもおもしろいです。

ご感想、ありがとうございました。では。
No.3  藤村  評価:40点  ■2011-11-09 04:58  ID:a.wIe4au8.Y
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いつか感想をつけよう、寺山修司をおもいだしたので歌集が発掘できたらそれを読んで感想をつけよう、とおもっていたのですが歌集が出てきませんでした。そのあいだにいろいろ改稿がおこなわれていたようでした。ますます好きになりました。しかしバックミラーの歌は初稿のほうが好きだったような気もするのです。
えこエロい……。
No.2  うんこ太郎  評価:--点  ■2011-10-22 09:35  ID:MSnHZH1V1XI
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貴音さま

ご感想ありがとうございます。
リズムかあ。ご指摘の通りと思います。ありがとうございます。

ところで、短歌っておもしろいですね!
また次回があれば書いてみようかとも思います。

あと、三首目が印象に残ったようで嬉しかったです。
ぼくも三首目だけは一応それらしくなったかな、と思います。

それから、これは注釈含めてフィクションです。
念のため。



No.1  貴音  評価:30点  ■2011-10-22 04:11  ID:oMat/vwmsss
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読ませて頂きました。
東北地方は色々な工場が多いと聞き、
寒い地方なので昔は貧しいところだったのだろう
というイメージも持っていました。
でも詠まれていることは昔のことというよりももっと迫ってくる
感じでした。
私は3首目がとても印象に残ります。
特に戦線という表現がミシンの音と銃声の重なりとを強調して
緊迫した感じを伝えていると思います。
また、全体を通し、東北地方の厳しさとこの地方で過ごされた
懐かしさが伝わりました。

定型にこだわらない短歌を作られたのかもしれないので
恐縮なのですが、3首目と4首目の最後が字足らずなので
リズムが取りにくいように思えました。
前半がきっちりしていたので少し突飛に感じました。
総レス数 4  合計 70

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