世界に挑む平成建国政権 後編 第5章
                       2012.12.03
 第5章 政権2期目の主要政策方針
      次世代産業育成方針と国民に公表を憚る政策方針を決定する。
 第6章 
      
 第7章 
      
 第8章 
      
 第9章 
      

【前編 あらすじ】
 2013年3月末、東京都の防災訓練に乗じ陸自の一隊が折から予算案審議中の国会
へ乱入し占拠すると共に、閣僚及び衆参両議員を拘束し国権の指揮命令系統を遮断する。
 陸幕長は直ちに陸自テロ即応部隊を防災訓練の延長として出動させ、議事堂を包囲さ
せるが、占拠隊が敢行する議員達の人質作戦に武力解放が容易ではないと知る。
 日本国はかかる事態に対処する指揮命令系統もないまま日時が過ぎてゆく。この間、
占拠隊は暫定憲法発布を総理に迫り、占拠隊の別動隊は暫定憲法をネット公開し国民の
賛同を求める。
 約1カ月経過後、遂に自衛隊統合幕僚長は超法規的にテロ即応隊の議事堂突入を決断
する。占拠隊は決戦に備え議員達の爆死を告げ、その恐怖感を利用して議員達による暫
定憲法の可決を獲得し、2013年4月末に政権を樹立した。

 そもそもこの政権の樹立は20年弱前に現・中西外務大臣がハーバード大学に在学中、
世界経済は間違った方向へ進んでいると考えた事に端を発し、別居中だった実父の支援
を得て同在学中の親友、現・香山総理が、嘗て別居の母子環境中に入学を希望した思い
入れ深い日本の防衛大学へ共に入学、中西と香山が主催する研究会に心ある多くの賛同
者を得たことに始まる。

     第5章 政権2期目の主要政策方針

 2014年7月中旬に訪米した中西外相はハーバード大学での講演において、日本の
新しい民主主義と経済政策について分析のため、学生諸君を招待すると約束していた。
政府は政権第2期目2018年3月1日に総勢60余名の学生を招待し約束を果した。
 人選はハーバード大学に委ねた結果、招待者には大多数の米国籍ハーバード大学院生
と十数名の全米の著名な大学院に留学中の各国学生も含まれていた。
 彼らは政治、経済、国民生活の3グループを編成し、政府の全面的な協力の下に各界
と接触し、また各地方にも足を伸ばし精力的に調査を行った。4月6、7、8日に国民
とネット対話集会を開いた。
 “自分は過去4年間に何が変ったか”にテーマを絞り、誰でもネット上で事例を発表
できた。彼らは3交代で24時間対応し、当日の参加申込者を地域別年代別性別に抽選
しながら参加者を決めた。女性の社会進出を象徴する次の事例があった。

「私は40代前半の女性です。3年前にはスーパーのパート従業員でしたが、2年間の
職業訓練を受け今は、福岡県庁の予算執行監視員をしています」
 予算執行監視員とは国民官の予算執行監査委員会が認定する監査機関が、中央行政府
と県庁、50万人を超える市の予算執行を3カ月毎に監視する制度に基づく、認定監査
機関に所属する監視員である。昔々に呼称した看護婦は殆どが女性の職場であったが、
今や同様に予算執行監視員は女性が大多数を占める職場である。2021年政権任期末
を目標に監視員の養成を行い10万人超えの市まで拡充する計画であった。
「女性の急激な社会進出に貢献した職種と聞いていますが、職業訓練の費用はどの様に
しましたか?」
「需要があるところ雇用が生れる、この言葉通り、私は九州予算執行監査会社の入社に
応募して採用され、2年間はパート程度の収入でしたが訓練費用は会社負担でした」
「それは恵まれた状況ですか?」
「業界では普通の状況と思います。採用が決まった点では幸運でした」
「よろしければあなたの家族構成を教えて下さい」
「夫と中学1年男子の3人家族です」
「ではあなたのご家庭は日本政府が発表する生活指数は何点でしょうか?」
「4点と思います。福岡県予算執行管理の仕事をしていますが、一人一人が行動すると
私達の子供の時代にはよい社会が築けると希望を持っています」
 また農村の70歳寡婦は次の変化を述べた。
「私は10年前に夫を亡くし農作業を止め休耕地として放置していました。3年半前に
休耕地を現物出資して農業法人に参加し、非現役世代とやらの時間勤務の職を得ました。
残念ながらこの半年は健康支障者となり勤務を休んでいます。医療費2割負担は厳しい
ですが、出資分の配当を少し得て生活しています」
「お子さんは居ないのですか?」
「いますが、20数年前に家出して音信不通です」
「これを見て再会できるといいですね。さて年金はどうなっていますか?」
「健康支障者ですから年金カットはありませんが、年金加入が遅く満期でないため年金
は少なく生活は苦しい状態です」
「生活指数は何点と思いますか?」
「農村の古家と農地がありますから今は評価2に近い3と思いますが、健康を取り戻し
勤務復帰できたら生活は楽になる筈です」
 政府は世帯構成毎に世帯収入額、世帯借入額、住居費、食料費(主食副食)の基準を
定め、各世帯がこれと乖離する割合から10点評価生活指数を定義し、1点以下を生活
保障対象と定め、評価2点を生活保障水準としていた。
 はじめネットの生中継だけであったが、テレビも彼らに特別中継を求め、彼らは一社
毎に2時間枠を抽選で決めて断続的な放映を認めた。
 政府が日英同時通訳に最熟練スタッフを担当させた点を差し引いても、家庭に国民の
生の声を届け各社50%台のテレビ視聴率は稼いだ事実は、マスコミに識者が躍り出て
愚だら愚だらと評論する報道手法に大きな刺激を与えた。
 政権にとり対話集会は、民主主義と国民官制度を新しい憲法でも死守したいと考える
支援にならなかった。ただ政権が目指した評論する国民でなく、政治に参加する国民の
育成に予算執行監視員制度が絶大な効果があると明確になった。中央と地方官庁の予算
執行監視が女性の社会進出の起爆剤となっている現状を政権と国民に強く認識させた。

 彼らは“訪日当初、軍事独裁政権のイメージを持ち、様々な制限や監視干渉を予想し
身構えましたが、それは危惧に終りました。私達は女性も含め夜間に何処へ出歩くにも
警戒を必要とせず、そして皆様の暖かい歓迎と親切なモテナシに心より感謝します“と
日本国民宛メッセージと共に次の調査概要を残し4月25日に帰国した。

