ロンギヌスの告白


 

 なぜ突き刺したのだろうか
 彼が瀕死のからだで私を眺めているのを見て
 なお突き刺せるのは私が悪魔である証か

 彼の死は目に見えていた
 それでも私はピラトの命に従い
 彼に止めを刺してしまった
 その時わたしの弱り果てた目に
 彼の脇腹から流れた血が伝ってきた

 私は彼と一言も口をきいていない
 未来永劫私はそのことを悔やむであろう
 弱った彼に慰めの言葉を与えることもできたのだ
 何か問いを発すれば
 私の生の暗雲を除く言葉を返してくれたかもしれぬ

 嗚呼呪われたる我が槍
 私はこの槍を握ったがばかりに
 ついに神を殺すという役目を担ってしまった
 嗚呼呪われたる我が運命

 閉ざされた雲の合間から
 茫然と地面の石を見つめていた私に
 何者かの声が届いた
 それは私の知っている言葉ではなかったが
 私が昔与えられた母の愛情を想わせた

 ロンギヌスよ
 汝は騎士の身分を捨て
 修道士として神に仕えよ
 それがお前がした罪に対する贖いなのだ

 奇妙なことに私の目は
 前よりも視力を快復していた
 私は明晰な啓示の到来に心が震え
 涙ぐましい姿になった神の御子の足元に平伏した


鈴村智一郎
http://slib.net/a/178
2011年01月04日(火) 20時49分01秒 公開
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No.4  鈴村智一郎  評価:--点  ■2011-01-31 01:43  ID:r/5q0G/D.uk
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としおさまへ

ご感想、本当にありがとうございます^^

そうですね、私も死亡確認のためであったという文章を読んだことを思い出しました。
典拠はウォラギネの『黄金伝説』で、福音書の記述との対照に注意を向けられなかったように思います。
有り難い指摘、本当に嬉しいです。

どうもありがとうございました!^^
No.3  としお  評価:30点  ■2011-01-30 21:09  ID:kWriX7DAQx.
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 読ませていただきました。
 とても、美しい詩ですね。
 ただ、このTC、いえ、日本でこの視が理解されるかどうか……と言われると、やや、と、思わざるを得ません。恐らく、キリスト教の概念も、いえ、それ以前に神≠フ感覚も、西洋のキリスト者と、日本人では大きく違うものでしょうから。
 ただ、一点指摘させていただくと……ロンギヌスがキリストを刺したのは、死亡確認だったのでは? と私の記憶には残っているのですが。
 当時の磔刑は、政治犯に用いられる最高刑で、見せしめを目的とした、長く苦しませる℃刑でした。故に、磔にされた者は呼吸困難で糞尿を垂れ流して苦しみ、一週間近くかかって死亡する、それでもまだ死なない場合、足を折って窒息死させました。現に、イエスの両隣の罪人は、足を折られて窒息死しました。そんな中、政治犯として処刑が決まったイエスが槍で殺される、と言うのは、やや、法律的に解せない、と言う点です。
 記憶違いだったら、ごめんなさい。
 それでは。
No.2  鈴村智一郎  評価:--点  ■2011-01-07 00:38  ID:r/5q0G/D.uk
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香咲ふう様へ

御拝読に感謝いたします。
とても丁寧にお読みくださり、しかもロンギヌスについてお調べまでしていただき、恐縮でありつつも嬉しく感じました^^
私はカトリックなので、こういうテーマで一つ詩を書いてみよう! と思い立って書いたものです。
絵画のようなイメージを抱いてくださって、私が書いていた時にイメージしていたものが伝わったのかもしれない、と思いました。

どうもありがとうございます^^
No.1  香咲ふう  評価:30点  ■2011-01-07 00:03  ID:aNf544Ntfvo
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はじめまして、香咲(こうさき)ふうと申します。

初めに告白しますと、私は無知なため、ロンギヌスやピラトという人物に心当たりがなく、最初にこの詩を開いたときは最後まで読み切らずに素通りしてしまいました。。(``*スミマセン。でもやっぱり気になって、本日、人物名をちょっと調べてから拝読させていただきました。
読んでおいてよかったと思いました。
私はあまりこういった方面には疎いのですが、なんというか読んでいるうちに、一つの大きな絵画が目の前に現れ出てくるような印象を受けました。

>なぜ突き刺したのだろうか
>彼が瀕死のからだで私を眺めているのを見て
>なお突き刺せるのは私が悪魔である証か

ここの出だしの表現にもぐっと心をつかまれ、そのまま一気に、描かれていく場面を目で追っていった感じでした。こういう雰囲気の詩は、あまり出会ったことがなかったので、読んでいて(こう言う表現はちょっと変かもしれませんが、いい意味で)面白い作品でした。
また読ませてください。ではでは(^▽^
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