 政治グループの概要
 暫定憲法に基づき政権を樹立するや直ちに次の様な統治機構革新を行い、これぞ真に
『人民の人民による人民のための政治』と、ある大臣が自画自賛している。
*統治機構の革新
a衆参議員、都道府県及び市区町村の地方議員はこれを廃止。
b行政府の長・国務総理と、司法府の長・最高裁長官は全有権者の投票で選出。
c抽選した全有権者数の1割が立法権を所有し、その多数決投票で法案を可決。
d抽選した国民官が法案の審議権と所定の権限を有して国民議会を構成。
e行政府は外務、防衛、治安、法務の省庁と国務府を除き企画行政の省として再編。
f都道府県の知事及び都道府県を統括する全国8地域の地方総督は公募によって選出。
g企画行政の省の大臣と地方総督が調整決定する国家戦略は都道府県の知事が執行。
h市区町村の長は選挙で選び民政を執行、抽選した住民が審議し住民投票事案を決定。
i国の非常事態毎に4種の指令部を発動し、その指令官は法を超える緊急指令も許容。
*地方行政職員には徴税の国税庁一元化により自主財源徴収が失われた点と、予算執行
監視員制度に不満を漏らす勢力と、一元化は国家経営の効率化に寄与し、地方格差是正
に促す。地方格差是正と云っても地方の努力や実績に応じた自由財源の配賦が行われ、
地方間の競争原理も働き決して悪平等ではないと肯定する勢力が存在する。後者は前者
を利権の復旧を目指す旧守派と呼び、ある大都市圏の地方域は特に勢力争いが激しい。

1.1億余の大人口を有する先進国が有権者の1割を抽選し立法権を与える民主主義は、
  EUの通貨統合にも匹敵する。
2.政権は暫定憲法が定める立法権者の立法権行使の結果に拒否権を保有し、独裁体制
  を色濃く残しおり未だ実験の域を出ない。
3.政権は8年の期間限定の独裁を宣言し、これは国民の政治関与の習熟期間であり、
  政府の政策を偏見なく国民に伝える報道機関の改革期間である。また議会制民主主
  義に拘る勢力と、報道機関の変革に抵抗する勢力排除のために、独裁体制の温存は
  致し方ないと理由づけた。
   私達は今後の進展を見守りたい。新民主主義として日本に定着し、世界に広める
   べきか私達は大きな研究テーマを得た。

 経済グループの概要
 日本の国務大臣が等しく私達に繰返した事柄は、世界が目指す経済のグローバル化は
間違っている。日本の政策は保護主義でなく国産品優先使用の自給主義である。各国の
法に従い経済活動する公平経済政策の下において、自給できる物品は輸入制限を認め、
自給できない物品のために輸出制限しない国際経済社会を提唱し、国際経済組織の改編
実現に率先努力中である、との主張であった。

 政権がその1期目に実施した主な政策は次の通りである。
A.対外経済政策に関して
*国産品優先による自給自足の経済政策を掲げ、TPPと日中韓FTAを破棄、WTO
脱退、自給の捗進状況に応じて輸出入制限を強化する。
*日本国外投融資銀行を創設し、当行に流入する外貨には国内専用為替レートを適用し
国際市場の為替レートを分け、為替レートに左右されない国家経済運営を行う。
*日本国外投融資銀行に流入する外貨は国外進出する日本企業に投融資し、特に進出国
の自給に資する様な戦略的支援も行う。
*国民が欲する物資の自給生産に必要とする資源の購入資金は、国外進出企業の収益と
主に国外移転を禁止する国家機密知財に基づく生産物の輸出代金を充当する。
*国外進出に伴う国外資産の購入費用と輸入資源の購入費用の低減を図るため、持続的
な円高政策を行う。このため国際市場に流通する円貨の還流を図り国家管理を徹底する。
*日本国内融資銀行を創設し、外国企業の日本進出に融資を行い外資の国内進出を促す。
*互いの進出企業の課税を低減する国際共生同盟を提唱。
*特に水、食料、エネルギーの自給と国産品を優先する公平経済政策を提唱。

B.国内経済政策に関して
*農産、水産、畜産に関る食料とエネルギーの自給の強引且つ強力に推進する。
*原発の即時廃止と代替エネルギー開発、被災地復興を推進する。
*国民が掛け金を預託する生活保障制度、全国民のために企業が納付する医療介護保険
制度、国が担い時には強制就労も伴う就労支援制度、3本建て社会保障制度の革新。
*予算案と財政革新
a国の特別会計を生活保障掛け金、医療介護保険金、国債、外貨の4つに整理統合する。
b国民に必須の民政予算と国家戦略目標の予算に分け、戦略予算総局が予算大枠を決定。
c道路、港湾、空港、鉄道、通信網、電力送配電網の社会インフラは国民の所有と定め、
 個人及び金融機関により国債売買を行う国債専用市場を創設し、国家予算に含まれる
 国債費を社会インフラの運用法人と国債専用市場に移転する仕組みを発足させる。
d市区町村による固定資産税を除き、国税庁は徴税を一元化する、及び生活保障掛け金
と医療介護保険金の集金を行い、その集金額は管理運用法人と支払団体へ夫々移送する。
e社会インフラの運用法人を除き、法人又は団体の差別なき課税、課税率標準40%、
 大企業は正規雇用人数に応じて標準+5%、中小企業は標準−5%の課税とする。
*果敢な開発投資と新規需要の創出による完全雇用(労働力人口−健康支障人口−就労
 不要の生活可能人口)を推進する。
*外国人及び外国法人団体の土地所有を禁止と、既取得土地の買戻しを実施。
*不法滞在者の強制送還を強化、日本国籍取得は帰化申請に統一し民族純化政策を遂行。

1.私達はこの民族純化政策について賛成しかねる。ただ外国人犯罪者の排除と、高額
  納税を嫌う裕福者が日本国籍を離脱した時に課す懲罰的な国籍復帰制限の目的は、
  ネオナチ的純化政策と同一視すべきでない、との私達内部に意見の相違があった。
  ただ世界のどこに居住しても日本国籍を有する限り、納税義務が負う法制度を研究
  すべきか、これも賛否が分かれた。
2.社会インフラは国民の所有、これが財政改革に結び付きつつあるのは、大部分の国
  債が国内保有のゆえであって日本の特殊事情から実現し得た。だが国際的には財政
  改革の手本を示した点では疑う余地がない。

 国民生活グループの概要
 国民は平成建国政権を名付け、政権の独裁体質を期間限定の条件付きで肯定している。
それは僅か4年の間に失われた20年を脱却して生活が向上し、国民が未来への希望を
取り戻したことに他ならい。

 国民各層の聞き取りとネット対話集会で明らかになった主な内容は次の通りである。
*この政権以前は成長戦略だ、それ金融緩和だの掛け声は勇ましいが、実際の政策では
旧態依然の使い古された補正予算のカンフルを施すに過ぎず、ただ群盲象を撫でる国家
理念なき政策に明け暮れた。平成建国政権は統治機構革新と迅速に政策を成遂げる独裁
の効果だと国民は異口同音に強調した。
*迅速な政策遂行は単に独裁だけでなく、統治機構革新により市民生活に関しては市区
町村、企業活動に関しては都道府県が公共サービスを担い、行政の効率化に負うところ
大との声も多く聞いた。
*ネット対話集会で明らかになった様に、政権が云うところの現役、非現役世代の圧倒
的多数がこの4年間に働き口を得ており、女性の職場進出が著しい。そして生活指数4
評価、日本人の生活感覚では中流の下を自認する階層の増加が際立っていた。
*社会保障では生活保障の厳しい現実に我慢を強いられると口々に表明する反面、国民
の医療介護は全企業に依存しており、非現役世代までは何とか雇用が維持されそうな点
に安心感を見出していた。更に次の様な学校教育改革が質実剛健な子供達を育て、子供
達の未来はよりよくなると多くの国民が希望を持っていた。
*学校教育改革
a義務教育における道徳教育、中学生の歴史教育、社会生活教育の充実。
b学校制度の改革と職業倫理教育の徹底。職業ニーズに基づく入学人員計画の徹底。
c教職員の国家試験制度の採用と研修制度の充実。
d老若男女の生涯教育の推進とTV及びネット利用による通信教育の充実。
e各種学校を徹底した職業ニーズに従い再編し、職業訓練の即戦力化と個人補助の充実。

1.政権が当初に約束した雇用を通じ世帯所得の倍増と、全国レベルの格差是正政策が
  効果を発揮しつつあると感じる。世界で進む格差増大の中で日本だけが中流回帰の
  実績を上げつつある点は私達の研究心を大いに刺激する。
2.特に予算執行監視員の職業は女性を通じ国民各層の政治意識の向上が顕著である。
3.政権発足1、2年の雇用促進は一部に就業の強制や職業斡旋ブローカの暗躍があり、
  相当な混乱があったと聞いたが、現在は落ち着いている印象を受ける。

 私達は最後にあたり、国民生活が短期間に向上した事実の見聞が、日本国民の勤勉、
我慢強さ、共助の精神に支えられる日本の特殊事情なのか、世界のモデルに成り得るか、
今後も研究分析を怠りません、と結ばれていた。

 香山総理は機会を逃さず通信行政総局・須崎担当大臣に命じ報道記者の国家試験制度
創設を25日に発表させた。須崎は記者懇談会席上で記者の職業を持ち上げて、
「私は職掌柄つくづく思うんです。皆さんの様な報道機関の記者は次世代の国民を左右
する教師と同様に、今を生きる国民を左右する極めて大切且つ重要な職業ですね」
 記者達は唐突に教師と比較されて戸惑いを隠せず、何を云いたいのか訝った。
「そこでねぇ、報道記者には教師同様に国家試験が必要と考えたんですよ」
 記者達はマスコミ担当大臣との打ち解けた懇談会で大臣の冗談だと考えた。
「国のお墨付きがある特に政治記者なんて笑い話が一つ増えますよね」記者達が笑う。
「いやいや、本気ですよ。近々法制化したいと思い打診しているんです。それに政治報
道は生情報を報道した後しか識者の評論できない様に報道法を一部改正したいんです。
この意味はですね、xxをする狙いだ、の様な推測記事は駄目。誰々はooを強調した、
の様な記事は予め先にネット情報で強調場面を報道して紙記事にする」
「大臣、無茶を云われたらテレビやネットは兎も角、新聞報道にそこまで要求されると
記事が書けません。死活問題です。4月1日であるまいし冗談も程々にして下さい」
「その点は納得のいく協議しましょう。ただ政権発足時に森林資源の保護を考え、紙情
報を半減すると発表した政策を思い起こして下さい。紙情報からネット情報へ迅速な移
行を望みます」
「そもそも何のために報道記者に国家試験を課すのか?」
「真実の報道とか報道の使命など試験を通じて再認識し、新報道法の主旨である事実の
報道を徹底して頂くためですよ。また一部の記者には職業倫理の徹底も含まれますが」
 後は喧々諤々の議論となり、試験の効果について疑問を殊更言い立て、例によって例
の如く言論統制の魂胆ありとの論理を展開し猛烈に反対した。
「そこまで云うなら訪問学生に習って、不誠実報道に泣かされた私の体験、記者試験の
必要性をテーマに国民対話集会を開く」と須崎は宣言し、
「NHKのBS放送の一波停止及びBS無料化を行う代りに、NHKの放送技術開発は
国家予算投入することも考えている」と付加えた。

 2018年4月27日、総理公邸で国議を開いた。
「本日は政権2期目の政策方針を決定する。手元の端末機に示す議案で国議を開く」
 日野靖男官房長官が開会を告げた。
 香山伸吾総理は最初の議案、次期政権が暫定憲法に基づく通りの統治を行うと述べる。
「2022年に発足予定の次期政権は現政権が保持する独裁権限を総て解除し、暫定憲
法に定める通り統治する。新憲法制定は次期政権に委ねる。以上は公開する。異存は?」
「異議なし。ただ予算と重要法案は既に立法権者の投票を実施している。その拒否権は
現政権末まで保持し続ける積りですか?」伊藤秀雄文科大臣が尋ねる。
「原則は持ち続ける。今後は慎重に考えて柔軟に対応する事もある。他には?」
 香山は大臣達を見回す。大臣達が頷くのを眺め、
「この件はこれで決定とする。新憲法にも国民官、立法権者制度の定着を図る。これは
政権の命運をかけ如何なる手段を使っても国民を説得する。新憲法制定には政権の関与
を否定しているので差当り公表しない。実現を目指す第一弾が報道記者の国家試験制度
であり年内に実施する。第2弾は政権発足時の計画通り報道用紙の供給を半減しネット
情報化を推進する。政治的に偏向しない公正な情報を伝える報道機関に創りかえる。言
論界の改革なしに立法権者制度は成立しないと心得て欲しい」香山は決意を披露した。
 財界、労組、官界、教育、法曹界などは報道機関を介して民意の支援を得て、時には
独裁を故意に強調し意図する改革を実現したが、香山は常日頃から報道機関を敵に回す
彼らの改革を最終決戦と位置付けていた。大臣達は香山の決意を充分に理解していた。
「報道機関及びその従事者が自らのメディアで意見を表明できない。これにはまだ相当
の不満が燻っている。追い打ちをかけて報道記者の国家試験制度とか報道用紙の半減は
不退転の覚悟が必要です。この件は私に一任して頂けますか?」
 通信行政総局・須崎雅彦担当大臣が香山を見詰め問いかける。
「勿論一任する。ただ必要な時は国議で事前に方針説明し進捗を報告せよ」
「了解です。試験は立法化する積りですから国議決定の手順を踏みます」須崎が答える。

「中西外相、外交についての説明を頼む」香山が中西に説明を促す。
「今から話す事は全て国家機密だぞ、よいな」
 中西次郎外相は機密と前置きし大臣達を見回して話し始める。
「北朝鮮の委託刑務所はフンナム郊外に建設を開始した。食料援助は第一陣が出港した。
在北日系人を介して人民に直接配給の準備完了は既に知っての通りだが、拉致被害者の
帰還話がまだ望ましいレベルに達していない。そこで北朝鮮のロケット発射を撃墜する
従来方針は表向き堅持するが、サイバー戦によりロケット発射と核実験を妨害できる戦
力に達した。よって北朝鮮がこの実行を企てる時はサイバー戦を実行する」
 安西和彦防衛大臣が口を挟む。
「サイバー戦は仮想敵国にも実戦可能です。5月に米軍とサイバー戦訓練を実施します」
「須崎、日本のサイバー戦の防衛能力はどうなんだ?」東健治厚生労働大臣が尋ねる。
「少なくとも世界の最高水準を維持している。国家レベルの重要データを保存する情報
センターは確実な防御システムを構築している。防御範囲を順次拡大する計画であり、
機密情報総局と緻密に連携している。それに毎年実施の通信セキュリティに関する国際
矛盾競技が、人的にも技術的にも大いに貢献している」須崎が答える。
 矛盾競技の賞金は1億円相当の米ドルであるが、優勝グループが日本政府と3年間の
雇用用契約結ぶと賞金は倍額となる。技術的に挑戦し甲斐のある有名な競技となった。
他国も似通った競技を始めたが、技術的に矛盾競技を凌駕できず日本の独断場である。
「極秘に実施する米軍との訓練で日本の防衛能力が解る筈だ」中西が付け足し更に、
「機密情報総局の工作員もほぼ実戦の域に養成できた。今後はサイバー戦力と工作員を
活用し事ある時は中、韓の反日感情を密かに煽動し自滅作戦を決行する。大島、両国の
工業製品製造企業の撤収を促進せよ」中西は大島郁夫経済産業大臣に命じる。
「はい、加速させます」大島が答える。
「さてそこでだ、2050年までに中国旧満州地域、ロシア北方旧外満州地域の2地域
と、北朝鮮に親日政権の擁立を目指す。我々が政権から退いた後も新憲法に立法権者を
残すと同様に、日本の長期国家戦略として残すため、2期目はあらゆる手立てを尽くす」
「エェ〜ッ、それってロシアや中国に独立国の誕生を工作する事ですか?」
 梅原真一環境大臣が素っ頓狂な声をあげて驚き尋ねる。
「火種は日本が造る。あとはその勢力を支援するって事だ。ロシアは効果の表れない極
東の投資に国力消耗させ、極東住民は生活の維持に困り必ず日本に救いを求める。だが
今は助ける時期でない。次に旧満州はかつて日本人の血と涙で産業基盤を整えた事実を
忘れてはならん。この地域は今も日本に親近感を隠し持つ。それにだ、世界史を紐解く
と尊大な巨大国家が永続した事実はない。両地域の潜在感情を刺激し、熟し柿の落ちる
時期を早める活動である。工作と呼べば北朝鮮の工作をイメージし人聞きが悪い。だが
国民は失われた20年から這い上る途上であり、遠大な国家戦略を理解するに至らない」
 中西はいつもの様に先見性のある考えを披露した。
「北朝鮮の統一は妨げるのですか?」有明小太郎農水大臣が尋ねる。
「そこは北朝鮮を望む形で親日化できれば妨げない。今後の北朝鮮外交に関る不確定要
素だ。硬軟を使い分けて北朝鮮に対処する。以上だ」
「中西外相の話は諸君に初めて公開した。諸君の身内にも他言無用の作戦である」
 香山は作戦の用語を使い改めて箝口令を伝え、政権2期目の重点目標を要約する。
「内政では議会制度と利権の復元を画策する勢力の排除に政権の総力を結集する。国防
はサイバー戦防衛と攻撃力を強化するため予算を増強する。経済外交では引き続き国際
共生同盟を推進する。事前に公表する場合は国産品優先に伴う輸入制限措置を認め、輸
出制限を原則禁止する新国際貿易条約とその機関の創設を提唱し推進する」
 この政権の大臣達は10年余の国策研究に時間を費やし、4年余の政権を担当した今
も揺るぎなく理念を共有していた。政権内の指揮命令が明確に反映する正しく軍事独裁
政権であり、2期目政策方針は異議なく決定したかに思えた、が・・・

 大島が2期目の主要政策の追加を要望する。
「次政権以降の長期国家戦略を云うなら、研究投資を倍増し次世代産業の育成も2期目
の政策方針としたいのですが?」
「それは賛成です。当然に基礎研究予算も倍増願いたい」伊藤文科大臣が賛意を示した。
「予算分捕り合戦の様相だな。まぁいいだろ、大島、話してみろ」中西が指名した。
「日本の産業界は当面の国力を維持する世界に誇る水供給、新幹線鉄道、新素材・部材
など諸々の技術はあるが商売に結び付ける知恵がない。この知恵を持つ社会ニーズに適
合する人材育成の更なる強化と、健康支障者の労働復帰を促す医薬、医療分野を早急に
強化する。ロボットの進化を促す技術、海洋資源の産業化推進、原発廃炉と高放射線廃
棄物の金星投棄宇宙技術の4分野を特に提案したい」大島が要望を述べた。
「それらは裾野が広い。雇用を増大させる投資は大賛成だ」東健治厚労大臣が発言した。
「海洋資源の産業化はニッケル、マンガン他レアメタル、メタンハイドレードは外資も
導入した今の投資維持でよいではないか、今更海底石油の産業投資でもあるまい。海洋
資源の産業化推進は除き、宇宙太陽光発電はどうか?」梅原が異論を述べた。
 これは海洋環境汚染を恐れ、海洋資源開発に慎重な環境大臣らしい意見であった。
「熱核融合の意見はでないのか?」香山が水を向けた。
「いやぁそれは予算を倍増しても格段の促進が期待できない。大風呂敷より宇宙太陽光
発電に入れ替えて4分野に集中するべきだ」霧島達郎財務大臣が意見を述べた。
「格段に促進しないと決めつけられても困るが、まぁいいでしょう」
 伊藤は霧島を見詰めニャッと笑い、基礎研究費の倍増は確実と見做し欲張りを抑えた。
「他には?」更に香山が発言を促した。
「大島の云う人材育成は教育改革の成果を検証すべきで、予算倍増で効果はでない」
 大崎豊国交大臣が意見を述べた。柏木隼人総務大臣が発言する。

「教育は皆も一家言あるだろう。教育改革の検証は当然行う時期であるが、現在の政治
系専門大学卒業後に国民官見習い、政務官見習いに採用し淘汰して残る人材は所詮官僚
の育成である。次世代の総理、最高裁長官、大臣、副大臣の中央国務官、地方総督及び
都道府県知事の地方国務官の育成機関創設が急務である。我々の10数年に亘る研究会
は国家設計を行った。次世代の国務官は新創設養成機関の卒業者としたい。仮称“国家
設計研究所”の指導教官は差当り時間をやり繰りし現政権の大臣、副大臣、所長は当面
総理と中西大臣が共に就任してはどうか?」柏木が追加提案した。
「柏木大臣、我々の研究会は日本国家の設計だけでなく、世界を改革する世界設計も行
った。仮称とおっしゃるなら社会工学研究所がぴったりしませんか?」伊藤が発言した。
「今更研究所でもない。社会工学設計習練所は如何でしょう?」
 今まで発言しなかった最年少の安西勝彦防衛大臣が口を挟んだ。
「仮称だから名前は安西の通りでもよい。要は人間社会の全体像を工学的な手法で緻密
に設計できる総合力のある人材集団の育成にある。部分を職務とする人材育成は文系の
学校に委ねて置けばよい。数十年後には社会設計を実践する場合の問題点が、スパコン
でシミュレーションできる研究開発も必要だろう。航空機形状の設計の様に」
 柏木は少し舌足らずだが、工学上の設計検証がスパコンでシミュレーションできる時
代だから、国家設計、社会設計の検証も同様にできる研究開発の必要性を提起していた。
「その習練所にシミュレーションする研究開発部門も併設するとよい。柏木大臣の提案
を追加願いたい。習練所を卒業した人材なら自ずと統治機構革新の意味を理解できると
思うし、できる様に指導しなければならない」
「そうだ、そうだ。遍く地球生命は個体維持と種族保存のDNAに支配され、人間社会
はDNAの根源的な欲求をより多数が充足する如く社会の変革を繰り返した。人間社会
は個体維持と種族保存を充足する社会設計でなければならん。この理念も叩き込む」
「おい須崎、エェ加減にせぇ。その理念は中西大臣の受け売りだぞ」
 霧島の発言に大臣達が爆笑した。確かに人間社会はDNAの希求を充足すべく亀の歩
みで社会は変革を繰り返した。身分制度(貴族社会、奴隷制度等)を崩壊させ、労働、
資本階級を過去に追いやり、植民地帝国主義を消滅させ、個体維持と種族保存に致命的
ダメージとなる闘争や戦争の回避と、個人や社会のより多数がこれを充足する格差是正
に気づく段階に達した。この政権が遂行する政策は生命のDNAの希求を充足する理念
で貫かれていた。世界が国益と称する国家の行動は種族保存の発露であり、経済的欲求
や闘争は食料確保、個体維持の発露に他ならない。この政権が特に個人、地方の格差是
正に重きを置き、国際的に公平を主張するのは、この政権が社会設計理念を共有する集
団のなせる政策であった。教育に一過言を有する大臣達も柏木の追加提案に誰一人反対
しなかった。

「確認します。医薬・医療の医療は診断技術や臨床技術、臓器培養とその移植など基礎
医療を含み、世界に貢献する医薬・医療技術大国を目指したい。医療制度や医療施設を
産業化する事は反対である。この考えでよろしいですね?」東が念を押す。
「その意味が人道上は除き、産業化して外国人の治療を受入れない主旨なら賛成する。
日本人の治療が優先だ」純化政策の主導者・神崎哲夫法務大臣らしく東を後押しする。
 この政権の国議では各大臣は自らの所管に捉われず発言する。
「では医薬と医療、廃炉と高放射性廃棄物の金星投棄、宇宙太陽光発電、ロボットの4
分野を次世代産業として国民に公表する。関係大臣は今後15年程度の具体的な計画を
立案して貰いたい。仮称、社会工学設計習練所を創設する。伊藤は具体化せよ」
 香山は大臣達の意見を集約し次世代産業戦略として決定した。これは日本が宇宙の産
業化に大きく舵をきる意味を有し、いずれの分野もロボット技術の発展が必須である。

「では国務府・戦略予算総局へ所管の移管議案に移る」日野が第2議案を示した。
 宝源志郎戦略予算総局担当大臣が説明を始める。
「日銀、日本国外投融資銀行、日本国内融資銀行は国富管理指令部付特別機関の位置付
で国富管理指令部が判断事項を決定する管理を行い、当総局が監視、監査を行う2元的
に管理になっている。そこで本件は従来の金融庁と国家税制局の所管に加え、投融資と
融資銀行の判断事項等の管理を当総局に移管したい。本来の投融資銀行は国内親企業と
国外子企業間に於いて親企業が子企業へ輸出する物品代金を円転する際に、国際為替レ
ートより円安の国内専用レートを適用し、企業経営の安定化を意図したものであった。
今や日本企業の国外進出が著しく増え、本来の主旨から逸脱する事案の増加により、国
富管理指令部の判断事項も複雑となって担当人員が増え続けている。判断事項を戦略的
総合的に判断する機能は当総局が優れる」
「おい宝、チョッと待て。本当に総局が戦略的総合的判断に優れるか? 国外の外交拠
点に配属した指令部要員は物件の価値調査やカントリーリスク評価、国外進出企業が国
益に沿う活動をしているかなど、彼らの情報が投融資銀行の戦略的投融資を支えており、
民間の判断と違った国富国益の観点に立つ大所高所の判断をしている。確かに国内の情
報は総局が優れるだろうが、国外で身を挺して集める情報は、政治情報主体の外交官で
は得られない貴重な情報で判断しているぞ」中西が宝の説明を遮った。
「総局が管理と監視、監督の一体化は如何なものか? 総局は国外投融資、国内融資の
総枠を定める、及び金融庁と同様な銀行の安全性や監視監査の従来通り業務を行い、個
別の投融資判断は当該銀行と指令部要員に委ねても良いのではないか? それに民間人
による予算執行監視制度に馴染み難いので移管より監査監視を充実すべきだ」
 柏木も疑問を投げかけた。曽根信也治安行政総局担当大臣が発言する。
「中隊長お二人の意見の前に、宝、本来の主旨とか逸脱とやらを説明してくれ」
「こら、今頃中隊長は止めろ、宝、説明を」柏木は曽根を叱る。
「国外の子会社は国際レートが円高でも円安の専用レートが適用され日本から安く輸入、
すなわち安く仕入れるので収益の源になる。但し子会社の全仕入れ比率5割以下に適用
する条件がある。なぜ5割の条件を設けたかだが、皆さんご承知の様に、当初は日銀券
を印刷し世界を買い漁るとの非難には、国外進出企業の仕入れ資金又はその収益で買収
していると世界を納得させた。輸出補助金だとの非難も為替の乱高下は経済に好ましく
ない、との国際認識に従う乱高下防止策であると説得している。そして親子関係はメー
カの子会社が現地で製造する製品の部材を親会社が輸出、供給する事を想定していたが、
今や殆どの輸出が子会社を経由し、商社子会社は都市建設、発電事業等々の大型案件に
参画し、本来なら最終製品も一部現地加工して大型案件の部材扱いで全仕入の5割未満
を整え円転適用を受けている。またメーカ系子会社が商社機能を持ち、上手く5割未満
の制限内に収めて輸入を代行する。酷い場合は他企業の投資収益を物品輸入に偽装する
事例もある。これ等をチェックしなと、再び輸出補助金の非難が生じ貿易紛争に発展し
かねない。当総局は国税庁と協力し親会社の調査が徹底できる」
「宝よ、それは親会社の増収に寄与する話だろう。猫にカツオブシを捨てろと云っても
無理だぞ、所管する私が断言する。徴税当局は収益が増え税収が増える事は目つぶる。
極端な話が粉飾決算だって証券取引委員会の問題と素知らぬ顔する。要するに云いたい
事は国税庁をあてにするなって事だ」霧島が発言する。
「企業収益の円転偽装は一先ず円安の円転で円貨を受取り、改めて民間銀行で国際レー
トにより円売りドル買いを行い海外投資すると、収益で得たドルのまま投資するよりも
専用レートと国際レートの差額だけ有利だから企業も偽装に走る。仕入5割を守る限り
多少の目こぼれは良いと考えてはどうか? 確かに大手商社はうま味が大きいきらいは
ある。でもまぁ企業が儲け雇用も増え、税収も増える。日本の企業進出を歓迎し、5割
の現地仕入でも満足する国もある。その非難だが、為替乱高下防止策の主張を貫き通し、
そこは中西外務大臣に委ねようじゃないか」大島が発言する。
「話が本件から逸れる。宝、何が問題で移管したいか簡潔に説明せよ」日野が命じた。
「国富管理指令部の人員が通常時に増大し続けてもよいか? この指令部を国務府の組
織に編入するなら別だが」宝が答える。
「それだけか? 国外配属の指令部要員は外務省費用で賄っている。平時に国内指令部
要員が増え続けるのは問題だが移管と別問題だ」中西が否定的意見を吐いた。
「宝、お前としたことが理論の組立が悪い。平時に国家情報分析部以外の指令部要員が
増える点は問題ではある。この点を踏まえ再度各大臣間で協議し直せ。本件は却下する。
日野長官、よろしく頼む」香山が決定を下した。
 国議では政権発足の初回に決めた嘗ての中隊長は職名を付し、他は名前の呼び捨てを
今も継続している。各大臣間の協議調整の議長は官房長官であり、香山は日野に調整を
委ねた。なお付加えると、所管大臣と地方総督との協議調整の議長は総務大臣である。
数人の事務職員を従える地方総督は所属する知事を統括し、知事が政策を執行する。

 日野が次の議案に進める。
「続いて第3の議案、輸入関税ゼロの実施と国内対策について、有明、説明を」
「本件は20カ国地域首脳会議において、総理が国際貿易機関の新設提案する先取り対
策の意味を持つ。“自給政策に基づくものは輸入枠を公表して自由な輸入制限を認め、
輸入制限品は全て関税0とする。制裁的輸入制限や輸出制限は国交断絶若しくは新提案
の貿易機関加盟国の過半数の賛成を得た時に限りできる“この提起によりWTO脱退、
貿易交渉拒否の姿勢変更を国際社会に訴え、交渉復帰を模索したい。そこで関税0の輸
入品は国家管理せず、地方域の需要に応じて各地方域が輸入量を決め、輸入業者の選定
を入札で行う。但し輸入業者は輸入品と国産品の抱き合せ販売を義務付け、安価な輸入
品が国産品を駆逐する弊害を防止する。本件は既に経産省及び地方域と一応の協議をし
ており、国議決定次第、実施細目を詰めたい」
「価格の安い輸入品は消費者価格に反映されるのか?」神崎が尋ねた。
「輸入品目や輸入数量によっては価格に反映するし、そう指導する」有明が答えた。
「となると、低価格の故をもって自由貿易論者が勢いを増す。それをどう抑えるのか?」
「神崎、そこは国産品優先、自給政策が雇用を守っていると国民は承知している筈だ。
少数意見に留まり神経質になる必要はないだろ」東が反論した。
「東、それは甘い。マスコミがこの件をどう報道するかで国民は変る。国民は未だマス
コミの報道に操られないレベルに達していない」神崎は懸念を指摘する。
「総理、本件は立法権者投票を行い、必要なら拒否権の発動はどうでしょう?」
 大島が香山の顔を眺めながら尋ねた。
「本件の法案は投票にかけても、できるなら拒否権を発動したくない。須崎、マスコミ
対策の試金石と考え対処してくれ。よいな」香山が須崎に命じる。
「了解です」須崎が応じた。
「本件は政策のブレを印象付けないよう慎重に扱ってくれ。本件は有明の線で進める」
 香山が決断を下した。中西が補足する。
「要するに国際貿易に新機関が創設できない間、輸出入制限は外交圧力に利用できる」
 国議決定の法案事案は国民官の審議と国民世論の動向により、立法権者の投票可否が
決まる。この時に国民議会議長も国民官の審議を超え、マスコミが煽動する世論を苦々
しく思い、報道機関に申入れを繰り返すが、権力のチェックはマスコミである、との論
理を振りかざし改める姿勢が見当たらない。官僚が反対したい事案はマスコミを利用し
抵抗する。だがこの政権は国議決定前の反対は許すが、決定後は反対する大臣は当然の
こと、いかなる国家公務員も容赦なく罷免する。且つ立法権者の採決結果をも拒否する
独裁強権を保持する。

 5月下旬、USAポストが特ダネ記事を流す。曰く『我が軍と日本自衛隊が5月X日
にサイバー戦訓練を実施した。その結果、国防省は日本政府にサイバー戦の攻防技術の
導入を要請した。日本政府は攻撃技術に限る技術供与と引換に電磁パルス弾EMP技術
との交換を持ち出した』が主旨である。
 日野官房長官は間髪を入れず、
「サイバー戦訓練の事実も、技術供与の申し入れも事実無根である。政府は地球文明を
破壊する核に続き、電磁パルス兵器の開発を禁止する国際条約締結の主導国になりたい
と計画している。計画に照らしてもEMP技術交換の申し出はあり得ない誤報である」
 と決めつけた。USAポストはネット上に技術交換に関する日本政府の公文書コピー
を公開し、『日本政府は誤報だと否定している。ホワイトハウスも米国民の知る権利を
奪ってはならない』と主張した。
「USAポストが公開する公文書を政府の誰も見たことない。日本政府とUSAポスト
の問題に我々はコメントしない」とホワイトハウスの報道官は否定声明を発表した。
「日本政府にはUSAポストが公表する公文書は存在しない。従って偽物と断言する」
 日野は否定した。日本の報道関係者は政府報道官でなく、日野長官自らの否定に首を
傾げ、サイバー戦訓練の耳慣れない言葉にも真偽を図り兼ねた。迂闊な報道は報道法の
改定にも影響する点を恐れ各メディアは報道を控えた。
 日本国内一部の新聞はEMP開発禁止に関する国際条約提起計画の存在を有力政府筋
から得たと報じた。須崎通信行政総局担当大臣は朝刊を見るや直ちに、
「報道法改正後は、政府筋からxxの情報を得た、と報道する場合は、その証拠となる
現場を報道した後にしか記事にできない。この点を承知願いたい」と談話を発した。

 総理執務室午後8時、香山と中西、日野と渡辺機密情報総局長が応接椅子に座る。
「リーク作戦は成功だ、上手く連携できた。須崎もやるなぁ」渡辺が大笑いする。
「EMP開発禁止も前宣伝できたし、日本のサイバー戦力も世界に印象づけた」
 中西も満足げに応じた。
「サイバー戦は乗っ取り制御、侵入爆撃、回線爆破、指令部撃滅、盗聴監視、これ等の
防御から成る戦闘だが、香山、我が国サイバー戦力をどの様に再編したいのだ。再編次
第では戦力が弱体化する。その点は解っているだろうな?」渡辺が機先を制する。
「聞き慣れない用語を使うな、皆に解り易く説明せよ」香山が渡辺に尋ねる。
「ああ、乗っ取り制御は交通制御、電力制御、基幹産業など乗っ取り異常運転を強いる。
侵入爆撃は重要ファイル、データを消去する。差当り中央銀行等の銀行データを消すと
一国の経済混乱は測りしれない。回線爆破は基幹通信網に侵入し通信経路データを変更
し通信渋滞に陥らせる。指令部撃破はサイバー戦力の中核指令部を突き止めサイバー戦
の遂行を不能にする。盗聴監視は特定の個人のあらゆる通信を盗聴してその意図を分析
する。ザッとこんなところだ」
「解った。防衛網構築は従来通り通信行政総局、広域暴力団と特に麻薬密売組織の盗聴
監視は警察庁に新部門を創設する。サイバー犯罪捜査は従来通り警察庁にするぞ。渡辺、
これに異存なかろう?」香山は同意を求める。
「いや、自衛隊も機密情報総局も自組織の防衛網は自ら構築したい。攻撃と防御は一体
でないと両方が進展しない。自衛隊と我々の組織間で随時サイバー戦訓練を行いたい」
「最後まで話を聞け。機密情報総局は盗聴監視する主に国外人を倍増させたい。警察庁
は闇社会半減のため、合法的に1万規模の盗聴監視ができるようにしたい」
「今年にそんな予算はあるのか?」渡辺は咄嗟に懸念を口にする。
「予算は気にするな、手当済みだ。こんな組織は全容を公開できんのだから」
 中西が渡辺の懸念を払拭する。
「チョッと待った、各論に移る前にサイバー戦に関与する組織の役割を整理してくれ。
まず実務を担当する渡辺さんの考えを聞きたい?」日野が会合の原点に話を引き戻す。
「自衛隊のサイバー戦部隊は外国のサイバー攻撃を防御し反攻する。防衛・治安指令部
発足の非常事態にはサイバー攻撃を行う。仮想敵国を攪乱させる実戦能力は既にある。
機密情報総局の通信情報部は防諜、諜報、謀略のため常時隠密にサイバー戦攻防を行っ
ている。警察庁はサイバー犯罪捜査を担当しているが、総理は闇組織の盗聴監視部門の
新設を考えている。通信行政総局は全国的な防衛網構築を担当する」渡辺が要約した。
「自衛隊と機密情報総局が随時サイバー戦訓練する点は賛成だが、国の全体構想的防衛
は通信行政総局に一元化したい。サイバー戦訓練の結果で実行する自組織の防衛網の強
化手直し程度は良しとしたい」香山が自説を述べた。
「いやそれは逆にしてくれ、攻撃の中で発見した防衛構想をまず自組織で実行し、それ
を全体構想に格上げする。でないとサイバー戦の即応性が保てない」渡辺が反対する。
「話が飛び過ぎる、サイバー戦の訓練をもう少し話せ」中西が香山と渡辺を遮る。
 遠大な国家戦略を国議で明らかにしたからは、今までは3人だった会合に日野も参加
させた。中西は日野の予備知識不足を思い順序立てた話を求めた。
「我々とサイバー戦隊との訓練は、世界に構える我々の拠点から日時を定めず中央省庁、
民間基幹企業の第三者施設を侵入、乗っ取り攻撃する。サイバー戦隊は直ちに侵入遮断、
乗っ取り排除する防御と、我々の拠点を探査し侵入、乗っ取りの反攻を行う。こんなイ
メージがサイバー戦だ」渡辺が日野に説明した。
「訓練は警察のサイバー犯罪捜査に支障とか混乱を与えないのか?」日野が更に尋ねた。
「サイバー犯罪捜査は被害を生じた事案を対象にしているが、我々の訓練は疑似戦で被
害を与えない。互いのサインで訓練と判るし、痕跡も後に一切残さない。攻撃の即探知
や反攻能力と共に痕跡を残さない、これもサイバー戦の重要技術だ」渡辺が補足した。
「と云うことで、我々とサイバー戦部隊は共に切磋琢磨して攻撃と防御の研究が必要で
あるし、訓練結果から自らの施設は防衛網を直ちに築く。通信行政総局には訓練情報を
伝え、中央省庁と民間の第三者施設の防衛網を築く、通信行政総局の防衛一元化では実
戦部隊は戦えない」渡辺は一元化に難色を示した。
「切磋琢磨の言葉は綺麗が、各組織の重複研究や防衛構築に予算の無駄遣いが生じる。
やがて国民は機密情報総局の予算執行監視の強化を云うぞ」
 香山はやがて生じる懸念を口にした。機密情報総局は透明度最低の組織と予算である。
「サイバー戦技術の共有や警察庁を含む関係4組織の統合指令機能は必要だなぁ。機密
保持は絶対条件なので、表向きサイバー犯罪取締会議と称する4組織のマフィア的統制
機能を設け、諸問題を統合調整してはどうか?」中西が提案した。
「一体どこの組織が主導するのだ? 我々にそんな余力はないし、警察や通信行政総局
は機密保持に難点がある」渡辺が問題点を口にした。
「渡辺、統制機能に反対か? 反対でないならサイバー戦部隊だろう」中西が押した。
「反対ではないが、う〜ん、サイバー戦部隊なぁ。軍が民を統制する形式でいいのか?」
 渡辺はまだスッキリしない口振りであった。中西は渡部を説得する。
「統制でなく、サイバー戦に関する国の統合指令部と考えろ。軍とか民の垣根なしだ。
警察に創設する盗聴監視にもお前達の技術移転は必要だし、犯罪捜査の技術協力も必要
だろう。何かにつけて総力体制がいる。渡辺、お前が最も心配しているのは会議参加者
の退職後の機密保持だろう」
「そうだ。その時は我々に殺しのライセンスでもくれるか? まぁこれは冗談だが」
「ライセンスは冗談にしても私の責任において相応の措置を内規で縛る。中西の提案を
試み不都合な点は改善しようじゃないか? どうだ、渡辺」香山が賛同を求める。
「統合調整機能の必要性は認めるが、我々には秘密保持が絶対だから運用は難しいぞ、
だがまぁやって見るか」渡辺はもろ手を挙げて、ではないが一応賛成した。
 かくして自衛隊の防衛力を補強するサイバー戦実戦体制の方針が極秘裏に整った。

「ところで香山、闇社会半減を気安く云うが、極道ものや次郎長映画を見飽きない国民
だし、彼らを利用、活用する連中も後を絶たずだ。そう簡単でないぞ」渡辺が云った。
「承知している。だが外国勢力と結託する麻薬組織は徹底して駆除する」
「政権末までに各種勢力の駆除を考えている様だが、性急に事を進めると護衛の強化も
考えろよ。警察にしてもパチンコ利権を取り上げられた恨みが一部の連中に残り、必ず
しも警察のSPを全面的に信頼できない。良く心得ておけよ」渡辺が忠告した。
「渡辺、SPとは別に今まで以上にお前達が影の護衛をしっかり勤めろ」中西が云った。
「当然だが、護衛は本人の自覚がないと役に立たん。それを云うとる」
「国民の前をコソコソ逃げ隠れもできんが、精々気をつける」香山が忠告を受入れた。
 日野は香山と中西の関係は知っていたが、二人とこれ程対等な口を利く渡辺の存在を
初めて知った。初参加の会合で3人の関係を聞くにはまだ遠慮があった。
「日野、渡辺と俺達の関係が知りたいと顔に書いておるな」中西が日野の顔色を読んだ。
「そう読むなら教えてくれ」日野は渡りに船と応じた。
「渡辺は外人部隊を渡り歩いていた。香山がイランに派遣された昔、香山の命を2度も
救った大恩人だ。親友の恩人は俺にも恩人だ。それ以来、研究会に重要な外国情報を陰
で送り続けた同志だ。今後は遠慮なく渡辺とも俺、お前で話せ」中西が経緯を話した。
 香山が頷いた。香山は腐心するマスコミ対策を口にし、話題を変える。
「これは相談だが、昔の報道スタイルに凝り固まったマスコミの旧人類を早々に引退さ
せる良い知恵はないか? 国家試験制度だけでは露骨なことはできんしなぁ」
「そんなの簡単だ。弱みを握り脅せばよいさ。どうせ盗聴監視を強化するんだ」
 渡辺らしい解決策を云った。
「渡辺さん冗談はやめろ、総理はこれで真剣なんだぞ。闇社会の盗聴監視の強化だって
法務の神崎にまたまた悪役を背負わすんだからな」日野が冗談にして話を逸らせた。
「経営層の旧人類は業績悪化で退陣させる手はある。用紙供給の削減が使える。問題は
左の輩だ。筆があるだけに厄介だ。極端な奴は渡辺の手立てもありと思うぞ」
 中西も渡辺の手段を否定しなかった。
「それは止めて欲しい。まずは闇社会の盗聴監視合法化が優先だぞ」日野は反対する。
「まぁ直ぐの結論はよい、いつも気にして考えてくれ。もう遅いからこれで」
 香山は日野の反対もあり、話を引取って散会を伝えた。
大国主みこと
http://manpitu.blog.fc2.com
2012年12月06日(木) 10時35分12秒 公開
■この作品の著作権は大国主みことさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
世界に挑む平成建国政権 前編はHPのURLへ
時々の政治状況で急遽創作しました。
200兆円の利権に群がるシロアリ軍団が再集結しそうな状況は残念です。

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No.2  クジラ  評価:0点  ■2013-01-14 14:02  ID:52PnvSC7.hs
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連載は禁じられています。
No.1  帯刀穿  評価:0点  ■2013-01-08 17:04  ID:DJYECbbelKA
PASS 編集 削除
すべてをきちんと投稿されよ。
でなければ、投稿小説サイトというより、リンクを張り付けてあるだけになってしまいそうなので。
小説リンクサイトと、このサイトでは趣旨が異なる。
それから……この作品はどうも、完結していないのではないだろうか。
こちらの意見が間違っていなければ、今一度利用規約を読み直して、確認していただきたい。
何より、この作品は、SF/ホラー/ミステリの項目なのだろうか。どうしてもそう思えない。
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